高校ラストゲームは負傷交代も「最後まで自分らしく終われたのかなと思います」 帝京のキャプテンを務め上げたMF砂押大翔が貫く笑顔の行方

帝京高を束ねるキャプテン、MF砂押大翔(3年=鹿島アントラーズノルテジュニアユース出身)(写真協力『高校サッカー年鑑』)
[1.2 選手権3回戦 明秀日立高 1-1(PK5-4) 帝京高 U等々力]

 最後の瞬間はピッチの外から見つめることしかできなかった。でも、これまでもみんなで戦い抜いてきたのだから、悔いはない。もう少しだけ一緒にサッカーをしたかったけれど、最高の仲間たちと『新しい帝京』は十分にアピールできたのだ。堂々と胸を張ればいい。

「優勝という結果を目指してやってきたので、そこに対して悔しい想いはありますけど、今度は選手権での優勝を後輩に成し遂げてもらうために、自分たちも胸を張ってタスキを渡せるんじゃないかなと思います。このメンバーと一緒に戦えて良かったです」。

 15年ぶりに選手権へ帰ってきた帝京高(東京B)を束ねる不動のキャプテン。MF砂押大翔(3年=鹿島アントラーズノルテジュニアユース出身)はカナリア色の誇りを抱きながら、凛とした笑顔とともに選手権の舞台を去っていった。

「相手のプレスに苦しんだ場面が多くて、自分たちが目指しているポゼッションサッカーがなかなかできない状況でした」。砂押は最初の40分間を振り返って、そう口にする。昨年度のインターハイ王者・明秀日立高(茨城)と向かい合った3回戦。相手の強度の高いプレスを受け、帝京は持ち前のパスワークや複数人の連動した崩しが出てこない。

「前を向いた瞬間に、相手のプレスを感じるようなポジションを取ってしまっていましたね」。ボランチの位置でゲームメイクを任されているものの、効果的な縦パスは差し込めず、どうしても忙しい展開に巻き込まれてしまう。「それでも前半を無失点で終えられたのは、チームとしてもプラスに帰ってこれるポイントでした」。前半はスコアレスで40分間が推移する。

 後半1分。セットプレーの流れから、いきなり失点を食らう。「後半は立て直していこうと言っていた中でのああいう失点だったので、やっぱり甘さが出たんじゃないかなと思います」と砂押。0-1。カナリア軍団は追い掛ける展開を強いられる。

 前半から左足の太ももに違和感はあった。30分過ぎに相手と接触したタイミングで、いわゆる“モモカン”を食らっていたからだ。何とかアドレナリンで痛みをカバーしていたものの、少しずつ自分の足が動かなくなっていることは、はっきりと自覚していた。

「足に力が入らなくなってしまって……。やり続ける選択肢もあったんですけど、『このままではチームに貢献できないな』と思いました」。27分。左腕に巻いていた赤いキャプテンマークをDF田所莉旺(3年)に託し、担架に乗せられた砂押はピッチを後にする。

 キャプテンの負傷交代に、チームメイトも奮起する。29分。MF宮本周征(2年)のシュートはGKのファインセーブに遭うも、こぼれ球を押し込んだのは途中出場のFW土屋裕豊(3年)。砂押とは中学時代から同じチームで切磋琢磨してきたストライカーだ。

「自分も『このまま終わってしまうんじゃないか……』と思っていた中で、逆を向いていたので見えていなかったんですけど、歓声が沸き上がった方を見たら、土屋がゴールを決めていたので、一緒にやってきて良かったなと思います」。スコアを振り出しに引き戻すと、試合はそのまま1-1で終了。準々決勝への勝ち上がりを懸けた激闘は、PK戦で決着をつけることになる。

「基本的にPKの順番は選手が自分たちが決めているので、蹴りたい子が堂々と蹴ったという形ですね」。藤倉寛監督がそう明かす。選手たちで決めたPK戦の順番。自ら名乗り出た5人のキッカーのうち、2人目に蹴った土屋のキックだけが、相手のGKにストップされる。対する明秀日立は5人全員が成功。帝京の進撃は3回戦でその行方を阻まれることになった。

「土屋はピッチ内では頼りになる存在ですし、ピッチ外でもムードメーカーとして、常にチームに元気を与えてくれる存在なので、最後はああいう形で終わってしまったんですけど、土屋をキッカーにして良かったなと思います」(砂押)。予選決勝でも、勝利を引き寄せるPKを沈めたのは土屋だった。

 彼が外したのなら、仕方がない。みんなが納得していた。でも、悔しい。もうみんなとサッカーできなくなることが、寂しい。PK戦をベンチから見守っていた砂押も、チームメイトたちに声を掛けながら、あふれ出す涙が止まらなかった。

「3年間の集大成で、最後の試合で力を出し切れたので、後悔なく終われたと思います」。ミックスゾーンに現れた砂押の表情には、もう笑顔が戻っていた。

「今日も最後に得点を獲れたというのは、1年間自分たちがやってきたことが現れたと思いますし、都予選から振り返ってみても、先制されるゲームが多かった中で、跳ね返すゲームというのも多くあったのは、自分たちがここまで頑張ってきた証だったのかなと思います」。

「帝京として15年間出られていなかった壁というものを、自分たちの代でこじ開けられたということは本当に誇らしいですし、1年間本当にチームとしても、個人としても、苦しい時期は多くあったんですけど、これまでやってきて良かったなという想いが一番強いですね」。

 伝統校のキャプテンという立場に、重圧が掛からないはずがない。それでも自分にできることを1つ1つ見つけて、コツコツとチーム力を高めていく。「練習でも『自分が一番声を出そう』と。そういう小さなところから変えていこうかなという想いがあって、そういうことをチームメイトのみんなにも徐々に浸透させて、どんどんチームの雰囲気が良くなってきているのかなと思いました」。シーズンを経るごとに、チームの一体感が高まっていくことも嬉しかった。

 高校最後の試合は途中交代という形となったが、本人はその結末にも妙に納得しているようだ。

「最後にピッチ外で自分の高校サッカーが終わったというのも、自分らしいのかなと思いますね。今までも大事な場面でポストに当てたり、そういうシーンが3年間本当に多かったので、最後まで自分らしく終われたのかなと思います(笑)」

 苦しい時に、追い込まれた時に、チームのみんなへ送ってきたのは『こんな時だから、笑え』というメッセージ。2024年の帝京を抜群のリーダーシップで牽引してきた、絶対的なキャプテン。砂押大翔はいつでも自分の中心に笑顔を据えて、次の新たなステージへと向かっていく。

予選決勝で全国切符を勝ち獲った砂押は優しい笑顔を浮かべていた

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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