[12.13 インカレ3回戦 東京国際大 0-1 流通経済大 第一カッターフィールド]
ボールさえ来れば、絶対に点は獲れる。その信念はストライカーを自分の持ち場だと決めた時から、ずっと変わらない。自分のために。チームのために。何よりも仲間のために。重ねてきた結果の分だけ、みんなに歓喜をもたらしてきた男は、最後の2試合だって、とにかくゴールだけを追い求める。
「自分だったら試合に出られなかったら悔しいですけど、ベンチスタートなのに同じフォワードの(廣瀬)正明も笑顔で送り出してくれますし、それならやっぱり自分が仕事をしないといけないなって。チームとしても言っていることですけど、誰かのために、応援してくれる人のために、という気持ちでいつもやっています」。
流通経済大(関東5)の9番を託された無骨なストライカー。FW宮田和純(4年=FC東京U-18)は自らが奪うゴールと、それがチームメイトにもたらす勝利の笑顔だけを目指して、ピッチを走り続けている。
「正直ゴール前でボールを持ったら、アシストやゴールで貢献できる自信はあったんですけど、その機会が今まであまり巡ってこなかった感じで、オレも本当にシュートを全然打っていないんですよ。シュートを1試合通して打てないような試合も続いていて」。そう話す宮田の言葉は、数字でも証明されている。リーグ戦では19試合に出場して5得点を挙げているが、合計のシュート数は16本。1試合の平均シュート数は、1本を下回っている。
それでもいつ来るかわからない瞬間のために、集中力を研ぎ澄ませるのがストライカーの仕事。それを形として現したのが、2回戦の新潟医療福祉大戦だ。前半26分にMF鈴木雄大(2年=創価高)の左クロスから、豪快なシュートをゴールに叩き込めば、後半45+10分に巡ってきたPKのチャンスもきっちり沈め、土壇場での決勝点も記録。この試合の宮田のシュート数は2本。まさに100パーセントの決定率で、チームを次のラウンドへと引き上げる。
3回戦の相手は同じ関東勢の東京国際大(関東2)。リーグ戦では1分け1敗と負け越している相手だけに、気合を入れて臨んだゲームは、「思ったよりいい感じで入れて、圧倒できたかなという感じはありましたね」と宮田も振り返ったように、前半から流通経済大が何度も決定機を掴むも、なかなかゴールを奪えない。
だが、その瞬間は後半14分にやってくる。MF松永颯汰(2年=静岡学園高)のフィードを斜めに走ったDF藤井海和(3年=流通経済大柏高)が落とし、巧みなドリブルからMF前田陸王(4年=東海大札幌高)が送ったパスが、9番の足元に届く。
「ゴール前はそんなに慌てるような感じではなかったので、ちょっとタイミングをずらすだけでしたね。足の振りを速くして、トントンという感じでした」。右足の完璧なトラップから、1秒だけ時間を作って、すぐさま右足でプッシュしたボールは、右スミのゴールネットへ到達する。
「自分はフォワードなので、ここまでボールを運んでくれるみんなのおかげかなと思いますし、今はサッカー部全体で凄く盛り上げてくれているので、点を獲ったらあっち側に行こうと思っていました」。チームメイトが待つベンチとスタンドの方向へ、一直線に駆け出した9番へ大歓声が降り注ぐ。結果的にこれがこのゲームの決勝点。藤井も「やっぱりアレができるのが流経のエースですよね」と言い切った宮田の一振りが、流通経済大を“ホーム”で戦うセミファイナルへと力強く導いた。
今大会では気の置けない仲間との“再会”があった。2回戦で対戦した新潟医療福祉大には、高校時代のチームメイトだったDF森田慎吾(4年=FC東京U-18)とMF沼田航征(4年=FC東京U-18/沼津内定)が在籍しており、3人とも揃ってスタメン出場。「4年間のどこかで1試合はやりたいなと思っていたので、ラストの大会でできて良かったです」と振り返る宮田は自身の劇的なゴールで勝利を手にしたものの、ようやく彼らと同じピッチに立てた100分近い激闘は、忘れがたい時間になった。
また、FC東京U-18時代の同期であり、トップチームへと昇格したバングーナガンデ佳史扶は既にフル代表を経験し、木村誠二もU-22日本代表の常連に。「ちょっと今の自分にとっては1つ2つ上の存在かなと感じているんですけど、オレがこうやって歩んできた4年間というものは、これからのステージでも必ず生きますし、何年後になるかわからないですけど、どこかのタイミングで『アイツ、こんなに良くなったんだ』と思ってもらいたいですね」とさらなる成長への大きな刺激を受けているようだ。
加えて同じ関東の大学へと進学し、切磋琢磨してきた仲間への想いも、こう口にする。「(岡)哲平はFC東京に戻って凄いなと思いますし、(久保)征一郎は同じポジションなので、試合をやる時は負けたくないと思ってきました。今回試合をした航征と慎吾も凄く仲の良い親友だからこそ、絶対に負けたくなかったですし、やっぱり同期はみんな良い存在ですね」。ゆえに、その中でも自分が一番成長したいという決意は、この4年間も常に携え続けてきた。
日本一を味わうために必要な勝利は、あと2つ。それでも自分のやるべきことは、何も変わらない。「中2日で3試合こなして、ここで1週間空くというのは、オレらにとって凄く大きいですし、まずはいったん体を休めたいなと。ここから先も1点差の堅いゲームになると思いますけど、限られたチャンスで自分は点を獲りますし、後ろは守ってくれるので、後ろのみんなの頑張りに応えられるようにやっていきたいです」。
ボールさえ来れば、絶対に点は獲る。みんなが託してくれた想いは、オレが必ず結果に変えてやる。流通経済大のストライカーを任された、頼れる9番。宮田のゴールが、勝利を信じて最後まで戦うチームメイトを、応援団を、頂点の景色まで連れていく。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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