[12.31 選手権2回戦 松山北高 1-0 龍谷富山高 味フィ西]
創部21年目で史上初の全国大会出場を果たした富山龍谷高の挑戦は2回戦で幕を閉じた。初戦では0-0で迎えたPK戦の末に那覇西を破ったが、2回戦は無得点のままPK失点で敗戦。創部以来、チームを率いる濱辺哲監督は「もう1試合、2試合やらせてあげたかった。あっという間に終わってしまったという気持ち」と悔やんだ。
守備の要を担うCBの宮林渉(3年=STG.FC)が1回戦で退場処分を下され、出場停止に伴って最終ラインの顔ぶれを入れ替えることを強いられた2回戦。本職右SBからCBに回ったDF村西琉斗(2年=STG.FC)は相方のDF海老椋太(2年=STG.FC)と共に粘り強い対応を続け、左SBから右SBに回ったMF岡島翔空(2年=Despina FC富山)、新たに起用された右SBの松本隼(3年=FCひがしジュニアユース)も難しい役割の中で奮闘したが、最後は1点に泣いた。
「彼の穴を埋めるのはすごく大変な作業で、代わりのいない選手なのですごく苦労しました。いろんな選択肢がある中でベストな回答かなということで選手に納得してもらって今日を迎えたけれど、そこを埋め切れなかったのが本音です」(濱辺監督)
ビルドアップの起点も担う宮林の不在は、守備面よりも攻撃面により大きく影響し、トップ下のFW松代大輝(2年=広田FC Jrユース)の負傷離脱もあってその打撃はさらに深刻に。エースのFW横山旺世(3年=富山U-15)になかなかボールを入れられない時間が続き、指揮官は「正直なところ孤立してしまったのは否めないし、攻撃に厚みが生まれなかったのが正直なところ。失点したくない思いが強くて後ろに重心がいってしまったけど、もう少し攻撃でできる力を持っているので、そこで引き出してあげられれば良かった」と悔しそうに振り返った。
濱辺監督はかつて名門・習志野高でGKを務め、東京学芸大からアローズ北陸に加入し、JFLでの選手経験も持つ元社会人プレーヤーの指揮官。引退後の2004年から龍谷富山の教諭となると、自ら創部したサッカー部で指導者キャリアをスタートし、21年目で悲願の全国挑戦に辿り着いた。
「初めはもっともっと早く来られる舞台だと思っていましたけど、これだけ出られていなかったので、『教員人生の中でここにもう来られることはないのかな』という思いもあった中、3年生がここに連れて来てくれたので彼らに感謝しかない。彼らが入学してくれたときはいい子たちが揃ってくれたというのもあったけれど、熱量の差からここまで続け切れなかった3年生、高校という枠にハマらずに学校を辞めて行ってしまった子もいて、でもそういう子たちから学んだこともたくさんある。いろんな苦労もここにこさせてもらったことでいい経験をさせてもらったと思っています」
全国の私立高では県外からの選手獲得で強化を進めるチームも目立つ中、地元選手を中心とした地道な選手強化方針を継続してきた龍谷富山。「県外から選手をというのも頭をよぎりましたが、私自身がよそ者なので地域の指導者から認められないとダメだなと思いましたし、外から連れてくれば全国は近かったのかもしれませんが、それをしなかったことにも価値があるのかなと捉えています」。今回のチームの主力選手たちも地元で育ち、絶対王者の富山一高を倒したいという思いを持った選手たちだ。
「現実を考えると、本当に力のある子たちは第一高校さんに行くし、いまはカターレのユースチームもすごく頑張ってやっておられるので、これまで戦力的には難しい、厳しい子たちの集まりではあったけど、富山第一を倒したいという思いを持った子たちが今の3年生に入ってきてくれて、それに引き連れられて2年生も思いを持った子が来てくれた。来年も楽しみなチームです」
それでも全国大会では力の差、勝負強さの差を突きつけられる形となった。県予選準決勝の富山一高戦では4-1で堂々の大物食いを成し遂げ、全国相手にも通用しそうなクオリティーを見せていたが、全国舞台では緊張感もあってか本来の力を発揮できず。こればかりは経験もモノをいう世界。濱辺監督は奮起を誓った。
「全国大会には辿り着きましたけど、まだまだ力不足を痛感させられましたし、全国というのはこういうところなんだというのを見せてもらった経験をどう次につなげていくかが一番大事なところかなと思います。身体の太さを一つ取っても、同じ3年間を過ごしてきた選手かと思うとまだまだ足りないなと思いますし、富山に持ち帰ってやらなければいけないことかなと思います」
今回のチームは那覇西戦でチームを救う働きを見せたGK吉田啓剛(2年=富山市立呉羽中)、安定した守備を構築した最終ラインを始め、MF山田凰太(2年=Kurobe FC)、FW宮岸生弥(2年=エヌスタイルU-15)ら力のある2年生が中心。宮林、横山といった大黒柱が抜けることで、新たなリーダーシップの構築が必要とはなるが、来季に期待の持てるチームだ。
指揮官は次のように意気込む。
「今の2年生がロッカールームで流した涙は本物の涙だと思うので、次につながる財産だなと思います。混じりっけのない本物を経験できたので、ここはもう目指す場所じゃなくて帰ってくる場所だよという話を選手たちにはさせてもらいましたが、経験したからこそ言える言葉があるし、経験した選手だからこそ思える思いがあるし、そこはかけがえのない財産だと思っています」
「紆余曲折いろんな苦労があった1年間の中、3年生が人間的に成長してくれて、それを2年生が見て、いろんな思いがあると思います。こんな3年生になりたいというものもあれば、こうなってはいけないという部分もあったと思うし、その中でも3年生のサッカーに対する思い、チームをなんとかしたい思いは感じていた部分だと思うので、それを伝統として歴史として引き継いで行ってもらいたいです」
来季は10連覇を阻止された富山一高がチャレンジャーの姿勢で挑んでくるとみられ、共に県4強入りした富山東高、富山北部高にも能力のある選手が在籍。全国での2試合という貴重な経験を積んだ龍谷富山も、まずは県内の戦いでさらなる勝負強さやクオリティーを身につけ、再びここに戻ってくることを目指す。
(取材・文 竹内達也)
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Source: 大学高校サッカー
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