高卒鹿島入団も4年で2度のクビ宣告…「今を全力で楽しみたい」23歳MF小川優介は電気工事業で社会人生活スタート

アヴェントゥーラ川口でプレーするMF小川優介
[4.27 彩の国カップ 埼玉県サッカー選手権大会(天皇杯埼玉県予選) アヴェントゥーラ川口0-2東京国際大 埼玉スタジアム第2グラウンド]

 中盤でひと際テクニカルなプレーをみせる小柄な選手がいた。MF小川優介は今季より、埼玉県社会人リーグ1部のアヴェントゥーラ川口に所属している。

 昌平高出身の小川は、21年に高卒で鹿島アントラーズに入団。主将MF須藤直輝(現高知)との同時入団で、FW小見洋太(新潟)、MF柴圭汰(福島→引退)と4人同時にJリーグ入りを果たしたことでも話題を集めた。

高校時代の小川

 しかし日本最高峰の常勝軍団で出場機会を掴むことは容易ではなく、試合出場は2年目の天皇杯のみ。J1出場は叶わず、わずか3年で契約満了となった。プロ4年目はJ3のFC琉球でプレーしたが、J3リーグ戦でわずか3試合、ルヴァン杯で1試合の出場に終わると、オフには2年連続の“クビ宣告”を受けていた。

 オフにはトライアウトも受験した。「正直いろんな感情が湧いてきた。引退も考えたし、正直ぐちゃぐちゃで。サッカーは続けたいけど、続けてどうなんだとか。本当にいろんな感情になった」。JFLなどのクラブから声はかかっていた。それでも頭の整理ができなかったことで、断りを入れ続けたという。

 ただそんな小川にきっかけを与える出来事があった。母校の昌平高。実家から自転車で5分くらいのところにあるという母校に顔を出すと、みんなが自分を歓迎してくれた。「結局サッカー楽しいな」。原点がそこにあった。

「昌平に顔を出したんですよ。そしたら結局サッカー楽しいなみたいな。でも時期が時期で、とっくにほとんどのクラブがキャンプも終えていた。行くところもなくなったところでしたが、縁あって地元埼玉出身ということで川口が声をかけてくれました」

 アヴェントゥーラ川口は選手全員が会社員として働きながら、サッカーを続けている。小川も川口市に本社がある三位電気株式会社に入社。高卒からJリーガーとして「サッカーをすること」を仕事としてきたが、初めて会社員生活を始めることになった。

「マンションを建てているところの配線とかをチェックする仕事です。朝8時から現場に行って、17時まで働く。家に戻ってから準備をして、電車で1時間くらいかけて練習場に行って2時間くらい練習します。今は仕事があるので、プロと比べるとコンディションとか考えている暇もありません(笑)」

左から2人目が小川

 今でも高卒で一緒にプロになった4人でご飯に行くなど、交流が続いている。また大学経由でプロになったMF小澤亮太(日体大→山口)やMF屋宜和真(平成国際大→栃木SC)、さらには北九州で活躍するMF平原隆暉ら後輩の活躍も素直に応援できているという。それは自分もJリーガーとして、厳しい競争の中で戦った苦しみを知るからこそでもある。

「自分の思い通りにいかないことの方が多かったけど、自分にとっては無駄のない4年間だったと思う。もちろん気持ちの面で難しい部分は多くありましたし、すごく考える時間も多かった。プロの世界は練習して終わりなので、基本は。その中でずっと試合に出られないというところで、どうやったら試合に出られるんだろうみたいな。どうすればいいかを考える時間が多くて、自分としても成長できた期間というか。そういう場ではなかったんだろうけど、振り返ればすごく充実した4年間だったなと思います」

 少し意地悪な質問もしてみた。高卒でプロ入りを選んだ後悔はないか。しかし小川は「ないですね」と即答した。

「自分もJ1、J3も経験して、いろんな選手を見てきた。彼らは彼らでやることをやって、成功しているというか、自分でチャンスを掴み取った。自分はそれを掴み切れなかっただけで、さぼっていたわけではない。だから後悔するとかは全くないです」

 今後も可能性は捨てずにサッカーと向き合っていくつもり。ただ一番は「サッカーを全力で楽しむ」ということを大事にしたいという。

「プロに入って試合に出れなくて、もちろん試合で活躍することが目標だったけど、そこを目標にして、上を見すぎてサッカーをしても楽しくない。振り返れば高校のときもそうだった。サッカーを全力で楽しんで、結果がついてくればという感じ。先の目標は、もちろん上に行ければいいけど、見すぎるのも現実味がなくなってしまう。自分の実力のなさを感じるというか、とりあえずサッカーが好きなことには変わりはないので、今を全力で楽しみたいです」

 サッカーができる有難みは、高卒5年目で一番感じている。「去年まで練習だけして、お金を貰っていたけど、今は全然違う生活。自分の知らない世界だけど、何事も楽しむ。自分の人生がたぶんそう。仕事も楽しむという部分で今はやれていると思います」。23歳の元Jリーガーは、明日もいつも通り、6時半に起床して、作業服姿で仕事現場に向かう。

(取材・文 児玉幸洋)


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Source: 国内リーグ

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