帰ってきたキャプテンが1年4か月ぶりにピッチで味わった勝利の瞬間。RB大宮U18MF斎藤滉生は今持てるものすべてを懸けてプレミア昇格を手繰り寄せる!

RB大宮アルディージャU18を牽引するキャプテン、MF斎藤滉生(3年=JFAアカデミー福島U-15 WEST出身)
[9.15 プリンスリーグ関東1部第11節 RB大宮U18 2-0 栃木SC U-18 埼玉スタジアム2002 第4グラウンド]

 勝利のホイッスルをピッチの上で聞いたのは、もう1年以上も前のこと。忘れかけていたその音色が耳に届いた時、何とも言えない懐かしさと、何とも表現しがたい嬉しさが同時に押し寄せてきた。やっぱり、勝つって最高だ。

「本当に久しぶりだったんです。その感覚を忘れていたと言ったらアレですけど、そのぐらい長い期間、個人的には勝ちが味わえていなかったので、今日は自分が90分最後まで試合に出て、チームのみんなで勝点3を獲れたのは、メチャクチャ嬉しかったです」。

 1年でのプレミア復帰を見据えるRB大宮アルディージャU18(埼玉)を、しなやかなリーダーシップで束ねるキャプテン。MF斎藤滉生(3年=JFAアカデミー福島U-15 WEST出身)はオレンジの仲間たちとともに、久々に味わう歓喜の笑顔を弾けさせた。

 2024年シーズン。1年を通じて、なかなか思うような結果をプレミアの舞台で出せなかった大宮U18(当時)は、第20節の敗戦を受けてプリンスリーグへの降格が決定する。10月までのリーグ戦19試合中、17試合に出場。後半戦は定位置を掴んでいた斎藤は、3試合を残した段階で負傷離脱。降格の瞬間はピッチの外で味わった。

「自分の中では試合に出させていただいているのに、結果が出せない、良いプレーができないというもどかしさとか、『試合に出ているのに情けないな』という悔しい気持ちがありました」。

 プリンスリーグ関東1部を戦う2025年シーズン。斎藤はキャプテンへの就任を志願する。「やっぱり去年の降格という悔しさがあったので、プレミアに昇格して、去年の悔しさを自分が先頭に立って晴らすということを決めて、キャプテンを自分からやると言いました」。大きな覚悟を持って、アカデミーラストイヤーへと歩みを進めていく。

 だが、強い想いとは裏腹に、ケガから復帰しても自身のパフォーマンスは上がってこない。「自分が思っている以上に、『良いプレーを出さないと』という気持ちが先走ったままシーズンに入ってしまって、空回りしていたというか、結構うまく行かない感じがありましたね」。しっくりこないままプレーしていた中で、リーグ戦の第2節・栃木SC U-18戦で試合中に負傷すると、診断の結果は足首の骨折。またも3か月近い戦線離脱を余儀なくされることになった。

 自らキャプテンの座に就いたにも関わらず、またもシーズン中に負ってしまった大ケガ。気持ちが落ちなかったと言ったら嘘になるが、改めて自分と向き合わざるを得ない時間を過ごす中で、斎藤の心境に少しずつ変化が訪れる。

「チームメイトがユニフォームに寄せ書きを書いてくれましたし、自分のことを考えて連絡してくれるスタッフの方もいて、応援してくれる人がそばにいるというのは非常に心強かったです。あとは両親が『滉生が一生懸命やっている姿を見れるだけで嬉しい』という言葉を掛けてくれたので、自分はそれまで背負いすぎていたのかなって」。

 チームを率いる丹野友輔監督も、キャプテンの苦悩は十分にわかっていた。「そんな時に丹野さんからも『背負いすぎなくていいよ』という言葉をいただいたので、そこで『自分らしくやっていこう』と改めて思いました」。もちろん果たすべき役割はしっかり果たすけれど、すべてが完璧である必要はない。自分にできることを、1つずつ、丁寧に、全力でやっていく。そう考えたら、少しだけ心が軽くなった気がした。

 この日のリーグ戦の相手は、最下位からの浮上を期す栃木SC U-18。「自分たちは首位の立ち位置で、栃木SCは一番下の順位ということでしたけど、順位のことは忘れて、『どんな相手にもチャレンジしていこう』と話していました」。斎藤はキャプテンマークを巻いて、まっさらなグラウンドへと駆け出していく。

 前半21分にMF小坂真聖(2年)のゴールで先制したものの、これ以上負けられない栃木SC U-18も粘り強く対抗。「前半は自分たちがボールを持っていたと思うんですけど、後半はボールを持つというより蹴り合いになってしまいましたね」と斎藤。やや膠着した展開の中、スコアは1-0で推移していく。

 それでも次の1点はホームチームが奪う。後半18分。DF井芹響輔(1年)のロングスローから、最後は10番を背負ったFW平家璃久斗(3年)のダイビングヘッドがゴールネットを揺らす。「自分たちが圧力をかけて、相手陣地でプレーして、セットプレーから獲るという2点目でしたけど、こういうゲームだからこそ、崩しての点とかではなく、そういう点だったというのは、ある意味で大きいのかなと思います」(斎藤)。ファイナルスコアは2-0。RB大宮U18は、リーグ3戦ぶりの白星を手繰り寄せた。

 その感覚はほとんど忘れかけていたという。今シーズンの開幕戦はスコアレスドロー。チームは2節で勝利を収めたものの、その試合で負傷すると病院へ直行したため、タイムアップの瞬間は会場にいなかった。戦列に帰ってきたクラブユース選手権はグループステージ全3試合に出場しながら、結果は2分け1敗。さらに後半戦のリーグ初戦となった前節も0-0のドロー。最後にピッチで勝ちを味わったのは、実に昨年5月12日のプレミア第6節・尚志高戦までさかのぼる。

 実に1年4か月ぶりに引き寄せた勝利の感覚。キャプテンはともにチームについて考え、悩み、一緒に前へと進んできた丹野監督への想いを、こう口にする。「90分出て勝利したのは、去年の尚志戦以来で、この2年間は丹野さんと一緒にやってきたので、丹野さんと一緒に勝ちを喜び合う瞬間が本当に待ち遠しかったんです」。そんな指揮官に笑顔をもたらせたことも、メチャメチャ嬉しかった。

 キャプテンとして勝利を喜ぶ一方で、プレーヤーとしての自分にはまだまだ納得していない。「もっとボールに関わって、ボールを動かして、攻撃を活性化させるところは、もっとやらないといけないなと。勝点3を獲れたのは良かったですけど、自分のプレーとしては悔しいものだったので、次に向けて改善していきたいと思います」。常に向上心を携えて、チームも、自身も、さらなる成長に目を向けていく。

 残されたアカデミーでの時間も、あと3か月あまり。キャプテンの決意が力強く響く。「プレミアリーグ昇格という目標がある中で、自分たちがその時にどんな立ち位置にいても、去年の悔しさを忘れず、自分たちはチャレンジャーだという気持ちで、すべての相手にチャレンジしていくというのはチームで決めてやっているので、個人としてもチームとしてもチャレンジして、しっかりプレミアリーグに昇格したいと思います」。

 すべてを懸けて身を投じてきた本当の勝負は、ここからがいよいよ佳境。再びプレミアリーグの舞台へ返り咲く。必ず。絶対に。RB大宮U18を牽引するキャプテン。斎藤滉生は心の中で静かにオレンジの炎を灯しながら、みんなで笑ってシーズンを締めくくるために、100パーセントのエネルギーをピッチの上で燃やし尽くす。

(取材・文 土屋雅史)


●高円宮杯プリンスリーグ2025特集
▶高校サッカーの最新情報はポッドキャストでも配信中
Source: 大学高校サッカー

コメント

タイトルとURLをコピーしました