日本代表の名波浩コーチが13日、千葉市内で報道陣の取材に応じ、開幕まで残り1年を切った北中米W杯に向け、メンバー入りを狙う選手たちに「(試合に)出続けて本大会を迎えてほしい」と所属クラブでのポジション確保を求めた。
カタールW杯後の2023年1月から就任し、攻撃のトレーニングを担当している名波コーチ。北中米W杯では守備に追われる時間が続いたカタールW杯からの進化を見せるべく、その手腕にいっそう期待が高まるが、この日は報道陣から「1年後に向けて一番取り組まなければいけないこと」を聞かれ、これから欧州各国でシーズンを戦う選手たちに対して「ある注文」を行った。
「やらなきゃいけないことはたくさんあるけど、一番を決めるのはなかなか難しい。でも選手に対しての注文としてやってきてほしいことはある。それは(試合に)出続けて本大会を迎えてほしいということ。移籍先で苦しんでいる選手、スタメンで出られずに苦しんでいる選手もいるなかで、その苦しさ、悔しさを代表の試合で発散するという時代じゃない。昔はそうだったかもしれないけど、今はそういう時代じゃない。出続けた選手がそういう称号(W杯メンバー)を得られると思うので、一番やりたいことというわけじゃないけど、その選手たちにいいアプローチをしたいなと思う」(名波コーチ)
普段の代表活動ではチームの攻撃練習を指揮するかたわら、選手個々と積極的に対話し、密な関係性を構築している名波コーチ。その際には各選手の所属クラブでのパフォーマンスにも言及しつつ、時には自信をつけるアドバイスを送っている様子もうかがい知れるが、そのアプローチの根底には現在の代表選手のキャリアに対する敬意があるという。
「まずいの一番にリスペクトがある。自分より、もしくは自分たちよりすごいキャリアを積んでいる。順調に個人昇格というステップアップを続けてほしいなと強く感じている。接していく上で個人昇格に一役買えたらなんて大それたことは思っていなくて、彼らが何かヘルプしてきた時、10個のアドバイスがあるとしたらその1つでも実になることを言えたらという感覚でいる」
その対話の中では試合に出場する選手への戦術的な指導だけでなく、ポジション争いで苦境に陥っている選手のケアにも余念がない。名波コーチ自身は「ボス(森保一監督)が行けって言うんで行っているだけ」と謙遜するが、その振る舞いは自らがA代表でポジションを失った時の経験も活かされているという。
「(選手との)関係性として、代表イズムとか、過去に血と汗と涙を流してきた諸先輩方の思いはポイチさん(森保監督)はじめスタッフが伝えるべきところだと思うし、選手たちもそれを強く感じてくれてやっている。実際に前回予選、前々回予選、(長友)佑都は南アの予選から、簡単にアジア予選を突破したチームがなかなかないなか、そういう振り(アプローチ)は何回もした。出られない選手たちにも、出られない選手たちの気持ちがわかる人間じゃないと声をかけられないし、僕自身もそれはわかっている」
今年3月のサウジアラビア戦後にはMF久保建英(ソシエダ)が「名波コーチが試合前に『信頼してるよ』と言ってくれて、その一言がもらえるだけで選手は嬉しいものだと思う。頑張ってきて良かった」と語っていたが、かつての名選手の助言は今の日本代表を支える選手たちにも響いているようだ。
かつて1998年にはW杯フランス大会で10番を背負い、日本代表史上初となるW杯のピッチに立った名波コーチ。10か月後には選手を支える“参謀”として28年ぶり2度目のW杯に挑む。
この日、報道陣からW杯初戦のベンチ前に立つ瞬間への思いを問われた名波コーチは「今日の会見で一番の本音を言うと、それはやばいよね。心境的に。まさかまた自分がW杯予選で国歌を聞けるなんて思っていなかったから。ポイチさんいつも泣いてるじゃないですか。俺の横で泣くのはずるい。もらいそうになるので。本当にギリギリで耐えているけど、そういう感情にいつもなっているから、感慨深いなんて言葉ではくくれないくらいの感覚」と言葉に熱を込め、「ついに泣くかもね。そんな未来は想像していなかった」と胸を躍らせていた。
(取材・文 竹内達也)
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Source: サッカー日本代表
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