[選手権]染み付いている「1試合」の経験と基準。前回大会で優勝校とPK戦まで戦った愛工大名電、主軸2人を欠くも明るく、前向きに戦い抜いて愛知決勝進出!

愛工大名電高が1-0で勝ち切り、決勝進出
[11.1 選手権愛知県予選準決勝 愛工大名電高 1-0 東邦高 ウェーブスタジアム刈谷]

「明るく、前向きに」戦う愛工大名電が昨年の経験と基準を発揮し、決勝進出! 第104回全国高校サッカー選手権愛知県予選準決勝が1日、刈谷市のウェーブスタジアム刈谷で行われ、愛工大名電高東邦高が対戦。愛工大名電が1-0で勝ち、2連覇に王手をかけた。

 愛工大名電は昨年度の全国大会2回戦で優勝校・前橋育英高(群馬)相手にPK戦勝利目前まで迫っているチームだ。当時の経験者を複数残すチームは今年のインターハイ予選でも優勝しているが、この日はDF山崎瑛太主将(3年)とFW大澤俊哉(2年)の主軸2人が出場停止で不在という中での一戦。GK相原諒(3年)、DF杉浦功真(2年)、山下雄大(3年)、中根陽向(2年)、木村瞬叶(2年)、ゲーム主将のMF宮田哉生(3年)、志村隼(3年)、竹本海里(1年)、渡部琥南(3年)、FW杉山悠(2年)、杉本悠悟(2年)の11人で準決勝に臨んだ。

2連覇を狙う愛工大名電

 一方、インターハイ予選3位の東邦は3年ぶりの選手権切符挑戦。GK蓮沼俊祐主将(3年)、DF野村拓翔(3年)、北島想士(3年)、中山晴登(2年)、MF山口翔大(3年)、深谷颯天(3年)、松村英明(3年)、上野泰志(2年)、FW柴山颯来(2年)、永井望夢(3年)、比嘉柊音(3年)の11人で準決勝をスタートした。

東邦は3年ぶりの選手権出場にチャレンジ

 立ち上がり、東邦が永井のクロスなどで先手を取ろうとするが、愛工大名電が14分に先制点を奪う。前線で杉山がボールを収め、渡部が左サイドへ叩く。そして、志村がDF2人をかわす形で縦に切れ込み、左足クロスを上げる。

 GKのポジショニングを分析し、ファーにフワリと上げたクロス。「流れの中で相手がどっち切ってるかとか意識していますし、もう突破したら中に(杉本)悠悟がいるっていうのは分かってたんで、もう信じて突破して上げたっていう練習の形がそのまま出ました」というボールを10番FW杉本が右足ダイレクトボレーで決めて先制した。

前半14分、愛工大名電FW杉本悠悟が先制ゴール

 対する東邦は、大分や大宮で活躍した元Jリーガーの深谷友基氏を父に持つ強力FW深谷と比嘉の2トップや永井、柴山の両翼が個の力を活かして愛工大名電にプレッシャーをかける。そして、深谷や左SB松村が相手DFと入れ替わってクロス。迫力のある攻撃を続けたが、愛工大名電はCB山下が相手の攻撃を弾き返し、CB杉浦も身体を投げ出してクリアする。

東邦は前線で出場したMF深谷颯天が強さと上手さを発揮

 愛工大名電はこの日、山崎を欠く最終ラインに右SB中根を起用。本来右SBの杉浦をCBに配置した。宮口典久監督は「中根は元々去年もサイドバックで出ているんで。そこが入るのはむしろ、ウチにとっては強化。(相手のキーマンである左サイドの永井に対しても)アイツは負けないと思ったので」と明かしていたが、中根や左SB木村を含めた4バックが健闘。また、“チームの太陽”とも言えるアンカー・宮田が球際の強度に加え、愛工大名電のモットーである、「明るく、前向きに」を見事に表現していた。

東邦のFW永井望夢(右)と愛工大名電DF中根陽向が激しいマッチアップ

 加えて、指揮官が「見逃すんですけど、ああ見えて、トラップさせて取るとか、かわさせて取るとか、かなりのセンスですよ」と絶賛した渡部が奪う技術を発揮。そして、馬力十分の杉本や志村、竹本が相手ゴールへ向かっていく。

 東邦は後半8分、左サイドから永井が仕掛け、ラストパスを柴山が狙うも愛工大名電DF陣がシュートブロック。東邦は直後に181cmの俊足FWカヨンゴ翔音タイリース(3年)を、17分にはDF金村龍空(1年)とFW百瀬玲凰(1年)を投入して反撃する。

 愛工大名電は21分に渡部をFW岩田清太郎(1年)へスイッチ。相手を押し返して志村がCKを獲得するなど、東邦の勢いを弱めていた。だが、東邦は山口らがセカンドボールを回収し、足元も巧みな深谷や永井がチャンスを作り出そうとする。29分にはFW水野燦士(3年)とFW加藤大翔(3年)を投入したが、愛工大名電はこだわってきた攻撃から守備への切り替えが速く、強度も落ちない。チームにとって大きかったのが前回大会で前橋育英とPK戦まで戦った「経験」、その試合から得た「基準」だ。

愛工大名電MF志村隼は鮮やかなドリブル突破から決勝点をアシスト

 宮田は「ほんとに出てたメンバーが全員に発信していって、たまに落ちちゃう部分はあったんですけど、みんなしっかり話し合ったりして、しっかり修正できて、あのレベル、あの基準でできているなと思っています。ボール取られてからの切り替えスピードが最初自分たち遅くて、それを練習して、もうほんとに試合でも速くなったなと思います」と語り、宮口監督も「『たった1試合』だけど、あの経験っていうのはほんとに染み付いているんだなと思います」と頷く。

 試合終盤は宮田が最終ラインに落ちて5バックを形成。その宮田が再三クロスを跳ね返したほか、競り合いを制してチームを鼓舞する。また、GK相原がゴール前のこぼれ球に素早く反応してキャッチし、CB山下が集中して守備対応を続けるなど隙を見せない。東邦は金村のロングスローやクロスなど反撃を継続。そして、40+5分には百瀬の絶妙な右クロスをニアのカヨンゴが頭で合わせる。だが、わずかに左外へ外れ、試合終了となった。

愛工大名電のゲーム主将MF宮田哉生は高い強度を発揮した
後半40+5分、東邦FWカヨンゴ翔音タイリースのヘッドはわずかにゴール左へ

 愛工大名電はインターハイで初戦敗退した後、一時チームが停滞。練習試合で完敗を喫する試合もあったという。「(完敗した三重海星高戦後)全員、なんか泣きながら。下級生も多いんでピッチの中でちょっと遠慮とかがあって、もうそこでもう全員が思っていることをさらけ出して、そこから変われたかなっていうイメージです」(志村)。結束したチームは今大会、前半で退場者を出して10人での戦いを強いられた準々決勝、主軸2人を欠いた準決勝でもモットーである「明るく、前向きに」と1年前に学んだ基準を表現し、決勝への切符を勝ち取った。

 全国大会出場まであと1勝。志村は「自分たちらしいサッカーで勝ち上がっていきたいですし、どんなに劣勢になっても、それをひっくり返すぐらい『明るく、前向きに』取り組んでいきたいです。去年、前橋育英に負けて、その後3年生の先輩たちと『絶対ここに来て、自分たちの目標である(ベスト)8達成する』っていうのを約束しているので。そのためにもまず地に足つけて1個1個勝ち進んでいこうって話をしてたんですけど、あと1個、絶対、何が何でも勝って、絶対全国の舞台に出て、それまでの間にまた成長して、リベンジしたい」。目標の全国8強を達成するためには前橋育英のようなプレミアリーグ勢に勝たなければならない。1年間、それを目指して成長してきた愛工大名電が、決勝でもその経験と基準を示して全国切符を勝ち取る。

愛工大名電が決勝進出を決めた

(取材・文 吉田太郎)


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Source: 大学高校サッカー

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