[MOM5071]昌平GK小野寺太郎(3年)_「青森山田に勝ちたい」と地元・青森から単身埼玉へ!応援団長から正守護神へと駆け上がった人間性抜群の背番号16が好セーブ連発!

ファインセーブを連発した昌平高の正守護神、GK小野寺太郎(3年=リベロ弘前SC U-15出身)
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.27 プレミアリーグEAST第4節 柏U-18 0-0 昌平高 三協フロンテア柏スタジアム]

 試合後にアウェイのスタンドへ挨拶に来た赤いユニフォームの守護神に、黄色いウェアを着た子どもたちから期せずして「ナイスキーパー!ナイスキーパー!」という声が巻き起こる。それこそが、この男が彼らの心を動かすようなパフォーマンスを披露したという、何よりの証だろう。

「とりあえず自分はキーパーとして無失点に抑えることがこの試合の目標だったので、そこを達成できたのは次にも良い流れができますし、これからの良い結果に繋がるかなと思います。やっぱり無失点は気持ちいいですね」。

 青森から埼玉へと単身でやってきた、抜群の人間性も印象的な昌平高(埼玉)の新守護神。GK小野寺太郎(3年=リベロ弘前SC U-15出身)が再三にわたるビッグセーブと、チームにもたらす強烈なエネルギーで、アウェイでの勝ち点1獲得へ大きく貢献したことに疑いの余地はない。

 柏レイソルU-18(千葉)と対峙するプレミアリーグEAST第4節。普段はプロの試合も開催される三協フロンテア柏スタジアムでの試合に、今季から昌平のゴールマウスを託されている小野寺は「この試合の前に芦田さん(芦田徹監督)が『覚悟して戦え』と言っていて、全体として勝ちに行くマインドになっていたので、『最後の砦として失点は許せない』と思っていました」と十分なモチベーションでピッチに向かう。

 その際立ったパフォーマンスが発揮されたのは後半に入ってからだ。まずは5分。左サイドでのスローインの一連からファーサイドへとクロスが流れ、収めた相手選手のシュートは枠を捉えるも、素早い反応で枠外へと弾き出す。

「自分はああいうプレーが苦手で、ずっと課題だったんですけど、あのシーンは日々の練習の成果が出たかなと思います。決められたくない一心で、気合で止めました」。失点してもおかしくないシーンで繰り出したビッグセーブ。駆け寄るチームメイトを鼓舞し直し、すぐに次のプレーへと集中力を研ぎ澄ませる。

 14分。柏U-18のCK。中央にボールがこぼれ、エリア内から放たれたシュートは味方に当たってコースが変わったものの、瞬時に軌道の変化を見極め、詰めている相手も視野に捉えつつ、確実にキャッチ。危険なシーンを冷静に回避する。

 26分。今度はエリアのすぐ外でボールを動かされ、縦へのくさびからワンツーを許し、中央から枠内にシュートを撃ち込まれるも、ここも足を運んで正面でがっちりキャッチ。昌平のゴールに鍵を掛け続ける。

 ファイナルスコアは0-0だったが、冒頭で触れたように“先輩”たちの応援に来ていた柏アカデミーの小学生たちから、「ナイスキーパー!」の声が飛ぶのも納得のパフォーマンス。「今日はいい感じに力も抜けていて、判断もしっかりできて、ここまでやってきた試合の中で一番良いパフォーマンスだったと思います」と話した小野寺は、この日のスタンドに訪れていた少なくない人に、自身の存在を強烈にアピールしてみせた。

 ここまでのプレミアでは4試合にフル出場。定位置を掴みつつあるが、「代替わりして、トップチームに入ることができたんですけど、もう最後の年ですし、『思い切ってやろう』みたいなマインドになってから、今まで以上に熱が入って、何とかみんなに食らい付いている感じです」と本人が話すのには理由がある。

 昨シーズンはプレミアの登録には入れず、Bチームが主戦場に置くS1(埼玉県1部)リーグの出場機会も訪れない。「下の、下のカテゴリーにいて、練習試合でもB戦に出るぐらいで、全然試合に絡めなかったので、『練習あるのみだな』と思って、練習ばかりしていましたけど、『このレベルだから自分はここにいるんだな』というのはずっと感じていました」。練習には真摯に取り組んでいたものの、自分の実力不足を痛感する日々が続く。

 だが、小野寺は極めて重要な役割を担っていた。それはチームの『応援団長』だ。「最初は別の3年生が指名されてやっていたんですけど、自分の中では『この応援で選手たちをサポートしきれるのか?』みたいに感じたので、コーチに『自分がやります』と立候補しました」。

「もう応援団長としては、ピッチで戦えない分、『オレらの声でゴールを決める』ぐらいの感じで戦っていましたし、応援団長をやったことで、声を掛けてチームを動かすところとまとめるところが経験できたので、それも今はピッチ内で生きているのかなと思います」。

 目の前にある“やるべきこと”には全力で向き合う。チームを支えるマネージャーが「本当にいい性格です」と口にすれば、芦田徹監督も「間違いなく普段の取り組みとか、前向きさとか、味方に対しての働きかけは素晴らしくて、まさに周りの選手に安心感を与えていますし、自分もそのテンションやエネルギーをそのままピッチにぶつけて、出せていると思いますね」と絶賛。応援団長から正守護神へと駆け上がった小野寺には、人を惹きつける何かが確実に備わっている。

 青森出身の小野寺は、リベロ津軽SC U-12(現・リベロ弘前SC U-12)でプレーしていた小学生時代に、U-17日本代表にも招集されている湘南ベルマーレU-18のFW葛西夢吹(3年)らとともに全国大会を経験。そのままU-15へと昇格したものの、“ある試合”を見たことで大きく人生の針路が動く。

「須藤直輝選手(現・高知ユナイテッドSC)の代の昌平が、選手権で青森山田にギリギリで負けた試合を見ていて、『ああ、山田が負けるんだ』と思ったんですけど、結局昌平が負けてしまった時に、『自分も山田に勝ちたいな』と思ったんです。そこからずっと『昌平に行く』と決めていた中で、中学生のころも山田と張り合っていたんですけど、ずっと負けていたことで、さらに『山田に勝ちたい』という気持ちが強くなったので、今はずっと行きたかった昌平に来て頑張っています」。

 過去2年の対戦は叶わなかったものの、ようやくそのチャンスが舞い込みかけているのは間違いない。プレミアの前半戦で青森山田高と対峙するのは、5月17日に開催される第8節のホームゲーム。「知っている選手も多いので、それも含めて負けられない想いはあります。絶対に負けないですよ」。小野寺はそれまでより少しだけ力を込めて、ハッキリと言い切った。

 それでも、今の立ち位置に満足しているはずもない。「試合に出られていることは嬉しいですけど、同じぐらいの身長でずっと張り合っている入江希星は自分にないものを持っていますし、土渕璃久という凄く大きいヤツもいて、自分がずっと出られるとは思っていないので、そこは気が抜けないです」。ここまでの高校生活で切磋琢磨してきた“ライバル”たちの存在が、さらなる成長欲を刺激する。

 幸先良いスタートを切った高校ラストイヤー。もう最後まで100パーセントでやり切るしかない。「選手権を目指して青森から出てきたんですけど、やっとピッチに立てるようになったので、埼玉に出してくれた親とか、ずっと応援してくれているおじいちゃんとか、そういう人たちへの感謝の想いも含めて、2025年は良い結果を出して、燃え尽きたいですね」。

 時は来た。証明する。蓄えてきた自分の力を。この学校の門を叩いた意味を。チームにパワーを与える応援団長として、チームを最後尾から支える正守護神として、試合を戦うことの本質を学んできた背番号16のナイスガイ。緑の炎を心に宿した2025年の小野寺太郎は、とにかく燃えている。

(取材・文 土屋雅史)


●高円宮杯プレミアリーグ2025特集
▶ゲキサカでは高校サッカーの最新情報を伝えるポッドキャスト番組も配信中
Source: 大学高校サッカー

コメント

タイトルとURLをコピーしました