残り10分を凌ぐために要求したシステム変更が功を奏す。帝京長岡はインハイ後に台頭した2年生MFが“ピッチ上の指揮官”として奮戦

帝京長岡高は2年生MF水川昌志がシステム変更を提案。劣勢の終盤を守り抜いた
[12.10 高円宮杯プレミアリーグプレーオフ2回戦 帝京長岡 2-1 浦和ユース 広島広域公園 第一球技場]

 一進一退の攻防が続くなか、前半18分と44分にキャプテンのFW堀颯汰(3年)がゴールを挙げて、2点を先行した。帝京長岡高にとっては、最高の結果でハーフタイムを迎えたのは間違いない。しかし、後半16分に怪我を抱えていた堀が交代すると、直後の21分に浦和ユースのFW清水星竜(3年)に1点を返されてしまう。ここから主導権を握られ、自陣で耐える時間が増えた。

 一歩間違えれば、いつ失点してもおかしくない。頭に過るのは、21年と22年のプレーオフ。一昨年は残り20分を切ってから桐生一高に3ゴールを許し、3-4で逆転負け。昨年は残り15分を切ってから尚志高に逆転ゴールを許し、1-2で敗れている。

 同じ轍を踏むわけにはいかない――。

 勝ち切るべく、帝京長岡が打った手は4バックを止めて、3バックと両ウイングバックの5枚で守りを固めることだった。

 帝京長岡は後半34分にMF香西大河(2年)を投入。最終ラインの真ん中に配置し、相手の猛攻を凌ぐ方策を取った。何度もゴール前に迫られたが、粘り強い守備で相手に得点を許さない。最後までリードを守り切った帝京長岡は6度目の挑戦で初めてプレーオフを突破し、来季のプレミアリーグ参入を決めた。

 守りを固める策を取った帝京長岡だが、3バックへの移行はコーチングスタッフが決めたわけではない。ピッチで戦う選手たちの自主的な判断でシステム変更を決めたという。その案を出したのが、中盤の底でプレーするMF水川昌志(2年)だった。

 その状況を振り返り、水川はこう話す。

「相手のフォーメーションを見たときに、かなりワイドに選手が張っている状況だった。自分たちのシステムと合わなくなっているし、システムを変えたほうがいいと思った」

 そう感じた2年生MFはCB高萩優太(3年)に相談した上で、ベンチに意向を伝達。古沢徹監督や谷口哲朗総監督も配置換えを受け入れ、香西の投入を決めた。

 2年生ながら試合の状況を見て、3バックで戦うことを進言した水川。「やらなくて後悔するのは嫌だった」と笑顔で当時の状況を振り返ったが、元々は「意見を言えるようなタイプではない」という。

 春先はCチーム、シーズンが開幕してもBチームに籍を置いていたが、その頃は思ったことを口にできなかった。しかし、夏以降にレギュラーの座を掴むと、主力としてプレーする自覚がアップ。「今日の試合も勝ちたいという気持ちが自然と行動に現れた」と話したように、今では自分の考えを臆さずに言えるようになった。

 さらに、水川自身が下のカテゴリーから這い上がってきた点も、この浦和ユース戦の振る舞いに繋がっている。チームはプレーオフ開幕前の時点で、2ndチームがプリンスリーグ北信越1部、3rdチームが同2部、4thチームが新潟県リーグ1部に昇格する権利を有していた。しかし、同一チームが同じカテゴリーに籍を置けないため、トップチームがプレミアリーグに参入できなかった場合は全カテゴリーが昇格できない。プレーオフの結果次第では、各カテゴリーのチームが1年間かけて積み重ねてきたモノが無駄になってしまう状況だった。

「今年のチームは全部員が頑張って練習をして、辛い想いをしてきたのも僕は見てきた」(水川)

 試合に出られない選手の想いは誰よりも分っている。仲間のために戦う姿勢がプレーにも現れ、戦術変更を要求するきっかけになった。

「めっちゃ嬉しかったです」。最高の笑顔で喜びを噛み締めた水川。中盤の底でチームのために戦い続けた2年生MFの働き無くして、プレミアリーグ参入は成し遂げられなかった。

(取材・文 松尾松尾祐希)


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Source: 大学高校サッカー

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