[10.12 プレミアリーグWEST第17節 岡山U-18 2-3 神戸U-18 政田サッカー場]
試合が終わった直後の表情が物語っているように、望んだような内容のゲームができていないことは、自分たちが一番よく理解している。それでも、勝つ。勝つしかない。残されたのは、もうわずかに5試合のみ。みんなでタイトルを引き寄せるために、どれだけうまく行かなくても、どれだけ苦しくても、もう前だけを向き続ける。
「まず内容がどうであれ、勝点3を獲ることが大事ですし、負けたり結果が出ない中で、さらに内容も良くない時はチームとしても苦しくなると思うんですけど、しっかり勝ちながら、勝点を積み上げながら、自分たちの今できていない部分を改善していくことが大事だなと思います」(ヴィッセル神戸U-18・藤本陸玖)
何とか1点差で逃げ切って、首位キープ!12日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2025 WEST第17節で、ファジアーノ岡山U-18(岡山)と、ヴィッセル神戸U-18(兵庫)が対峙した一戦は、前半のうちに神戸U-18が3点を先行。岡山U-18も2点を返して追いすがったものの、3-2で神戸U-18が貴重な勝点3を積み上げている。
まずは双方が作り合った決定機。前半8分は岡山U-18。MF末宗寛士郎(3年)が縦に運び、MF坂本蓮太(3年)のフィニッシュはDFに阻まれたものの、こぼれを拾った末宗の枠内シュートは神戸U-18GK胡云皓(2年)がファインセーブで回避。11分は神戸U-18。DF寺岡佑真(3年)からパスを引き出し、MF濱崎健斗(3年)が打ち切ったシュートは、こちらも今季初出場の岡山U-18GK来海良宣(2年)がファインセーブ。ともに得点への意欲をファーストチャンスに滲ませる。
アウェイチームが手にした先制点はセットプレーから。13分。MF藤本陸玖(3年)が蹴り入れた柔らかいFKに、走り込んだFW渡辺隼斗(3年)がフリック気味に頭で合わせたボールは、右スミのゴールネットへ吸い込まれる。「泣きそうになるぐらい、本当に嬉しかったです」という、ケガで前半戦を棒に振った背番号9の今シーズン初ゴール。1-0。神戸U-18が1点のリードを奪う。


次の得点を手繰り寄せたのも神戸U-18。27分。左から藤本が蹴ったCKはいったん跳ね返されるも、今季初スタメンに抜擢されたDF上本佳生(2年)とDF原蒼汰(3年)が頭で繋ぎ、最後はDF西岡鷹佑(2年)が粘り強くボールをゴールへ押し込む。またもセットプレーから追加点。両者の点差は2点に変わる。
勢いを強める神戸U-18は、30分にMF瀬口大翔(3年)がクロスバーを直撃する、44分にもMF上野颯太(2年)が右ポストにヒットするシュートを相次いで放つと、45分に迎えた歓喜。左サイドで瀬口のラストパスを受けたFW土井口立(2年)は、GKとの1対1も華麗なループで制し、鮮やかにゴールネットを揺らす。「3-0にするまでは狙い通りというか、ウチのやりたいような形でできていたと思います」とは神戸U-18を率いる安部雄大監督。前半だけで大きなアドバンテージをもぎ取ってしまう。


だが、ゲームの流れにくさびを打ち込んだのは、前半のほとんどラストプレー。45+3分。右サイドで獲得した岡山U-18のCK。レフティのMF行友翔音(2年)が蹴り込んだボールはエリア内で弾み、そのままゴールへ転がり込む。「前半の最後にああいう形で、セットプレーで1点獲り返せたことは大きかったですね」とはキャプテンのMF堤涼太朗(3年)。最初の45分間は、3-1というスコアで推移した。
「もともと後半勝負だと思っていたので、『自分たちの強みを、残りの45分はシンプルに出そう』と話しました」とハーフタイムの指示を明かすのは、岡山U-18を率いる梁圭史監督。後半開始から、前線で基点創出に奔走したFW作田航輝(3年)とFW安西来起(2年)をスイッチして、追撃態勢を整える。
続いた際どいシーン。後半2分。DF瓶井常葉(3年)のピンポイントCKに、大外で完全にフリーとなったDF脇本祐希(3年)のヘディングは、神戸U-18のDF原蒼汰(3年)が間一髪でクリア。その流れの右CKを行友が蹴り入れ、堤のシュートをDF千田遼(3年)はコースを変えたものの、胡が丁寧にキャッチ。19分にも坂本、千田とパスが回り、行友のカットインシュートは胡がビッグセーブで凌いだものの、「厳しい立ち上がりから始まっても、自分たちは実際にそういう試合の方が多いので、誰一人諦めていなかったです」とは堤。劣勢のホームチームに傾いたゲームリズム。
岡山U-18の2年生守護神も意地を見せる。20分。瀬口のスルーパスから左サイドを抜け出した濱崎は、そのままシュートまで持ち込むも、来海が丁寧にセーブ。22分。ここも左サイドから濱崎がエリア内へ侵入し、打ち切ったシュートは来海が懸命に弾き出し、こぼれをもう一度叩いた濱崎のフィニッシュはわずかにゴール右へ。26分。上野がドリブルで推進力を打ち出し、途中出場のFW森分圭吾(3年)が枠内へ収めたシュートも来海がキャッチ。4点目は許さない。
28分。途中出場のストライカーが吠える。DF松本優輝(2年)を起点に、インサイドに侵入してきた脇本と末宗が時間を作ると、こちらも中央に潜った千田はピンポイントクロス。マーカーとの駆け引きで上回った安西のヘディングは、豪快にゴールネットへ突き刺さる。「後半はもうずっと僕たちのペースだったと思います」と坂本。3-2。たちまち点差は1点に。




「前半とは相手のプレッシャーの掛け方が違った中で、相手が前から来ることに対して、このチームは苦手意識があるので、そこがうまく行っていなかったなと思います」と瀬口も言及した神戸U-18は、それでも残された時間をリードしたままやりすごすため、守備での対応を懸命に立て直す。
45+3分。岡山U-18が右サイドの深い位置まで侵入し、クロスを窺う流れの中で、果敢にプレスを掛け、ボールを奪い切り、相手のファウルを誘発したのは左ウイングの瀬口。「攻撃の部分で自分がうまく行っていなかった分、守備をしっかり頑張らないといけないなと思ったので、チームのためにという想いで頑張りました」というキャプテンの好守が、改めてチームに活力をもたらす。
4分間のアディショナルタイムが過ぎ去ると、主審が試合終了のホイッスルを吹き鳴らす。ファイナルスコアは3-2。「まだまだ攻撃にも守備にも改善点が多くあると思いますけど、みんなで守り切って勝ち獲った勝利なので、凄く大きな勝点3だなと思います」(瀬口)。粘って、粘って、逃げ切りに成功した神戸U-18が、首位をキープする結果となった。


「うーん……、複雑ですよね。もちろん追い付かれて終わるよりは、勝って終わった方がいいとは思うんですけど、前半と後半でこれだけゲーム内容が変わってしまったということは、しっかり分析して、反省しないといけないなと思っています」と試合後に話した安部監督は、やや渋い表情を浮かべる。
第14節までリーグ戦8連勝を記録していた神戸U-18だが、第15節の神村学園高戦に1-1で引き分けると、前節のサンフレッチェ広島F.Cユース戦は1-2で敗戦。2試合続けて白星を取り逃がし、2位に付けるサガン鳥栖U-18に勝点3差まで迫られていた。
そういったシチュエーションも考えれば、この日の勝利が持つ意味が小さくないはずはないが、試合終了直後の神戸U-18のベンチでは3年生を中心に、終わったばかりの90分間に対する活発なディスカッションが行われていた。
「この試合の前の2試合はうまく行っていなかったので、寮でもミーティングして、自分たちの中でどうしようかという話はして、それがうまく前半に繋がったんですけど、後半に相手が可変してきたところにうまく対応できなかったのは、自分たちのまだまだなところが出ましたね」という瀬口の言葉からも、3試合ぶりの勝利にも手放しで喜べない率直な心情が垣間見える。
それでも、次の試合はすぐ1週間後にやってくる。ここ3シーズンのリーグ戦はいずれも2位。今季はタイトルだけを目指して戦ってきたからこそ、もう最後まで走り続けるしかない。U-15に在籍していた中学3年時にも、冬の高円宮杯で日本一を経験している瀬口が、強い決意を口にする。
「あと5試合の中には難しい試合もあると思うんですけど、このチームは全部勝てるチームだと思っているので、自信を持って、自分たちがやるべきことをもっと明確にしたいですし、このメンバーでできるのもあと5試合なので、それに強い想いを感じていますね」。
「自分たちは1年からプレミアリーグに絡んできた選手の多い代なので、その集大成として3年間で積み上げてきたものをもっと出していきたいですし、ずっと2位が続いていて、自分たちも悔しい想いをしているんですけど、安部さんが一番悔しい想いをしていると思うので、そこに対して自分たちがどう向き合うかはみんなわかっています。今年の代は“最強の世代”でありたいので、ファイナルで優勝して、この代は強かったなと思ってもらえるように頑張りたいです」。
ここ2年の先輩たちが悔しがってきた姿を見れば、タイトルにたどり着くための道がどれだけ険しいかは、自分たちが一番よく理解している。それでも、勝つ。勝つしかない。オレたちが神戸U-18の最強世代だと証明するために、必ず埼玉スタジアム2002で“6試合目”の勝利をもぎ取るまで、全員で、全力で、プレミアの舞台を駆け抜ける。


(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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