意地と意地がぶつかり合った超ハイレベルな首位攻防戦。青森山田は川崎F U-18を1点差でねじ伏せてゲームプラン完遂!

青森山田高はDF菅澤凱のゴールでリードを2点に広げる!
[10.8 高円宮杯プレミアリーグEAST第17節 青森山田高 2-1 川崎F U-18 青森山田高校グラウンド]

 ベクトルは前へ、前へ。蹴って、走って、球際と1対1では絶対にやらせない。ベクトルは前へ、前へ。繋いで、動かして、連携と個人技で剥がしに掛かる。プレミアリーグの首位攻防戦、すなわち高校年代最高峰の真剣勝負は、やはり極上の90分間だった。

「この1週間はフロンターレに勝つために準備してきましたし、優勝に向けても絶対に負けられない試合で、前半の入りが凄く良い形で入れて、後半も試合に出られない仲間が自分の後ろから応援してくれて、この青森山田ファミリー全員で勝てたのが凄く良かったと思います」(青森山田高・山本虎)。

 お互いが持ち味を出し合った超ハイレベルな一戦は、ホームチームに軍配。8日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第17節、暫定2位の青森山田高(青森)と暫定3位の川崎フロンターレU-18(神奈川)が激突した好カードは、前半にセットプレーからDF山本虎(3年)とDF菅澤凱(3年)がゴールを挙げた青森山田が、川崎F U-18の反撃をDF土屋櫂大(2年)の1点に抑え、2-1で勝利。2年ぶりのEAST制覇に向けて、貴重な白星を手にしている。

 青森山田の狙いは明確だった。「先制されないようにしながら、逆にうちが1点獲って、相手を慌てさせようよというのが今回のゲームプランでした」(正木昌宣監督)。開始4分。右サイドで獲得したCK。10番のMF芝田玲(3年)がアウトスイングで蹴り込んだキックに、山本が合わせたヘディングは美しくゴールネットへ吸い込まれる。「強いヘディングというよりは良いところに当てて、コースを狙えば入ると思いました」というキャプテンの一撃に、早くも沸騰するゴール裏の応援団。プラン通りにホームチームが1点を奪う。

「あの1点は本当に大きかったですし、そのまま足が止まることなくやり切ってくれましたね」(正木監督)。緑の勢いは止まらない。10分にはFW米谷壮史(3年)が反転から枠内シュートを打ち込めば、20分にも芝田が左へ通したスルーパスから、菅澤が折り返したボールをMF杉本英誉(3年)がわずかに枠を超えるフィニッシュ。上がる会場のボルテージ。醸成されていくホーム感。

 26分。次の歓喜も青森山田。右サイドで奪ったFK。芝田が蹴り込んだボールをファーで米谷が折り返すと、菅澤が豪快に叩いたボレーが右スミのゴールネットへ突き刺さる。「相手が届かないようなコースは意識しましたけど、あんなにうまく行くとは思っていなかったです。最高ですね」と笑った左サイドバックが、考えていた“ベリンガムのゴールパフォーマンス”で煽るゴール裏。2-0。点差が開く。

「普段できていることができていなかったです。らしくなかったですね」と長橋康弘監督も話した川崎F U-18は、2失点目の直後に円陣を作る。「もう下を向く暇はないので、『もう後ろからでも繋いで、どんどん自分たちのサッカーをやろう』と話していました」(尾川丈)。ハーフタイムに長橋監督も2枚替えを敢行。エースのFW岡崎寅太郎(3年)とMF志村海里(3年)を送り込む、反撃への采配を振るう。

 後半11分。アウェイチームがやり返す。川崎F U-18が右サイドで得たFK。DF元木湊大(3年)が丁寧に入れたキックはファーまで届き、走り込んだMF尾川丈(3年)は執念のダイビングヘッドで折り返すと、待っていた土屋が確実にゴールへ流し込む。2-1。1点差。にわかに勝敗の行方は不透明に色を変える。

 ここからは双方が張り合う展開に。18分は青森山田。右サイドからDF小沼蒼珠(2年)が得意のロングスローを投げ込むと、GKがファンブルしたボールはトップ昇格内定の川崎F U-18MF由井航太(3年)が間一髪でクリア。23分は川崎F U-18。岡崎、志村とつないだボールをFW高橋宗杜(3年)がシュートまで持ち込むも、ここは小沼が体でブロック。「やることは明確で、リスクをある程度侵さなきゃいけないということを考えた時に、選手たちは強気でやれるところがあったのかなとは思います」(長橋監督)。志村と岡崎が生み出す前への推進力。前年王者の意地。狙う同点とその先。

「前期の対戦では相手のサッカーをさせてしまって、引いて守る守備をしてしまったので、今日の試合は『前から行こう』ということは全員で意識していました」(菅澤)。ホームチームも守り切ろうなんて発想は毛頭ない。26分。芝田がドリブルで長い距離を運び、米谷が放ったシュートは川崎F U-18GK濱崎知康(3年)がファインセーブ。27分は猛ラッシュ。小沼の左ロングスローから、途中出場のMF別府育真(2年)が打ち切ったシュートは濱崎がビッグセーブで凌ぎ、詰めた山本のシュートも濱崎がかろうじて触ると、ボールは右のポストを直撃。前々年王者の意地。狙う追加点とその先。

 29分は川崎F U-18。由井が左へ付けると、狭いスペースで前を向いた岡崎のフィニッシュはわずかに枠の左へ。「岡崎選手が前期も凄く厄介で、後半に出てきたらやっぱり一番嫌な選手でした」(山本)「岡崎は仕事をするし、“ボールへの嗅覚”はずば抜けていますよね。本当に(松木)玖生みたいな感じ」(正木監督)。途中出場のストライカーが、相手に突きつける脅威。ただ、スコアは変わらない。

 両ベンチが切り合うカード。川崎F U-18はDF柴田翔太郎(2年)とFW香取武(2年)を相次いで投入し、最後のアクセルを。青森山田はMF齊藤和祈(3年)とFW山下凱也(3年)を終盤のピッチへ解き放ち、「カウンターの“牙”だけはちょっと残しつつ、きっちり締めようねという形」(正木監督)へと移行。アディショナルタイムは4分。緑のゴール裏から飛んだ「部員200人で守るぞ!」という檄。ゲームは勝負の240分間へ。

 45+1分。元木が縦に鋭いパスを打ち込み、走った岡崎はGKとDFラインの間にグラウンダーのクロスを通すと、走り込んだ柴田はマーカーに寄せられながら足を伸ばすも、ボールはヒットせずに右へと流れてしまう。そして4分間が過ぎ去り、タイムアップのホイッスルが熱戦のグラウンドを包む。

「フロンターレは日本一のチームですよ。お世辞でも何でもなく。映像を見た時に『これはヤバいな』と。おそらく他に負けることは絶対にないから、ウチとの直接対決までに勝ち点をどれだけ持っておけるかだと思っていました。自然と涙が出ている選手がいましたし、今日の試合の勝利は大きいです」(正木監督)。ファイナルスコアは2-1。ビッグマッチを青森山田が逞しく制し、大きな、大きな勝ち点3を積み上げた。

 青森山田は“先制点”をこの日の大きなキーファクターだと捉えていた。正木監督がその理由を明かす。「リーグを通してフロンターレは先制している状況が多いと。引き分けている試合も基本的にはフロンターレが先制していたはずですけど、昌平戦は先制されて負けていましたし、守備に自信を持っているだけに、先制された時にダメージが相当大きいんじゃないかなと」。

 立ち上がりから全開で行くのはプラン通り。「フロンターレは前からハイプレスに行くとボールを取れるというデータがあったので、自分たちが入りからああやって前から行くことで、良い形でゴールを奪えましたし、チャンスも多く作れたので、試合を有利に運べたかなと思います」とは山本。結果的に川崎F U-18はリーグ戦16試合目にして、初めて2点のビハインドを背負うことになる。前半の、とりわけ開始から30分間で青森山田が発揮した高い“出力”は、試合の結果に大きな影響を及ぼした。

 加えて指揮官が強調するのは、自身も含めたコーチングスタッフの成長だ。終盤に5バックにシフトして逃げ切りを図ったものの、PKを与えて同点に追いつかれ、2-2のドロー決着となった川崎F U-18との前回対戦は、確実にこの日の采配に生かされていたという。

「あの時は相手をあまり気にしないで、『最後は守り切るんだったら5枚にしちゃおう』という感じで交代選手を入れたんですけど、今回はあえて5バックにはしないで、『出しどころを潰そう』と。中盤を厚くして、守備ができる、走れる、機動力のある選手を入れて、受け身ではなく、こっちから行けた“一手”が前回との違いだったのかなと思います」(正木監督)。5か月前の対戦と同じ1点リードで迎えた終盤も、青森山田のピッチ上の選手たちに迷いはなかった。そこにはベンチからも醸し出されていた「これで大丈夫」という空気感が、間違いなく影響していたはずだ。

 次節は暫定2位の尚志高、その次は市立船橋高と厳しいゲームが続くが、そんなことは百も承知。キャプテンの山本はきっぱりと言い切った。「フロンターレ、尚志、市船と10月は強い相手ばかりとやることも覚悟して練習をやってきているので、ここでフロンターレに勝ったことで満足せずに、過信せずに、良い準備をして、尚志と市船も倒したいなと思います」。

 2年ぶりのプレミア覇権奪還へ。残されたのは5試合と、その先にある1試合。選手もスタッフも成長を止めない青森山田の進撃は、果たしてどこまで。

(取材・文 土屋雅史) 


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Source: 大学高校サッカー

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