今年9月に来季、横浜F・マリノスのトップチーム昇格が発表された横浜F・マリノスユース所属のDF埜口怜乃(3年)。中学3年でプレミアリーグデビューを果たし、強力なFWとの対峙を通して成長を続けてきた。今年はキャプテンも務めたDFリーダーに横浜F・マリノスのアカデミーで学んだこと、プロでの目標などを聞いた。
――改めて来季からJリーガーになることに対する率直な想いはいかがでしょうか?
「率直に嬉しいです。でも、まだスタートラインに立っただけなので、これからもっと頑張らないといけないと思っています」
――実際にトップ昇格がわかった時にはどういう感情が湧きましたか?
「嬉しかったですが、そんなに実感は湧かなかったです。今も正直実感はそこまでないんですけど、これから徐々に増していくのかなとは思っています」
――プロと大学と両方を選択肢として持っていたと思うのですが、実際に昇格を打診された時に、迷いはなかったですか?
「その時に迷いはなかったですね。5月ぐらいの面談のころには、まだ自信がなかったんですけど、1回冨樫さん(冨樫剛一監督)と試合前に電車で一緒になって、隣に座ったことがあったんです。その時に『大学もレベルが上がっているし、そっちでもいいんじゃないか?』というような話と、『プロに行けるチャンスは誰にでもあるわけじゃないし、プロの方がレベルは高いよ』という話をしてもらいました。その中で『大学も能力的に高い選手がいるけど、プロとは戦術理解の部分で少し差がある』ということもおっしゃっていたので、それも決め手の1つになりました」
「そのあとで7月ぐらいにトップチームの練習に行った時に、『ああ、割とやれるかな』という感覚はありましたし、クラブユース(選手権)が終わった後にもトップの練習に呼ばれて、そこでも感触は悪くなかったので、『やれなくはないかな』という気持ちはそこでさらに増しました。もう1つは世界的な視点で見た時に、『大学経由でプロになるのは遅いかな』という想いもあったので、『やるからには悔いのない選択をしよう』と思って、プロの道を選びました」
――電車で冨樫さんが隣になって良かったですね(笑)。
「たまたま電車に乗って座ろうと思ったら冨樫さんがいて、朝早かったので周りも空いていて、一瞬『どうしよう……』とは思ったんですけど、隣に座りに行って良かったです(笑)」
――今季はシーズン前にトップチームのキャンプにも参加されていましたが、その時の手応えはいかがでしたか?
「もともと(白須)健斗と(望月)耕平はシーズンスタートの練習の方から参加していて、僕はユースの方で自主練をしていたんですけど、ケガ人が出たということでキャンプの前の二部練習に1日だけ行くことになって、その日のパフォーマンスが良かったのか、『明日も来れる?』と言われて、そこからキャンプにも行くことになりました。キャンプでは練習試合にも出たんですが、観客の方もいたのでトップの雰囲気も少しわかった感じはありました」
――実際にキャンプに参加してみて、影響を受けた選手や参考になった選手はいましたか?
「水沼宏太さんです。チームの中で年齢も上の方ですけど、一番熱量を持って練習に取り組んでいて、誰よりも走りますし、誰よりも声を出しますし、凄いなと思いました」
――埜口選手と水沼選手はあざみ野FCの先輩後輩でもありますよね。積極的に話しかけに行ったんですか?
「最初は僕から『あざみ野FC出身なんです』とあいさつしました。そこからはトップに行くたびに『オマエ、一番最初にあいさつしに来いよ』と言われて(笑)、そういう感じで絡んでもらえるようになりました。それも嬉しいですよね」
――他の選手はいかがですか?
「ポジション的にも上島(拓巳)選手にいろいろ聞いていたら気にかけてくれて、ロングボールを一緒に蹴ってもらいました。あとは食事会場が円卓だったので、いろいろな方とお話させてもらいましたが、やっぱりみなさん優しかったです。その中で宮市(亮)選手がブラジル人選手のテーブルに1人で行ってゴハンを食べていて、『人間性が凄いな』と思いました」
――自分のプレーヤーとしての特徴はどういうところだと思いますか?
「自分は守備が得意なので、そこを売りにしていきたいなと思っています。小学生のころはいろいろなポジションをやっていたんですけど、いつからか守備が好きになっていて、ディフェンダーをやるようになっていました(笑)。そのころはミニゲームをやっても、みんな点を獲りたくて前に行ってしまいますし、自分もそういうタイプだったんですが、誰かが守らないと点を獲られて負けてしまうので、それが嫌で『1人でも守ってやろう』みたいな感じはありました。負けるのが嫌だったのかなと思います」
――ビルドアップの正確さと左足のキック精度も印象的です。
「ビルドアップに関しては、去年まで左サイドバックに池田春汰くん(筑波大)がいたので、ちょっと頼り過ぎていたかなと。ボールを付けておけば、勝手に解決してくれる選手だったので。今年に入って冨樫さんが監督になって、より戦術的なことを知ったりすることが増えて、ビルドアップも楽しくなりましたし、ちょっとずつ良くなってきているのかなと思います」
――ここから勝負していきたいポジションはありますか?
「ポジションには特にこだわりはなくて、今はセンターバックが楽しいですけど、サイドバックもまた違う楽しさがありますし、『フォワードで出ろ』と言われたら全然出ます(笑)。自分としては3バックの左とか、そういうポジションが合っているのかなと思いますね」
――F・マリノスに最初に入ったのはどのカテゴリーですか?
「スクールのスペシャルクラスですね。耕平と一緒にやっていました。僕は1次セレクションからの参加で、その時は最終的に3人が受かったんですけど、あとの2人は2次セレクションからだったと思います」
――スペシャルクラスのレベルは高かったですか?
「レベルは凄く高かったですし、楽しかったですね。コーチに大橋(正博)さんがいて、『やっぱり上手いな』と思いました。勝負事になると結構ガチで来てくれるので、それも凄く良かったです。子ども相手でも容赦なかったですよ(笑)」
――ジュニアユースはスペシャルクラスからの昇格ですか?
「スペシャルクラスとプライマリーが合同でやる内部セレクションがあって、それを受けて昇格が決まりました。最初は左サイドバックをやると聞いていたんですけど、結局中学に入ったら自分もセンターバックをやりたくなって、実際にセンターバックで試合に出るようになりました」
――ジュニアユースでの3年間はどういう時間でしたか?
「あっという間でした。中1の時のコーチが松木(秀樹)さんで、中2の時は飛び級で1個上のチームでプレーしていたんですけど、その時の監督も松木さんで、中3になっても松木さんが監督でした(笑)。技術面で成長したのはもちろんですが、人間性の部分で鍛えてもらったかなという感じはあります」
――特に人間性の部分はどういうところが鍛えられたのですか?
「気持ちの部分や人との接し方だったり、本当に人間としての基本を叩き込まれました。人間性の部分で成長したことで、いろいろな物事の見方ができるようになりましたし、メンタル面であまり折れなくなったかなという感じはあります」
――サッカー面でジュニアユースの3年間で伸びた部分はどういうところですか?
「小学生のころはいろいろなポジションをやっていたので、改めて守備の基本を学べました。特に覚えているのは中3の初めのころに、ユースに上がれるかどうかというような話の中で、『今のままだとボーダーだよ』と言われて、『ヤバいな……』と。そこからは1人でも守れる力を付けようと思って、カバーリングの範囲を増やすことや、ヘディングにも取り組みました。あとはユースに練習参加させてもらったことで、意識が変わった部分はあります」
――ユースの1年目はどういう時間でしたか?
「自分は中高一貫校に通っているので、ユースに上がるチームメイトが受験をしている時に、早めにユースの練習に参加していました。シーズン前にあったユースの和歌山キャンプにも行きましたし、結構調子も良かったんですけど、そこでケガをしてしまって、プレミアの開幕には出られなかったんです。それで復帰して最初に出たのがJFAアカデミー(福島U-18)との試合でした」
――それがゴールを決めた試合(2022年6月18日/プレミアリーグEAST第9節)ですね。これがプレミアデビューですか?
「いいえ、中3の時にも一度出していただいて……」
――あれ、そうでしたっけ!
「はい。1試合だけで10分ぐらいだったんですけど、小机でやった大宮アルディージャU18との試合(2021年11月27日/プレミアリーグEAST第17節)です。たまたまBチームの大事な試合が重なって、普段はプレミアのベンチに入っているような選手はそっちに行っていましたし、畑野くん(畑野優真・法政大)や大輔くん(舩木大輔・桐蔭横浜大)が代表に呼ばれていていなかったので、それで出させてもらいました」
――中3でプレミアデビューしているんですね!
「その時は凌也くん(木村凌也/日本大、来季からの横浜FM加入内定)も陸くん(山根陸/横浜FM)もいたので、特に何もしなくても大丈夫でした(笑)。でも、とにかく前半がキツ過ぎて、『これは前半だけで持たないな』と思うぐらいの衝撃でした。それでも前半のうちに自分で点が獲れて、それで少し落ち着いた感じでした。セットプレーからのゴールだったんですけど、ウッチー(内野航太郎/筑波大)もいましたし、マークが分散していたので、中央でどフリーになってラッキーでした(笑)」
――内野選手とは練習からマッチアップすることもあったと思いますが、やっぱり刺激を受ける部分は大きかったですか?
「力の差がかなりあったので、基本的にあまりマッチアップさせてもらえなかったですけど、やっぱりボールを呼び込むところだったり、動き直しの質は凄いなと思って見ていました。他にも晃助くん(松村晃助/法政大)もいましたし、あの代の3年生は凄かったですね。毎日の練習にピリピリとした緊張感がありました」
――望月選手も同じようなことを話していました。
「たぶん3年生にとっては普通なんですけど、こっちが勝手に緊張感を感じてしまうんですよね。みんな本当にミスが少なくて、ミスをしたら浮くような練習の雰囲気だったかなと思います」
――2年生になった昨年のシーズンはいかがでしたか?
「プレミアに全試合出られたので、年間を通じて試合に出続けられたことは良かったと思います。他のディフェンスラインのメンバーが年代別代表の常連みたいな選手たち(舩木、畑野、池田)だったので、『ああ、オレが狙われてるな』と思うこともあったんですけど(笑)、相手のフォワードのレベルが高くて、市立船橋の郡司選手(郡司璃来/清水エスパルス)だったり、尚志の2トップ(網代陽勇/早稲田大、笹生悠太/國学院大)とか、強烈な選手たちと対戦できたことも良かったですけど、プレミアから降格もしてしまったので、最後の方はキツいシーズンではありました」
――おっしゃったようにプレミアの強烈なフォワードと対峙することで、自分が成長していくような手応えはありましたか?
「自分も身体能力には自信がある方なんですけど、やはり自分より速かったり、ジャンプ力がある選手が多かったので、予測や準備の部分で相手より先に動けるようにやっていました。あとはセンターバックでも自分の方がより狙われていたので、そこは絶対に負けたくないと思っていました」
――今シーズンはキャプテンも務めていましたし、負傷離脱も少なくなかったと思います。かなり大変なシーズンでしたか?
「後期からずっとケガをしていたので、あまり試合に関われなかったですし、そういう意味では難しかったです。プレミアに戻りたいとはずっと思っていたんですけど、結果は残念です」
――キャプテンという役割とはどう向き合ってきましたか?
「小中時代にもやったことはあったので、キャプテンという役割に対して気負い過ぎてはいなかったのですが、『姿勢で見せていこうかな』という想いはありました。用具の片付けも手伝ったりしながら、そういう部分で1年生ともコミュニケーションを多く取ろうとか、そういうことは意識してやっていたと思います」
――オフ・ザ・ピッチの部分で新たに取り組んだことはありますか?
「今年の3年生は我が強くて、自分が引っ張らなくても勝手に前に進んでいくヤツらばかりなんですけど(笑)、2年生ともコミュニケーションを取りながら、両方の意見を聞くことは意識しました。どちらかに偏らないようにというか、お互いに言うところは言いつつ、バランスを取っていましたね」
――シーズン終盤は負傷離脱となってしまいましたね。
「8月の終わりにケガをして、1回復帰できそうだったんですけど、再発してしまって結局戻れなかったです。最初は10月の終わりぐらいに復帰できると聞いていましたし、チームは後期に入ってから勝てなくなってきたこともあって、『早く復帰したいな』と思っていましたが、2回目のケガをやってしまった時は心にぽっかり穴が開いた感じになってしまって、悔しいというのもありましたけど、『ああ……』という感じでしたね」
「ただ、シーズン終了の1か月ぐらい前に、田島さん(田島一樹コーチ)から『キャプテンという立場もあるし、難しいのはわかるけど、今のままで大丈夫か?』と言われたんです。その時の自分はあまりチームに関われていなかったというか、引いていたわけではないですが、ずっと一歩外から見るような感じではあったので、プレーオフに向けて何かできることはないかなと思って、改めて『チームに貢献できるように動こう』と考えられました」
――プレミアリーグプレーオフは残念な結果でしたね。
「はい。ガンバ(大阪ユース)は外から見ていても強かったですね。ただ、冨樫さんとも普段から話していることで、『基準をどこに持つか』というところを大事にしていかないといけないんだなと、より思いました。そんなに甘くはないんだなと、もっと高い基準を持って練習からやらないといけないんだなと、改めて感じました」
――このF・マリノスのアカデミーで過ごした8年間の経験は、これからの自分にどういう形で生かしていきたいですか?
「後輩たちには自分の活躍している姿を見せていきたいと思っています。トップの練習参加に来たユースの選手からは、より見られることになるので、そういう意味でもしっかりしないといけないですし、はっきりとした基準と姿勢を見せていければと思います」
――来シーズンのプロ1年目は、どういうシーズンにしていこうと思い描いていますか?
「まずはケガをしっかりと治したいです。試合に絡めたら一番いいですけど、常に試合に出たいという気持ちを忘れずに、しっかり身体を作りながら、まだまだ技術面でも成長したいと思っているので、日々謙虚に行きたいと思っています。レベルの高いところでサッカーをすることも、強い相手と対戦することも好きですし、トップにはアンデルソン・ロペス選手のような上手い選手もたくさんいるので、とにかく楽しみです」
――サッカー選手として到達したい場所は、どこまでイメージしていますか?
「海外挑戦したいとは思っています。その時に一番強い、一番レベルの高いリーグで、凄い選手たちと真剣勝負をやってみたいです。5月ごろに香港遠征に行ったとき、イングランドのプレミアのチームとやる機会があって、そこも日本とは全然違う雰囲気を感じたので、改めて『海外でやってみたいな』と思いました」
――最後にファン・サポーターの方々へメッセージをお願いします。
「ユースを応援してくださる方たちもそうでしたけど、みなさんの応援で奮い立たせられる部分も多いですし、元気も出ますし、『やらなきゃな』と思わせてくれるので、本当にありがたいです。ここからはプロの世界で、今まで僕に関わってくださった方々にプレーで活躍する姿を見せて、恩返ししたいなと思っていますし、ここからの自分にも是非熱い応援をしていただければと思います」
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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