[6.15 インターハイ群馬県予選決勝 前橋育英高 2-0 桐生一高 正田スタ]
ピッチで対峙してみて、はっきりとわかったことがある。今はまだ遥かに及ばないけれど、彼らのようなレベルまでたどり着けば、きっと自分の未来も切り拓かれていく。イメージはできた。あと半年あまりでしっかり日常を積み重ねて、次に再会する時には必ず成長した姿をぶつけてやる。
「自分はセカンドの回収だったり、守備のところが武器だと思っているんですけど、育英のボランチに比べたら、まだ全然足りないですし、あの2人を倒さないと全国には行けないので、もっと上のレベルで通用するためにも、あの2人みたいにならないとなと思います」。
桐生一高(群馬)の中盤を引き締める、オレンジのDNAを受け継いだボランチ。MF本間響(2年=アルビレックス新潟U-15出身)はこの日立ちはだかられた大きな壁を超えるべく、さらなる成長を心に誓っている。
「試合前から『ビビらずに前に行こう』という話だったんですけど、自分たちボランチがなかなか前に行けなくて、相手のボランチからサイドに展開されるシーンが多かったので、前半からもっと行くべきだったかなと思います」。
本間は最初の40分間を、少し悔しそうに振り返る。インターハイ予選決勝。昨年度の高校選手権で日本一に輝いた、前橋育英高と対峙する一戦。桐生一は相手のポゼッションや、ドリブルと細かいパスを織り交ぜたコンビネーションプレーへの対応に追われる中で、少しずつ後手に回り始める。
「育英が他のチームと違うのは、グループで剥がす能力もありますけど、足元の技術もみんなあるので、変に飛び込んだら抜かれますし、相手のボランチはどっちも上手かったので、行くところはちゃんと行って、ブロックを敷くところはしっかり敷くということは意識してやっていました」。
そう話す本間の対面にいた、前橋育英のドイスボランチを組む柴野快仁と竹ノ谷優駕は、全国制覇を主力で経験しただけあって、攻守にハイレベルなプレーを連発。後半から出場した新人戦の決勝でも同じピッチに立ったものの、この日は改めてその実力を肌で感じることになる。
「自分の中でも育英のキーマンはあの2人だと思っていたんですけど、やっぱりメチャクチャ差はありました。特に自分がマッチアップすることが多かった柴野選手は、前への推進力で運んできて、自分でも剥がせますし、ゴールを決められそうなシーンもあったので、あの2人に勝つには、もっとやらなきゃなと感じました」。


後半はチームも積極性を取り戻し、本間も前に出ていく回数も増えたものの、先制点を許すと、27分には交代でベンチへ。「ビビって引いていても相手の思うつぼですし、もっと前半から全員で走って、戦うべきでした」。試合は0-2で敗戦。2年生ボランチは悔しい結果を突き付けられつつ、到達すべき絶対的な“基準”を手に入れることになった。
本間の前所属はアルビレックス新潟U-15。父親は「ミスターアルビレックス」として知られるクラブのレジェンドでもあり、現在も新潟の強化部スカウトを務める本間勲さんだ。
「自分がメッチャ小さい時に活躍していたので、正直お父さんがプレーしている姿はそこまで記憶にないんですけど、ボランチは頭を使うポジションだということを理解し始めてからは、話している感じから『かなり頭を使ってプレーしていたんだろうな』と感じますし、チームのために戦うところも、凄い選手だったんだろうなとは思っています」。
準決勝で納得のいくプレーができなかったこともあって、その日には父に電話をして、アドバイスを求めたとのこと。「お父さんから常に言われるのは『90分間、足も頭も止めない』ということで、自分は能力が高いわけではないので、“ヨーイドン”で勝負したら負けるところもあるんですけど、自分が先に予測して一歩速く出れば、マイボールにできることもあるので、『常に頭を動かすよう』にとは言われています」。
同じボランチを主戦場に置いているからこそ、その言葉がより響くところも多分にある。「一番身近にいいお手本がいるので、もっと聞けることは聞いて、吸収したいと思います」。最高のお手本であり、最高のライバル。父の背中が、本間にとって追いかけがいのあるメルクマールであることは間違いない。


新潟U-15から桐生一というのは、かなり珍しいパターンの進路選択ではあるが、ここにも父の助言があったという。「小さいころから高校サッカーへの憧れが強くて、高体連のチームに行きたいと思っていましたし、自分は近い距離で繋ぐスタイルが好きなので、いろいろなチームを調べていく中で、お父さんが『桐一はボールを繋ぐ良いチームだし、同じ県内に育英がいるから、そこを倒すという目標を持つのもいいんじゃないか』と言われて、いろいろな人に相談したうえで決断しました」。
入学してからここまでの1年強の時間は、確実に自分の進化を後押ししてくれるものになっている。「育英とやれるのはトーナメントだけですけど、プリンスリーグはどのチームも強いですし、練習試合で対戦する相手もレベルが高いので、ここに来て良かったなと思います」。
チームを率いる中村裕幸監督は、厳しい視点を持ちつつも、さらなる成長に期待を寄せる。「まだ綺麗にやりたがるというか、がむしゃらさが足りないですけど、だいぶ良くなってきました。攻守から切り替えの守備に入った時のファーストディフェンスの上手さだったり、教えづらいことができるところもあるので、この夏でさらに成長してほしいですね」。
今季の残されたトーナメントは高校選手権のみ。一緒に戦ってきた3年生の先輩たちのためにも、本間は自信の成長を誓いながら、チームとしての結果を出すことにも、しっかりと目を向けている。
「攻守に頭を使えて、走れるような、もっといいボランチになりたいですね。攻撃でゴールやアシストという数字は求めていきたいですし、守備だったらもっとボールを奪い切るとか、走ることを意識しないといけないと思います。今の3年生にはメチャメチャ優しくしてもらって、本当に尊敬の気持ちしかないので、この先輩たちと全国に行けるように、個人としても、チームとしても、もっとレベルアップしていきたいです」。
このチームと、この仲間たちと、目の前に立ちはだかる壁は、すべて超える。桐生一の中盤を引き締める、ボランチのDNAを身体に刻み込んだ16歳。本間響は“あの2人”とピッチ上で再会するその日まで、とにかく努力を積み上げ続ける。


(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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