東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」
今はまだ、ようやく小さな蕾を付け出したような時期かもしれない。色とりどりの綺麗な花を咲かせるためには、きっとこれからもいくつもの困難や苦労が待ち受けていることだろう。でも、もうその挑戦は始まっている。福島の地にさらなるフットボールの文化を根付かせるための礎は、彼らによって着々と築かれているのだ。
「この子たちが福島を出た時に、選手としても、社会人としても、また福島に帰ってきてもらえるようにしようというところは、アカデミーとして目標に掲げています。そういう選手たちの育成はやりがいがありますね。だから、クラブとしてもだんだんと、だんだんと、一歩一歩積み上げていきたいですし、自分もその力になれればと思っています」(福島ユナイテッドFC U-18・石堂和人監督)
創設から今シーズンで4年目を迎える、団結の誇りを抱いた若き赤黒の冒険者たち。福島ユナイテッドFC U-18(福島)に集った指導者と選手たちは、このチームがまっすぐに進んでいく未来を信じて、目の前の今と全力で向き合っている。
「自分たちの通用する部分としない部分が明らかになったのかなと思います」。チームを中盤アンカーの位置で支えるMF佐藤來夢(2年)は、2日間で戦った4試合を振り返って、そう話す。
30チームが全国中から参戦している『第34回イギョラ杯国際親善ユースサッカー』。今大会が初参戦となった福島ユナイテッドU-18は高いモチベーションを携えて、東京の地へ乗り込んできた。
「最高ですよね。ウチぐらいのチームだと迷惑を掛けちゃうかなと思いながら来たんですけど、ウチとしては凄くありがたい大会です。同じ年代のトップトップの選手たちとやれるというのは、凄く良い刺激になるなと思います」と語るのは、チームを率いる石堂和人監督。普段は福島県リーグに所属しているだけに、県外のチームとの実戦経験から得られるものの大きさは言うまでもないだろう。
大会初日は成立学園高(東京)に0-3、北海道コンサドーレ札幌U-18に0-4と、ともに無得点で敗戦。初ゴールと初勝利を目指して2日目に対峙したのは、昨季のプリンスリーグ北信越王者のカターレ富山U-18(富山)。今季は明確にプレミアリーグ昇格を目指している強敵だ。
ゲームが始まると、すぐにチームの志向しているスタイルがピッチ上に浮かび上がった。センターバックのDF佐藤寛大(2年)とDF西辻竣亮(2年)に、GK荒川琉人(2年)と佐藤來夢も加わって、丁寧に最終ラインからボールを繋ぎ、前進していく形が徹底されている。
「『サッカーをやっていて何が楽しいかな?』と考えた時に、やっぱり相手の逆を取って、相手を剥がして前進していくことは楽しさとして持っておいてほしいなと。彼らの将来を考えた時に、しっかり技術を持った上で逃げない気持ちを積み上げたいなと思って、トライしています」。現役時代は左足の高精度キックを武器に、福島ユナイテッドの攻撃のタクトを振るい続けた石堂監督らしいこだわりが、すっかりチームにも浸透している様子が窺える。


ただ、2025年のチームはさらなるバージョンアップに着手している。きっかけは昨年末に突き付けられた『悔しい敗戦』と、今シーズンから新たに加わった経験豊富な『名伯楽』の提言だった。
昨年度のAチームはF1(福島県1部)リーグで2位に入り、プリンスリーグ東北プレーオフへと進出したものの、1回戦で遠野高(岩手)に1-3と逆転負け。目標だったプリンス昇格の道は絶たれてしまう。
「自分は試合に出られなかったですけど、3年生と一緒に戦わせてもらって、凄く悔しい想いをしたので、逆にそれを良い経験にしなくてはいけないと思いましたし、『今年は絶対に自分たちの代で昇格させる』という想いを持っています」(佐藤寛大)「3年生からは『自分たち以上のことをやって、自分たちを超えて行かないと』と言われましたし、1年間やってきた部分で昇格を成し遂げられなかったので、それ以上のものをやらないとなと思っています」(佐藤來夢)
2022年のチーム立ち上げからU-18の指揮を執っている石堂監督も、その敗戦を機に思うところがあったという。「去年までは『どのエリアでも相手を剥がしていこうよ』とやっていた中で、『上手いよね』と言ってくれる方が多かったんですけど、『強いよね』というワードがほとんど出てこなかったので、実際に結果に結び付かなかったところで、『そうだよな。上手いし、勝てるチームにしていきたいな』って」。この時点で新たなスタイルへの芽は生まれ始めていた。
それを加速させたのが、今シーズンから福島ユナイテッドのアカデミーダイレクター兼U-13監督に就任した吉武博文氏の存在だ。U-17日本代表の監督をはじめ、数々のチームで独自の哲学を貫きながら、ともに戦った選手にも指導者にも大きな影響を与え続けてきた64歳から受ける刺激を、指揮官はこう語っている。
「吉武さんは本当にサッカーが大好きな人なんですよ。だから、毎日一緒に仕事をできるのが楽しいですし、時にはぶつかることもありますけど、それはサッカーの考え方としてお互いにいいものをというぶつかり方なので、気持ちいいですし、逆に今までこういうことはなかったなと」。
「今回吉武さんが来てくれたことで、新たに吉武さんのイズムをプラスしようとチャレンジしているところで、シンプルに背後を取ることとか、前にバーンと付けちゃうシーンも、うまく融合させてやっていければなと思っているんです」。
ボールを繋ぐことにこだわるだけではなく、意図を持った上で長いボールも使い分けながら、相手陣内での時間を増やしていくのが、福島ユナイテッドU-18の新スタイル。佐藤寛大も「去年は後ろで無理にでも繋いで剥がす感じがあったんですけど、良い意味で長いボールで裏に逃げるやり方が加わったことで、凄くやりやすいですし、より選択肢が増えたかなという印象です」とポジティブなイメージを口にする。
富山U-18戦の後半は、やや運動量が落ちてきたことで押し込まれる時間が増え、後半19分(40分ハーフ)に失点を喫したが、その3分後に右サイドを佐藤來夢とDF近藤圭悟(2年)の連携で崩すと、FW佐々木廉杜(2年)が強烈なシュートをゴールネットに突き刺してみせる。
スコアはそのまま1-1で終了したものの、3試合目にしてとうとう掴んだ初ゴールと初の勝点。続く日体大柏高(千葉)戦では、FW佐久間秀悟(2年)とMF塩谷隼都(2年)が得点を挙げながら2-7で大敗を喫するも、チームははっきりとした課題と収穫を手にすることとなった。


「東日本大震災があった年に福島へ来たので、もう14年目ですね。まだ最初は地域リーグでしたから」。
2011年に東北社会人1部リーグを戦っていた福島ユナイテッドへと加わり、クラブのJリーグ参入も経験したのち、2018年に現役を引退。その翌年からトップチームとU-15のコーチを兼任する形で指導者の道へ足を踏み入れた石堂監督は、前述したように2022年のU-18創設から一貫して指揮官を務めてきた。
「『選手が通う学校はどうするの?』とか、『チームバスの運転はどうするの?』『グラウンドも抽選で取れなかったらどうするの?』とか(笑)、何もノウハウがなかったので全部イチから始めました。それでも周りの人に助けてもらいながら、まずは選手たちの学校が決まって、グラウンドも優先的に使わせてもらえたりと、いろいろなものがうまく噛み合って何とかU-18を立ち上げられましたね」。
「もともとU-15を担当していたので、『こういう選手がユナイテッドでやりたいと言っているんですけど』みたいな形で、周りのクラブの指導者の方も選手を送ってくれたんです。そういう方々にも助けてもらって、U-15からの昇格が12人で、あとは県内の子が1人、県外の子が5人、その18人が1期生です」。
何もなかったところから、3年の時間を掛けてチームをともに創り上げてきた“1期生”は、この春にU-18を卒団。「思い入れはありますよ。1期生ですから。最近まで練習に来ていた子も、今週あたりからは大学の練習に行っているので、『頑張ってこいよ』という話もしました」と笑顔を浮かべながら話した石堂監督も、覚悟を持って飛び込んできてくれた彼らへの感謝の念は尽きないという。


今の2年生は“2期生”に当たり、14人が在籍。キャプテンを任されている佐藤寛大は、仙台のAOBA FCから福島ユナイテッドへとやってきた。「最初は県内のチームを勧められていたんですけど、自分的にはユナイテッドのようなサッカースタイルが好きでしたし、中学の時の監督と石堂さんに繋がりがあって、少し最初は心配もあったんですけど、『もうやるしかない』と覚悟を決めて福島に来ました」。
寮生活も3年目に突入する中で、実感するのは自分を後押しし続けてくれる親への感謝だ。「寮だと洗濯だったり、洗い物もする必要があって、家にいると親がやってくれていたことを、自分でやらないといけないですし、そういう部分でとても自立できたと思います。親のありがたみを凄くわかりましたし、そういう意味でも福島に来て良かったなと思います」。
この日の2試合でも最終ラインからチームを鼓舞する姿が印象的だったが、実はセンターバックにコンバートされてから、まだ1年も経っていないそうだ。「もともとフォワードで入って、その後で中盤になって、去年の夏ぐらいからセンターバックをやっているんですけど(笑)、いろいろなポジションをやらせていただいて、自分なりに成長も感じているので、そういう部分は凄くありがたいなと思います」。
キャプテンという役割も、必要以上に気負うつもりはないという。大人ともしっかり話せるパーソナリティは、彼が本来持ち合わせていたものと、このクラブで過ごした2年間での成長が、良い形でブレンドされているような気がした。


中盤アンカーという重要なポジションを託されている佐藤來夢は、小学校4年生の時に福島ユナイテッドU-12へ加入。今年でクラブ在籍9年目を迎える“重鎮”だ。「ユースへの昇格はちょっと迷っていた部分もあったんですけど、自分はパスサッカーをしたくて、ここのジュニアユースもそういうスタイルだったので、『やっぱりここでやりたいな』と思って選びました」。
長くこのクラブにいるだけあって、とりわけ最近訪れつつあるポジティブな変化には、敏感に気付いている。「今年からいろいろなことが変わったのかなと思います。新しい指導者の方も加わりましたし、スポンサーも増えていて、そのあたりは凄いなと思っています」。
現時点で真剣に取り組むサッカーは、今年いっぱいと決めている。「自分は工業系の高校に通っていて、そういう仕事に就きたい気持ちもありますし、その高校に通っている中で自分のやりたいことも少しずつ決まってきているので、本気でやるサッカーは高校で最後にしようかなと思っています」。
だからこそ、やり切りたい。この仲間たちと、目の前の1年を、真摯に、全力で。「ユースは後ろからボールを繋いで、ゴール前まで行く、面白いサッカーをするチームだと思いますし、みんなが仲良くて、学年の差や先輩後輩があまりない感じです。このチームでF1を優勝して、プリンス昇格したいですね」。9年間の集大成。すべてを出し尽くす準備は整っている。


“3期生”に当たる1年生の中には、少し変わったキャリアを送っている選手もいる。福島市出身のMF田村悠真は、小学校6年時に『松川サッカースポーツ少年団』で全国大会にも出場。福島ユナイテッドU-15からもオファーが届いたが、もともと憧れがあったという『JFAアカデミー福島U-15 EAST』に“福島帰還の1期生”として入校した。
ところが、予期せぬケガがその日常に影を落とす。「小学校のころは『FCバルセロナでプレーしたい』みたいな超大きな夢を持っていたんですけど、中学2年生のころに腰をケガして、205日間サッカーができなくて、そこでかなり心もやられましたし、ラスト1年で巻き返そうとしてもうまく行かなかったんです」。
少しサッカーに対しての気持ちが揺らぎかけていた田村には、高校進学時に高体連のチームを含めていくつかの選択肢があったが、改めて考えたのは地元のJクラブで自分が成し遂げられるかもしれないことが、多くの人に与え得る希望についてだった。
「僕が福島ユナイテッドに入って、ユースで活躍したり、プロサッカー選手になることで、福島県の皆さまに笑顔や元気を与えられれば嬉しいなと思いますし、また福島市出身の僕がJリーガーとか日本代表になれれば、福島県でサッカーをしている子供たちもそこを目指してくれるようになるかなって。“福島愛”はかなり強いと思います」。
会話の中から福島愛と同様に、クラブ愛の強さも十分に伝わってきただけに、難しいとは思いながら、あえて聞いてみた。「福島ユナイテッドってどういうクラブですか?」。田村はちょっとだけ考えたものの、すぐに言葉を紡ぎ出す。
「『愉しいクラブ』です。やっている人も、見ている人も愉しいサッカーというか、応援したくなるし、やりたくなるサッカーかなって。この1年間で改めて『本当にサッカーって愉しいな』というのが一番感じている部分で、イシさん(石堂監督)もフルさん(古郡享ヘッドコーチ)も素晴らしい指導者で、サッカーの愉しさを教えてくれる最高の環境で、もう本当に感謝しかないんです。だから、このクラブは『愉しい』が一番ですね」。
もちろんこの先のことは、誰にもわからない。プロサッカー選手という職業を手繰り寄せることも、決してハードルの低いことではない。でも、今の田村が福島ユナイテッドというクラブで、サッカーを愉しんでいることは紛れもない事実であり、これからもそれが続いていくことを強く願っている。


昨シーズンの福島ユナイテッドはJ3で史上最高位の5位に入り、J2昇格プレーオフに進出。寺田周平監督の下で攻撃的なスタイルを貫く姿は、他チームにも大きなインパクトを与えたが、石堂監督はクラブ内における意識の変化も感じている。
「トップが結果を出してくれたことで、各部署も『もっとやらなきゃ』という士気は凄く高まったと思いますし、アカデミーはアカデミーで、他の部署は他の部署でできることをやろうよとなっているので、『今年は何としてでもJ2に昇格する』というところが会社として明確に見えましたし、そういう目標を持たせてくれたことが、凄く良いことだったなと思います」。
加えて、アカデミーでプレーする選手たちの視線が、間違いなく以前よりトップチームへと向き始めていることを、強く実感しているようだ。
「選手たちに『2種登録されたい』という気持ちが明確に出てきたので、ユナイテッドのトップでプレーしたいという子が多いなというのは感じています。あとはボランティア活動とか、農業部体験とか、ボールパーソンを積極的にやったりとか、そういう面では本当に頼もしい選手たちで、嫌な顔をしないどころか、やりたがってくれるんですよ」。
「この間もトップのスタッフにお褒めの言葉をいただいたことがあって、ホームゲームで得点が入って一番喜んでいたのが、ゴール裏でボールパーソンをしていたU-18の選手だったと(笑)。それで挨拶したいからということで、その子は『ありがとう』と言われたんです。でも、それってクラブの選手として大事な感情だよなと思いましたね」。
既にトップチームの練習にも参加しているという佐藤寛大も、昨年のJ3で見せた躍進に小さくない刺激を受けているという。「去年はJ2に上がれなかったですけど、そういう希望を見させていただいたことによって、そこを身近に感じることがユースの活力になりますし、凄く良い刺激を受けたなと思います。石堂さんも寺田さんも凄くポジティブな方で、チームの雰囲気も凄く良いので、それがサッカーの成長に繋がっているのかなと自分は感じています」。
クラブとしても、アカデミーとしても、福島ユナイテッドが変革の時を迎えていることに疑いの余地はない。在籍14年目。石堂監督は今年に懸ける想いを、こう明かす。
「シーズン初めに選手たちに『目標はどうする?』と問うたら、『プリンスリーグ昇格を目指します』と言い切っていたので、『じゃあオレも覚悟を決めるよ』と。選手たちは頼もしいので、あとは監督が良ければプリンスには上がれるんじゃないかなって(笑)」
「でも、本当にありがたいですよ。だって、Jリーグには60クラブしかない中で、ユースの監督をできる人も60人しかいないわけで、その中でそういう役職を任せてもらえて、自由にやらせてもらえていることには感謝しかないので、そこには責任と覚悟を持って向き合いたいです」。
確かな希望を胸にクラブの歴史を切り拓いていく、若き赤黒の冒険者が立ち向かう大航海。一度漕ぎ出したからには、元居た場所にはもう戻るまい。色とりどりの綺麗な花を咲かせる100年後を信じ、福島の地にさらなるフットボールの文化を根付かせるための礎は、彼らによって着々と築かれているのだ。


■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』
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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
Source: 大学高校サッカー
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