「打倒・青森山田」に3年間を懸けた絶対的キャプテンが必死にこらえた涙。八戸学院野辺地西FW堀田一希の高校サッカーはまだ終わらない!

八戸学院野辺地西高の絶対的キャプテン、FW堀田一希(3年=ヴァンラーレ八戸FC U-15出身)
[11.4 選手権青森県予選決勝 青森山田高 3-1 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 もちろん悔しい気持ちがないといったら嘘になるけれど、それは後悔のような類のものではない。まさに絶対王者として、自分たちの前に立ちはだかり続けた最強のライバルを倒すため、みんなで1つになって3年間のすべてをサッカーに懸けてきた時間は、とにかく楽しかったから。

「今年はずっと『良いチームを作りたいな』と思って常日頃過ごしてきたんですけど、自分はどちらかというとそれも楽しんでできたと思いますし、キャプテンだからこそ責任感や自覚を持って、苦しい時こそ自分が引っ張りたいなと思ってやってきたので、今年1年、このチームのキャプテンをできて本当に良かったなと思っています」。

 八戸学院野辺地西高を力強く牽引し続けてきた、10番を背負う絶対的キャプテン。FW堀田一希(3年=ヴァンラーレ八戸FC U-15出身)はこぼれそうな涙を必死にこらえ、最後まで気丈な表情を崩さず、ファイナルの舞台から堂々と去っていった。

 1年前の高校選手権青森県予選決勝。八戸学院野辺地西高は0-9というスコアで、青森山田高の前に敗れ去った。屈辱的な大敗を副キャプテンとしてピッチで味わった堀田は、覚悟を決める。「その試合のスタメンの半分以上が今年も残るので、『今年は絶対に山田に勝とう』といって新チームがスタートしました」。

 だが、絶対王者の壁は高い。昨年11月に開催された県新人大会決勝では先制点を奪ったものの、結果的には1-2で逆転負け。再び対峙した今年のインターハイ予選の決勝でも好ゲームを繰り広げたが、一発を沈められて0-1で惜敗。青森山田を倒すチャンスは、もう選手権予選だけしか残されていなかった。

 もともとは県外の高校に行こうと思っていた。きっかけは八戸学院野辺地西のサッカー部に在籍していた4つ上の兄が、青森山田に敗れた試合。悔しそうな兄の姿を見たことで、「やっぱり自分もここの高校に入って、山田に勝って歴史を変えることに意味があるんじゃないか」と思い直し、堀田は兄と同じ高校の門を叩いた。

 入学時に立てた誓いは、少しずつ、少しずつ、現実味を帯びていく。2度に渡っての1点差負け。間違いなく実力差は縮まっている。「今年1年はすべてにおいて山田を意識して、山田に勝つための良い準備をしてきた中で、チャレンジャーとして良い雰囲気で試合に臨めたと思います」。果たすべきは“3度目の正直”。選手権予選もきっちり決勝まで勝ち上がってきた八戸学院野辺地西は、三たび青森山田と激突する。

 立ち上がりは上々だった。堀田とFW成田涼雅(3年)の2トップが前から果敢にプレスを掛けつつ、セカンドボールの回収でも青森山田を上回り、シンプルなアタックからゲームリズムを引き寄せると、19分には成田が先制ゴールをゲット。八戸学院野辺地西は1点のリードを奪う。

 37分には一瞬のスキを突かれて同点弾を献上。前半は1-1でハーフタイムへ折り返したが、「1-1は想定内というか、『0-0で折り返すのと一緒で、最初に戻っただけだ』とはみんなで言っていましたし、『後半は失点なしで、前半の前半でやれていたことをやろう』という話もしていました」と堀田も振り返ったように、チームの雰囲気は決して悪くなかったという。

 ただ、やはり青森山田はしたたかだった。後半4分にPKで逆転ゴールを奪うと、以降は八戸学院野辺地西のはやる気持ちを巧みに逸らせながら、次の1点も虎視眈々と狙っていく。

「後半に入って山田もギアを上げてきた中で、走り負けたり、セカンドボールを拾われたりと、すべてにおいて上回られたところはあったと思います」という堀田も18分にはMF芋田脩南(3年)の仕掛けからチャンスを迎えたものの、右足で打ち切ったシュートは相手DFが身体を投げ出してブロック。どうしても同点に追い付けない。

 終了間際の37分。青森山田に決定的な3点目が記録される。「山田の底力というか、全国で通用する勝負強さを実感しました。本当に1年良い準備をしてきたからこそ、結果を出せなくて悔しいですね」。そう話した堀田の耳に、タイムアップのホイッスルの音が響く。3年間追い掛け続けた背中には、あと一歩まで迫りながら、届きそうで届かなかった。

 準優勝の表彰式。キャプテンマークを巻くオレンジの10番は、必死に上を向いていた。

「スタンドの前に整列した時に、いろいろな人が自分たちに声を掛けてくれていたんですけど、そういった人たちに自分たちが歴史を変える姿を見せられなかった悔しさと、もう1つは信じて応援してくれた親とか家族、チームメイトに申し訳ないなという想いがあったんですけど、自分が泣いたら示しがつかないですし、この試合に出られなかったヤツらにも申し訳ないなと思って、涙を我慢していました」。

 負けたことはもちろんだけれど、ここまでの3年間を、あるいはサッカーを始めたころから自分を支えてきてくれた人たちに、笑顔を届けられなかったことが何より悔しかった。「今まで支えてくれた人に恩返しできなかったのは心残りです」。その一方でここまで最高の仲間と、最高のチームを築き上げてきたことには、キャプテンとして小さくない充実感も覚えていた。

「今年はずっと『良いチームを作りたいな』と思って常日頃過ごしてきたんですけど、自分はどちらかというとそれも楽しんでできたと思いますし、キャプテンだからこそ責任感や自覚を持って、苦しい時こそ自分が引っ張りたいなと思ってやってきたので、今年1年、このチームのキャプテンをできて本当に良かったなと思っています」。

 堀田はこぼれそうな涙を必死にこらえ、最後まで気丈な表情を崩さず、ファイナルの舞台から堂々と去っていった。

 ただ、八戸学院野辺地西の3年生たちにとって、高校サッカーはまだ終わっていない。青森県1部リーグ優勝を成し遂げたことで、チームは12月中旬に開催されるプリンスリーグ東北への昇格を懸けたプレーオフの進出が決まっているからだ。最後の最後に残された大一番。もう、ただただやるしかない。

「選手権で優勝はできなかったですけど、来年の新チームが山田に勝つためにも、全国で勝つためにも、まず日常を変えることが大切で、その日常の水準を上げるためにも絶対にプリンスに上げないといけないと思っているので、最後は自分たちがプリンスに昇格して、後輩に置き土産を置いていけるように、ここから切り替えてやっていきたいです」(堀田)

 みんなで結果を手繰り寄せ、みんなで笑って終われるラストチャンス。もう悔し涙は必要ない。八戸学院野辺地西を束ねる、人一倍責任感の強い熱血系キャプテン。堀田一希は今まで支えてきてくれた人たちへ最高の笑顔を届けるため、最後の1分まで、最後の1秒まで、ピッチを全力で駆け抜け続ける。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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