[10.21 高円宮杯プレミアリーグWEST第19節 神戸U-18 2-0 米子北高 いぶきの森球技場]
優勝争いを繰り広げていく中で、1つの黒星を喫することが痛くないはずがない。それが連敗ともなれば、そのダメージは察して余りある。だが、今シーズンの若きクリムゾンレッドは、窮地にある自分たちをしっかりと見つめ、そこから這い上がるだけの逞しさを兼ね備えている。
「結構痛い連敗でしたね。でも、みんなで話し合って、しっかりコミュニケーションを取って、イメージを合わせられたことが、この結果に繋げられているので、逆に“良い連敗”だったんじゃないかなと。あの負けは良かったと思います」(ヴィッセル神戸U-18・坂本翔偉)。
“良い連敗”を糧にもぎ取った“さらに良い連勝”。21日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグWEST第19節、暫定2位のヴィッセル神戸U-18(兵庫)と暫定4位の米子北高(鳥取)が対峙した上位対決は、MF坂本翔偉(3年)とFW高山駿斗(3年)が前半に挙げた2ゴールで、神戸U-18が2-0で勝利。連勝を3に伸ばしている。
「最初から勢いは凄くあったと思います」とセンターバックを務めるDF梶磨佐志(3年)も話したように、後半戦に入って結果を出し続けてきた米子北は、2トップのFW鈴木颯人(2年)とFW森田尚人(3年)が持つ馬力を生かしつつ、右のMF田村郁颯(3年)、左のMF小村日向(3年)の両サイドハーフも推進力十分。立ち上がりから好調を窺わせるような前へのパワーを、積極的に打ち出していく。
「ちょっとテンポが速かったかなと。相手に付き合った感じはありました」と坂本も話した神戸U-18は、ややビルドアップの周りも悪く、縦へのボールが増えていく中で、11分にはFW田中一成(3年)が相手ボールを高い位置で奪い、MF濱崎健斗(1年)が打ち切ったシュートは右ポストを直撃したものの、攻守の素早い切り替えから決定機。13分にもFW森田皇翔(2年)がドリブルからラインの裏へ流し、飛び出した高山のシュートは米子北のGK尾崎巧望(3年)がファインセーブで凌いだものの、続けて惜しいシーンを創出する。
16分も神戸U-18。右サイドを単騎で抜け出した田中がペナルティエリア内へ侵入すると、マーカーともつれて転倒。主審はPKの判定を下す。キッカーはキャプテンの坂本。「『この自分のPKでここからの流れが決まる』と思っていたので、ハッキリ蹴りました」という一撃が力強く揺らしたゴールネット。1-0。ホームチームが1点をリードする。
安部雄大監督も「お互いなかなか点が入らないと難しい試合になりますし、良い時間に点が獲れたのが大きかったですね」と口にした通り、先制以降は神戸U-18が引き寄せた攻勢。36分には坂本のパスから高山が尾崎にファインセーブを強いるシュートを放てば、45+1分にはDF本間ジャスティン(3年)を起点に、森田のシュートはクロスバーに当たり、詰めた高山のヘディングもクロスバーにヒットするも、際どいシーンが続く。
すると、次の得点が生まれたのは前半終了間際の45+2分。左サイドでDF江口拓真(2年)がスローインを入れると、濱崎が繋いだボールを高山は右足一閃。鋭い軌道は豪快にゴールを捉える。最近はセンターフォワード起用の続く7番が一仕事。前半は神戸U-18が2点をリードして、45分間が終了した。
小さくないビハインドを負った米子北の中村真吾監督は、後半開始から負傷のDF藤原壮志朗(3年)に代えて、1年生のFW浜梶優大を右サイドバックに送り込み、その位置にいたDF樋渡蓮音(2年)をセンターバックへスライドさせる強気な采配。8分には左サイドから鈴木がグラウンダークロスを送り、走り込んだ森田のシュートは神戸U-18のDF茨木陸(2年)が身体でブロックするも、2トップで好機を。
さらに12分にはFW愛須隆聖(3年)とMF柴野惺(2年)を同時投入すると、20分には森田のパスから、愛須が神戸U-18のGK亀田大河(1年)にキャッチされるもフィニッシュまで。「ウチも本当に点を獲りに行こうという気持ちが見えました」と中村監督。連敗回避に向けて、アウェイチームが圧力を強めていく。
「次の1点が大事で、後ろとしては失点したくないという想いが強かったですね」とDF山田海斗(2年)も言及した神戸U-18は、全体のラインこそ下がりがちになりながらも、高い集中力で対抗。28分には米子北もキャプテンのMF上原颯太(3年)が右へ振り分け、浜梶のクロスに森田が飛び込むも、シュートは寄せた2人のマーカーがブロック。最後の局面では身体を投げ出して、堅陣を築き続ける。
45+4分に米子北の中盤を支えるMF仲田堅信(3年)が枠内へ打ち込んだミドルも、亀田がファインセーブで弾き出すと、程なくして迎えたタイムアップ。「前期の米子北との試合で負けた時は悔しかったので、今日勝てたことは嬉しいですし、ゼロで抑えたことも良かったと思います」と山田も笑顔を見せた神戸U-18が白熱の上位対決を制し、勝ち点3を手繰り寄せる結果となった。
後半戦は3連勝と最高のリスタートを切った神戸U-18だったが、前述したように第15節で首位争いのライバルに当たるサンフレッチェ広島ユースに敗れると、翌節もジュビロ磐田U-18に2-3で競り負け、今季初の連敗を喫してしまう。
「『このままでは優勝は無理だな』と思いましたし、流れを変えたかったので、ウチの選手はだいたいみんな寮に入っていることもあって、練習場でも寮でもミーティングしたりしました」(坂本)。
普段からチームを引っ張ってくれている選手をキャプテンの坂本に尋ねると、真っ先に名前が挙がったのはDF廣畑俊汰(3年)だ。ここまでのプレミアでは1試合の出場にとどまり、後半戦はメンバー入りも果たしていない3年生は、この夏から県リーグを戦うBチームのキャプテンを任されているという。
「正直サッカーに年齢は関係ないので、期待されている選手が出るのは当たり前で、そこはあまり気にしていないですし、その中で3年生がどれだけできるかというだけで、僕の場合はチームを引っ張っていかないといけないなという想いはずっとあるので、プレーで見せることもそうですし、雰囲気が悪い時は積極的に声を出すようにしていますね。もう自分ができることをやるという感じですし、どれだけ自分たちがAチームを超えていけるような練習ができるかということは意識しています」と話す廣畑は、続けて率直な思いを口にする。
「もちろん僕もプレミアの出場は目指しています。でも、Aチームに呼ばれればそこで戦いますし、Bチームだったとしても、試合に向かう姿勢は何も変わらないですね。やっぱり毎日の練習が一番大事になってくるので、練習への積極的な関わり方や姿勢というのは大事にしていきたいと思います」
2連敗のあとに試合不実施ながら勝利扱いとなった大津戦を挟み、アウェイへ乗り込んだ神村学園高戦は、ともに1年生の濱崎とFW渡辺隼斗のゴールで2-0と勝利を収め、米子北戦は坂本に高山と2人の3年生が揃ってゴール。トレーニングから全力を尽くす最上級生と、その姿に影響を受けてきた下級生の力もがっちりと噛み合い、最高の形で勝負の最終盤へと向かっていく。
安部監督は今節の試合を前に、3年生の想いをハッキリと汲み取っていた。「彼らもこのチームでやるのが、今の段階ではリーグ戦の4試合しかないという中で、3年生の覚悟や責任感はゲームの中だけではなく、日頃のトレーニングでも感じるところはありましたね」。
廣畑の言葉が印象深い。「チームの輪は強くなってきていると思います。Aチームはプレミアの優勝争いをしていて、Bチームもプリンス昇格に向けての戦いになってきているので、どちらも最終局面だという意味では、チームの一体感はあると思います。ここから先のリーグ戦も何が起きるかわからないので、最後に『この3年生の学年が凄かった』と言われるような取り組みができるようにとは考えています」。
3年生を中心に、より熟成されてきたクリムゾンレッドの一体感。目指すはラスト3試合の先にある、日本一を懸けた1試合。“良い連敗”と“さらに良い連勝”を経た神戸U-18が、ここから目にすることのできる景色は果たしていかに。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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