日本代表コーチの齊藤俊秀氏が13日、千葉市内で報道陣の取材に応じ、欧州トップクラブに次々と挑戦する日本のCB陣について「日本人のきめ細かさを知れば知るほど、ヨーロッパの指導者の人たちも起用したいというふうになっているんだと思う」と太鼓判を押した。
齊藤氏は第1次森保ジャパン初期の2018年11月からコーチを務め、主に守備のトレーニングを担当。全体練習後には選手個々に合わせた個人メニューで居残りトレーニングに付き合うのが恒例となっており、U-15日本代表時代から知るDF冨安健洋を始めとした数々のCB陣の育成に貢献してきた。
そうした成果もあり、いまでは冨安のほかにもDF板倉滉(アヤックス)、DF伊藤洋輝(バイエルン)、DF町田浩樹(ホッフェンハイム)、DF渡辺剛(フェイエノールト)、DF瀬古歩夢(ル・アーブル)、DF高井幸大(トッテナム)といったCBが欧州5大リーグや欧州カップ戦出場クラブにステップアップ。日本は世界でも有数のCB輩出国となっている。
齊藤氏はその要因について次のように語った。
「単純に外国人のフィジカルが強い選手と対峙するというのはもちろんそれは僕らも経験しているけど、ドラゴンボールのスーパーサイヤ人の1か2くらいのイメージで、ある程度は強くなればなるほど抑えれられる。でもある領域にいくとそれだけじゃダメ。ナチュラルな状況でもスッと予測して抑えるとかが必要になり、日本人の選手はそれができている。戦わずして勝つような駆け引きもできる。馬鹿正直に『かかってこいよ』と止めてしまう選手はマンガ的には格好いいけど、それだと時にはやられることもあるし、味方が戻ってこないといけないこともある。でも日本人選手はラインコントロールとか駆け引きも含めて相手が迷子になるような駆け引きまでできる。実際に代表でもそういうトライをしてくれている」
「あとはシンプルにサイズがみんな上がってきていると思う。僕ら世代は井原(正巳)さん、秋ちゃん(秋田豊)とか、オムさん(小村徳男)がいて、同じくらいの目線で話せていたけど、彼らと話しているとこんな(見上げる)感じで話している。サイズでもヨーロッパの選手に引けを取らないし、試合前の写真撮影で並んでいる姿を見ても日本の選手のほうが大きいんじゃないかくらいになった。だから駆け引きだけじゃなく、ベースのところも大きくなっていて、両輪で成長してきている。それが鬼に金棒だし、そこが向こう(欧州トップクラブ)に行ける所以となっているのかなと思います」
そうした彼らの飛躍は、代表チームにも良いフィードバックをもたらしているようだ。
なかでも大きかったのは昨季までアーセナルで4シーズンにわたりプレーしていた冨安の存在だ。2019年のアジア杯期間中には、A代表デビュー間もないながら全試合に出場していた当時20歳の冨安が「齊藤コーチにヘディングの個人練習を付き合ってもらって、高いボールやいろいろなボールを出してもらいながら感覚をつかんでいったのが大きい」と話していたこともあったが、冨安からの働きかけは齊藤コーチ側にも良い刺激を生んでいたのだという。


「いまでも覚えているのは、トミがもともとこだわりがあった中で、クロスの練習をする時に普通のボールをクリアするのは普通にできるけど、ヨーロッパだとピッチが濡れているから手前で跳ねるような難しいボールを蹴ってほしいと。その発想は僕もあまりなかった。クロスで浮いたボールを跳ね返すんじゃなく、自分の手前で跳ねるような、水辺に石を投げるようなボールを跳ね返して感覚を研ぎ澄ませるというのはいまも時々やったりしている。あれはすごく良い意味で選手との二人三脚で、僕も学んだことがあったし、それをうまくブレンドしながらやっていけたらと思っている。彼らがあれだけの選手たちになってきているので、いろんな選手のアイデアと、それぞれがやりたいことを大事にしていきたい」(齊藤コーチ)
そうした冨安の真摯な積み重ねもあり、いまでは個人練習に取り組む選手が増え、「あえてやろうと言わなくても自然と集まってきたりとか、そういう文化ができている。もともとやってきた選手とのこともあるし、新しく入ってきた選手も『来いよ』というのではなく、その雰囲気を見て自然とグループができている」と齊藤コーチ。攻撃陣が名波浩コーチとのシュート練習、GKが下田崇GKコーチとの専用メニューに取り組む姿もおなじみの光景となっており、松本良一フィジカルコーチが指揮するスプリントやランニングの負荷調整も含め、限られた代表活動期間を有意義なものにする手助けが行われている。
またトップレベルでプレーする選手の存在は、チームの戦術にも大きな影響をもたらし得る。
齊藤コーチはこの日、チームの守備で重要視している被カウンター時の一斉帰陣を、人気漫画キャプテン翼のGK若林源三の愛称「SGGK(スーパーグレートゴールキーパー)」になぞらえて「SSBK(サムライ・スプリントバック)」と名付けていることを明かした。
そのイメージ映像には、23年9月の国際親善試合・ドイツ戦の最終盤に日本の選手が見せたスプリントのシーンを使っている様子。だが、それ以前は冨安がプレーしていたアーセナルの映像などから着想を得ていたという。
「それ(SSBK)の出発点はドイツと親善試合をやった時、4-1でリードした時の93分くらいにCKを蹴って、カウンターを食らった時に10人全員がドンと戻った。それを見た時にすごいなと思って、一番最初に取り入れることにした。ただそれも選手の(所属クラブでの)映像を見ていた時、アーセナルがそういう“戻り”(帰陣)をしていたとか、リバプールがそういう“戻り”をしているというのがあった。彼らの日常から紐解いて、ドイツ戦のシーンからさらに遡って、アーセナルでトミと話した試合での“戻り”にインスピレーションを受けたこともあったので、それも選手と共に作り上げたというのをすごく感じている」(齊藤コーチ)
来年夏の北中米W杯で「世界一」を目標に掲げる日本代表において、質の高いCB陣の活躍は不可欠。現在は冨安、伊藤、高井が負傷離脱中で、板倉、町田、渡辺、瀬古が今夏の移籍ウインドーで新天地に飛び込むという激動のさなかにあるCB陣だが、9月にアメリカ遠征(メキシコ、アメリカと対戦)、10月・11月には国内で強豪国とのテストマッチが予定されているなか、さらなる選手層拡大に期待したいところだ。
(取材・文 竹内達也)
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Source: サッカー日本代表
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