[1.4 選手権準々決勝 前橋育英高 1-0 堀越高 フクアリ]
自分の後ろには同じカテゴリーで一緒にボールを追い掛けてきた、数多くの仲間たちの応援が付いている。彼らを代表して試合に出るからには、とにかく目の前の勝負に全力で向かっていくしかない。そうやってここまで駆け上がってきたのだ。もうこのまま日本一まで、一気に走り抜けてやる。
「ずっと夢の舞台でしたし、ここを目標にして育英に入ってきたので、いろいろな人が見てくれて、応援してくれる舞台に立てていることは本当に嬉しいですし、選手権というのはやっぱり凄い大会だなと思います」。
3年間の最後に躍動する機会を自ら引き寄せた、前橋育英高(群馬)のディフェンスリーダー。DF鈴木陽(3年=ジュニアユースSC与野出身)は夢の舞台だった選手権のピッチを、存分に楽しんでいる。
国立競技場で戦う権利を懸けて、堀越高(東京A)と対峙したクォーターファイナル。センターバックの鈴木は相手の2トップを最大限に警戒して、ゲームに入る。「1.5列目にいた相手の10番の選手が本当に上手い選手だったので、そこのマークの受け渡しもそうですし、11番の選手も収めるのが上手いことはわかっていたので、そこでもセンターバックとボランチで連携を取りながら、うまく守れたのが良かったと思います」。
堀越の最前線に立つ高橋李来(2年)と、その少し下に構える三鴨奏太(2年)のポジションを常に視界へ捉えながら、最終ラインの中央でコンビを組むDF久保遥夢(2年)にある程度空中戦は任せながら、鈴木はカバーリングも含めて、常にアラートな状態を保ち続ける。
もともとAチームでの出場機会を掴んでいたわけではない。シーズン開幕時に鈴木が在籍していたカテゴリーはBチーム。プリンスリーグ関東2部を戦うチームをキャプテンとしてまとめ、3バックの中央に位置して守備陣を束ねていたが、「『絶対にAチームの試合に出てやる』とはずっと思っていました」と常に上を目指すマインドは持ち合わせていた。
転機は9月に訪れる。「前期はプリンスで全試合に出て、夏休みにAチームに上がることができて、プレミアに出られるようになったのは昌平戦からでした」。地道なアピールを重ね、迎えたリーグ後半戦初戦の昌平高(埼玉)戦。チームは敗れたものの、スタメンに抜擢された鈴木は好パフォーマンスを披露。上々のプレミアデビューを飾ってみせる。
以降の公式戦ではプレミアでも選手権でも、スタメンを外れた試合は1度もない。「夏は競争が一番で、いろいろな選手をいろいろなポジションで試したりして、その結果としてノボル(鈴木)が出てきたと。あの子は効いていますよ。賢いです」と話す山田耕介監督の信頼をがっちりと勝ち獲り、MF石井陽(3年)が欠場したリーグ最終節ではキャプテンマークも巻くなど、完全なAチームの主力選手としてグループを支えてきた。
2回戦の愛工大名電高(愛知)戦、3回戦の帝京大可児高(岐阜)戦は、ともに2点を先行しながら、追い付かれるゲーム展開に。「守備陣としては本当にふがいないゲームが続いていたんですけど、やっぱり無失点に抑えることが仕事だと思っていました」。まず優先すべきは点を獲られないこと。鈴木も含めた前橋育英の守備陣は、丁寧に、確実に、堀越が作りかけるチャンスの芽を、1つずつ摘んでいく。
本人は「自分としてはまだまだ細かいミスが多いですね」と口にするものの、背番号2が鋭い読みを生かしたカバーリングで、際どい局面を回避していくシーンも少なくなかった。前橋育英は後半にFWオノノジュ慶吏(3年)が叩き出した1点を守り切り、ウノゼロゲームを制す。「今日の試合は無失点で終えられたということが本当に良かったと思います」。試合後の鈴木は安堵の混じった笑顔で、準決勝進出を喜んだ。
登録上は173センチとそこまで上背が大きくないこともあって、自分にできることを磨き続けてきた。「僕は技術とか身体能力はないので、コーチングもそうですし、全体を見て予測や準備をしてプレーするのが持ち味だと思います」。プレミアリーグで対峙してきたのは、プロ入りも決まっているようなJユースのハイレベルなフォワードたち。彼らと肌を合わせてきただけに、しっかり特徴を出し切れれば、どんな相手とやり合っても対抗できる自信は十分に纏っている。
「やっぱり選手権は他の大会とは全然違いますね。僕は緊張しやすいタイプなので(笑)」と笑った鈴木は、決して順風満帆なシーズンを過ごしてきたわけではない自分が、この選手権という大舞台に立ち、活躍することの意味をしっかりと理解している。
「寮生活でも一緒に過ごしている同じ3年生もそうですけど、自分を応援してくれるチームメイトが多いので、そういうことが頑張る原動力になっていると思います。自分は今までほとんどのカテゴリーを経験してきていて、いろいろな選手とプレーした経験は誰よりも多いので、一緒のチームで戦ってきた2,3年生の100人近いみんなの想いは、何よりも刺激になっていますね」。
いよいよ大会も最終盤。次の準決勝の会場は国立競技場だ。「国立のピッチに立てるチャンスがあるのは素直に嬉しいですし、そこでも自分のベストのパフォーマンスを出せるように、ここからまた1週間空くので、しっかり準備したいです。個人としては1個1個のプレーを全力でやって、ゴールを守ることでチームのためになれたらいいなと思います」。
選手権のステージに届かなかった仲間たちの悔しさは、誰よりもよくわかっている。託された想いを胸に刻み込み、黄色と黒のユニフォームに袖を通して、1つでも多くの勝利を、1つでも多くの歓喜を彼らと共有するために、鈴木陽は国立のピッチに堂々と立つ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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