[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.15 プレミアリーグEAST第13節 横浜FCユース 1-1 青森山田高 ニッパツ三ツ沢球技場]
センターバックとして、失点の責任は強く感じていた。終盤に差し掛かるタイミングでベンチから命じられたのは、パワープレーに移行する中で、ターゲットとなるフォワードへのスライド。もう、やるしかない。どんな形でもいいから、自分じゃなくてもいいから、必ずゴールを奪ってやる。
「自分のところで失点してしまって、監督に『フォワード行け』と言われたので、絶対に取り返すつもりで走り続けて、1点を獲りに行きました。もう後ろから出てきたボールには、全部行こうと思っていました」。
186センチの長身に、圧倒的なジャンプ力も兼ね備えた青森山田高(青森)が誇るエアバトラー。DF大場光翔(3年=FC Cantera U15出身)が諦めずに、折れずに、ひたすら走り続けた先には、ゴールという名のご褒美がしっかりと待ち受けていた。
「後期に入った前節も負けてしまって、そこからの横浜FC戦ということで、今日は前半から良い流れに持っていって、試合を作ろうと思っていたんですけど、前半はなかなかうまく行かなかったです」。
大場は最初の45分間をそう振り返る。プレミアリーグ後半戦の初戦となった前節のFC東京U-18戦は、ホームで2-3と敗戦。連敗回避を期して挑んだこの日の横浜FCユース戦だったが、前半はなかなか思ったようなパフォーマンスを繰り出せない。
「相手の2トップの1枚が落ちてきたところで、センターバックが潰し切れなくて、そこで横浜FCが前進してしまったのが、苦戦の原因だと思います」と大場。センターバックでコンビを組むDF月舘汰壱アブーバクル(3年)とのプレーの棲み分けが整理しきれず、嫌な位置で基点を作られたことで、そこからのサイドアタックを浴びる回数も増えていく。
とはいえ、やはりハイボールへの対応に関してはプレミア有数のレベル。「プレミアだと相手のフォワードも大きく、強くなってくるので、そことやり合うことで、ヘディングに関してはどんどん成長できていると思っています」。昨シーズンは県リーグを戦うサード(3rd)チームやフォース(4th)チームでもプレーしていたが、今季はプレミアを戦うトップチームに引き上げられ、ここまで4節を除いた全試合にスタメン起用。本人も高校年代最高峰のステージを経験してきたことで、確かな手応えを感じてきた。


この日の試合でも空中戦では威力を発揮していたものの、後半21分にはシンプルなフィードで裏返され、サイドからクロスを上げられると、両センターバックの間に潜った選手にゴールを献上。「自分たちディフェンスラインの甘さで失点してしまったと思います」。悔しい失点を喫し、ビハインドを負う展開を強いられる。
1点を追い掛ける中で、時間ばかりが経過していくのを見て、正木昌宣監督は39分に決断。センターバックにDF島津亮太(3年)を送り込み、前線に大場と深瀬のともに180センチを超えるツインタワーを並べ、パワープレーの選択肢をチームへ明確に提示する。
その効果が発揮されたのは“左足”だった。後半もアディショナルタイムに入っていた45+3分。MF藤原栄之郎(3年)が前線に蹴ったフィードは相手ディフェンスラインの背後に落ちたが、“背番号5のフォワード”は諦めない。ボールを拾ったDFへプレスを掛けると、短くなったバックパスが目の前に転がってくる。
もう右足は攣りかけていた。それでもスピードを落とさず、右足で飛び出したGKをかわし、左足で丁寧にフィニッシュ。ボールはゆっくりと、ゆっくりと、ゴールネットへ吸い込まれていく。土壇場も土壇場で飛び出した、起死回生の同点弾。気づけばピッチサイドで待つチームメイトたちの元へ、勝手に足が動いていた。




「もう1点行こうとはしていたんですけど、ベンチに行ってしまって(笑)。そこはちょっと自分としては反省点ですね」とは本人だが、まさにチームを救う執念の一撃。得意の空中戦ではなく、最後まで走り切った地上戦で、引き寄せた確かな成果。“背番号5のフォワード”の執念が、青森山田に貴重な勝点1をもたらした。
チームメイトたちには大きな“借り”がある。6月のインターハイ予選決勝。八戸学院野辺地西高との一戦はPK戦にもつれ込んだ中で、7人目のキッカーとして登場した大場のキックは相手GKにストップされる。直後の相手キッカーが成功したことで、チームはまさかの敗退が決定。県公式戦の連勝記録も418連勝でストップすることとなった。
「総体に負けて、そこからの1週間ぐらいは全然気持ちも入らなかったんですけど、プレミアと選手権のことを考えたら、自分たちには後輩に繋げていかないといけないものがあるので、チームのみんなで『やるしかない』ということを話して、何とか立ち直りました」。
もうこれ以上は負けたくない。みんなの悔し涙も見たくない。何より、自分に再び自信の灯をともらせたい。シビアな夏のトレーニングを乗り越えて、見据えるのは明確なタイトル。「三冠が目標だったんですけど、その1つはなくなってしまったので、二冠を目標にチームで頑張っていきたいと思います」とまっすぐな視線で言い切る姿が頼もしい。
残された高校生活の時間は、すべてが成長するために必要な過程。プレミアリーグ随一の高さを武器にする、ナンバー5を背負った青森山田の摩天楼。大場光翔はセンターバックでも、フォワードでも、空中戦でも、地上戦でも、今やるべきことを、ただひたすらに突き詰めていく。


(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2025特集
▶高校サッカーの最新情報はポッドキャストでも配信中
Source: 大学高校サッカー
コメント