[2.9 群馬県高校新人大会決勝 前橋育英高 2-1 桐生一高 アースケア敷島サッカー・ラグビー場]
2年生で目にしてしまった日本一の景色。だが、一度届いたからといって、それが色褪せてしまうはずもない。最高学年となった今シーズンも、再びあの舞台へとたどり着くために、奢ることなく今の自分を磨き続けて、必ずまた聖地で優勝カップを掲げてやる。
「一番強いのは『もう1回国立に戻りたい』という気持ちですね。プレミアもインターハイもすぐに始まってしまうと思いますし、もちろん三冠はあまり簡単に言いたくないですけど、自分の中では三冠を目指しているので、それに向けてチームでもう1回気を引き締めてやっていきたいなと思っています」。
高校選手権制覇を最終ラインで逞しく支えた、前橋育英高(群馬)の新ディフェンスリーダー候補。DF久保遥夢(2年=前橋FC出身)はこの1か月あまりの時間で味わった歓喜と悔しさを自身の中に取り込んで、より高いステージへと駆け上がる。
「去年も決勝には出ていたんですけど、負けてしまって、『来年は絶対に優勝しよう』と思っていたので、優勝できて良かったです」。久保は少しだけ笑顔を浮かべて、そう語る。令和6年度群馬県高等学校新人サッカー大会決勝。前橋育英は1年前に敗れた桐生一高に2-1で競り勝ち、リベンジ達成。新チームの県内1冠目を手繰り寄せる。
周囲からも『日本一のチーム』と見られる中で臨んだ、最高学年になって初めての公式戦。「多少はプレッシャーを感じていましたけど、キャプテン(竹ノ谷優駕)を中心に『あまりプレッシャーを感じ過ぎずにやろう』と言っていたので、そこまで気にしないでやりました」という久保もセンターバックの位置で安定したプレーを披露し、4試合無失点でファイナルへと駒を進める。
この日のゲームはやや荒れ気味の天然芝という、経験の少ないピッチに苦しんだうえに、金曜日までは修学旅行に行っていたため、万全のコンディションとは行かなかったが、それでも際どい局面では身体を張ったディフェンスで、相手のチャンスの芽を的確に摘み取っていく。
だが、前半にはセットプレーの流れから大会初失点も献上。「ちょっとミスも多くて、自分でも納得のいかないシーンは多かったですし、無失点優勝を目指していた中で失点してしまったので、反省点の方が多いかなと思います」。勝利と優勝は手に入れたものの、試合後には反省すべき材料の方が頭の中を占めていたようだ。
2年生だった昨シーズンは、プレミアリーグでも前半戦からセンターバックの定位置を獲得。後半戦に入ると一時はポジションを明け渡しながら、秋口に入って再び出場機会を増やし、そのまま高校選手権でもDF鈴木陽(3年)とともに最終ラインの中央で守備陣を支え、全6試合にフル出場。チームの全国制覇に大きく貢献した。
「選手権は大きな経験だったと思っています。大会を通してプレー面も技術面も上がった部分があるんですけど、特にメンタリティの部分はあの舞台を経験することで強くなったかなと。リーダーシップもそうですし、選手権の時は声が通らないので、プレーで見せないといけないというところで、気持ちの見せ方も磨き上げられたかなと思います」。
ただ、小さくない手応えを掴んで群馬へと帰ってきた直後には、悔しい知らせが待っていた。高校2年生と1年生を対象に、1月下旬から開催されたU-17日本高校サッカー選抜の選考合宿。前橋育英からはDF瀧口眞大(2年)、MF柴野快仁(2年)、MF竹ノ谷優駕(2年)、MF白井誠也(2年)、MF平林尊琉(2年)が招集されたものの、久保には声が掛からなかったのだ。
「選手権でもそこまで良いパフォーマンスが出せていなかったので、自分も呼ばれるとは思っていなかったんですけど、高校選抜のメンバーを聞いたら、スタメンで出ている2年生の中では自分だけが呼ばれていなかったので、その日はずっと自主練をするぐらいメッチャ悔しかったですね」。
加えて小さくない刺激を受けた出来事が、もう1つあった。前橋育英の3年生の先輩たちも出場していた、新人大会決勝前日の『NEXT GENERATION MATCH』。U-18 Jリーグ選抜のキャプテンマークを巻いていたのは、プレミアリーグでもセットプレーでバチバチとマッチアップを繰り広げた、同い年のセンターバックだった。
「大川佑梧選手(鹿島ユース)が今回のJリーグ選抜でキャプテンをやっていたんですけど、中学校の時から自分は知っていて、プレミアリーグの後期で対戦した時にバチバチにやり合った選手が、ああいうところに出ている悔しさもあったので、次に戦う時には絶対に倒したいなと思っています」。
1年間で積み重ねてきた地力には、以前と比べ物にならないほど自信も持っている。だからこそ、それを過信することなく、ベクトルを自分に向けて、さらなる成長を続けていくほかに、周囲の評価を高める方法はない。
「今の自分に足りないのは足元の技術だったり、もっと身体を大きくするところだったり、基本的なことですね。あとはセンターバックとして、もっと声が出せないと上のレベルでは通用しないと思っているので、そういうところは練習でやっていきたいなと思います」。現在地ははっきりとわかっている。すべての経験を糧にして、誰もが認める世代有数のセンターバックへとのし上がってやる。
ゆえに今シーズンの目標も、明確過ぎるぐらい明確だ。「個人としてはチームの要になれるような、信頼されるセンターバックになっていきたいなと思っています。チームとしては去年のチームを選手権で超えることはできないですけど、インターハイとプレミアの結果では超えることができるので、みんなでそこを獲りに行きたいなと思います」。
個人でも、チームでも、去年を超えるための努力を惜しまぬ決意は、少しずつ整いつつある。冷静と情熱を絶妙な温度で合わせ持つ、タイガー軍団の屈強な壁。歓喜と悔しさを同時に体感した睦月を経て、2025年に一層のステップアップを期す久保遥夢、要注目。


(取材・文 土屋雅史)
Source: 大学高校サッカー
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