[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.25 高円宮杯プリンスリーグ関東2部第17節 栃木U-18 1-1 水戸ユース 壬生町総合公園陸上競技場]
背負っている9番の意味は自分が一番よくわかっている。積み重ねてきたゴールは、すべてチームの勝利のため。最後の1試合だって、1年間を掛けて携えてきた自分への自信は、何ひとつ変わらない。
「今日も多くのサポーターが来てくださって、『アカデミーのことを後押ししたい』と思ってくれるサポーターの方々が増えてきているので、もっとアカデミーが注目されるように、今年は絶対にプリンス2部で優勝して、1部に昇格させたいと思います」。
栃木SC U-18(栃木)を最前線で牽引してきた、プリンスリーグ関東2部きってのストライカー。FW村上竜規(3年=栃木SC U-15出身)は多くの人の想いを背負い、目の前のゴールへと突き進み続ける。
勝てばプリンスリーグ関東2部参入初年度での1部昇格が決まる一戦。相手は水戸ホーリーホックユース(茨城)。少なくない両クラブのサポーターもスタンドに集結した“北関東ダービー”の舞台で、いきなりその男は躍動する。
前半3分。狙いは明確だった。「サイドを基点にということは話していた中で、実際にサイドの選手が基点になってくれて、自分は中で合わせるだけだったので、シュートを打ちやすいポジションにいられるように工夫したら、良いボールが入ってきました」。MF佐藤佑磨(3年)との連携で左サイドを崩したDF臼井春翔(3年)のクロスが、中央で待っていた村上の足元に届く。
利き足とは逆の右足でトラップ。「思ったよりトラップがズレたので、そこから力ではなくて、ボールを足に当てるところだけ意識して、ゴールに押し込むという感じでした」。利き足の左足でしっかりミートしたボールは、そのままゴールネットへと吸い込まれていく。
その瞬間、踵を返して9番が向かったのはベンチと応援席がある方向。「多くのサポーターの後押しのおかげでゴールも生まれたと思いますし、あとは10番の揚石(琉生)が今日は出場停止で出られないということもあって、そういった人たちの分まで背負ったゴールだったので、あの方向へ行きました」。殊勲のスコアラーを迎えるチームメイト。これで村上は3戦連発。いきなりの先制点をストライカーが強奪する。
だが、以降はチャンスこそ作るものの、なかなか次の1点が生まれない。「何回かチャンスはあって、そういうところを決められなかったので、後半は難しい展開になるとは何回も試合を重ねてきた経験からわかっていました」と話す村上も、31分にはDF小幡心(3年)のフィードから単騎で抜け出すも、シュートは枠を越えてしまう。
後半に入ると、意地を見せた水戸ユースに同点ゴールを献上。ホームチームも最後まで攻める姿勢は打ち出したものの、スコアは1-1のままで終了。「多くのサポーターが来てくださって、後押ししてくれて、本当に良い環境でやらせてもらったのに、それでも勝ち切れなかったことはとても悔しいですけど。下を向かずに次の矢板戦に向けて良い準備をしていきたいと思います」と村上。リーグ最終戦となる次節の矢板中央高B戦に、2部優勝と1部昇格を懸けて挑むこととなった。
3年目にして初めて挑戦したプリンスリーグ。シーズン前から「プリンス2部得点王を狙っていました」という村上は、ここまで12ゴール。得点ランキングでも2位に付けている。「常に監督からは『ゴールを意識しろ』という話がありますし、練習が終わった時にも同じフォワード陣同士でシュート練習もいっぱいしているからだと思います」というのがこのゴール量産に対する自己分析。仲間と切磋琢磨することで、得点感覚を養ってきた。
前述したように利き足は左。参考にしている選手を問うと、即答で「ポジションは違いますけど明本(考浩)選手ですね」と返すあたりに、クラブ愛も滲む。ちなみに海外の選手でよく動画を見ているのはマンチェスター・シティのアーリング・ハーランド。やはり左利きの選手が気になるようだ。
卒団後は大学へと進学予定。「大学でも1年生からスタートで出て活躍して、栃木SCに戻ってきて、得点を決めてチームを勝たせられるような、栃木SCをJ1に上げられる選手になりたいです」という目標も頼もしい。ただ、その前にこのチームで、この仲間と最後に戦う、“超重要”な1試合が残っている。
「この年代は去年からスタートだった選手が半分ぐらいいたので、良い経験をしてきたことが今年に生かされていると思います。でも、3年生だけじゃなくて、全員でキツい練習をしながら強くなってきたので、みんなで高め合っていけたからこそ、昇格まであと一歩まで来られたのかなと思いますし、しっかりワンチャンスをものにできるように、最後の試合に向けて頑張りたいです」。
イメージはできている。自らの左足で相手のゴールを打ち破る姿を。3年生のために。後輩たちのために。そして、6年間の充実した時間を過ごしてきたクラブのために。栃木U-18が紡いできた2023年のロードマップに、この男が描き入れるべきは最後を飾る“竜の目”。ゴール前で輝く『栃木のドラゴン』。村上は新たな歴史を切り拓くため、勝負のラストマッチへ向けて鋭い牙を研ぎ続ける。
(取材・文 土屋雅史)
Source: 大学高校サッカー
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