[12.2 J1昇格PO決勝 東京V 1-1 清水 国立]
まさに天国か、地獄か——。J1昇格プレーオフ決勝の後半アディショナルタイム6分、0-1という窮地でペナルティキックを獲得した東京ヴェルディFW染野唯月は、クラブの歴史を大きく左右するキッカーに堂々と名乗り出た。
「あの場面で蹴らなかったらFWとして気持ち良くなかったし、最後に自分で点を取りたいという気持ちが強かったので」(染野)。自信を持ってボールをセットし、右のコースに強いシュートを選択。絶妙な反応を見せたGK大久保択生に触られながらもゴールを射抜き、東京Vを16年ぶりのJ1復帰に導く“昇格ゴール”を奪った。
自ら名乗り出たPKではあったが、「正直、今までで一番緊張したのかなとは思う」と大きな重圧が襲いかかっていた。しかし、力強いキックからはそんな素振りを感じさせなかった。
決勝のスタジアムには53264人の大観衆が詰めかけたが、聖地・国立で25節の町田戦(△2-2)での2ゴールに続いての大仕事。染野は「逆に(大舞台の)プレッシャーが良かったのかなと思う」とサラリと言ってのけた。
またこのPKを獲得したのも染野だった。後半アディショナルタイム4分、MF中原輝からの浮き球パスに反応し、絶妙なトラップからペナルティエリア右に侵入。「常に裏に抜け出す、背後を狙うのは意識していた。なかなかボールをもらえる回数は少なかったけど、タイミングと動き出しが合ったからこその結果だった」。最後はDF高橋祐治のスライディングが左足に当たり、PK判定を勝ち取った。
染野によるとPK獲得の場面は「自分で行こうとしていた。逆に足を出したところに相手が来た形だった」という形で、ファウルを誘うつもりはなかった様子。それどころか、ボールを懐に置きながらゴールに向かっていくのは育成年代から得意としていたプレーだ。「若干、外か中か分からなかったのでPKで良かった」。一度はピッチに倒れ込んだが、託されたボールは離さなかった。
大仕事を成し遂げた染野だが、試合中には流れを手放しかけることもあった。0-1で迎えた後半44分、DF宮原和也からの完璧なクロスにエリア内で反応したが、胸トラップの後に相手に寄せられてシュートを失敗。もし試合に敗れていれば、この場面が命運を分けたとも捉えられかねない絶好機だった。
それでも積極的なプレースタイルが揺らぐことはなかった。「イメージはトラップしてシュートだったけど、あれがあったからPKもあったのかなとポジティブに捉えたい」。逃したチャンスを悔いるのではなく、次につなげる。ストライカーとしての堂々たるメンタリティーで結果につなげてみせた。
このJ1昇格プレーオフには「ここが自分の分岐点になるのかなと思っていた」という並ならぬ覚悟で臨んでいた染野。2020年に加入した鹿島ではコンスタントな出場機会を得られず、東京Vには今夏、昨季後半戦に続いて2度目の期限付き移籍で加入した。
「鹿島にいた時は試合に出続けることがなかなかできなかった。こっちに来て最後まで使ってもらって、試合に出させてもらったので、城福さんに感謝したい」。そう城福浩監督への感謝を口にした染野は「いろんなことができるようになった。裏抜けもそうだし、足元で受けるのもそう」と半年間の奮闘を誇った。
現在も鹿島からの期限付き移籍契約のため、来季の去就への質問には「ノーコメント」と笑顔でかわした。それでもレギュラーシーズン6得点という結果とともに、あらためてポテンシャルをアピールする機会となった。「途中は点を取れなかった時期もあったけど、最後の最後でFWとしての仕事ができたのかなと思う」。来季はパリ五輪イヤー。シーズン序盤からの活躍に期待がかかる。
(取材・文 竹内達也)
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Source: 国内リーグ
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