Jリーグでは今季、日本サッカー協会(JFA)の審判交流プログラムにより、複数の審判員が海外から来日し、J1・J2リーグ戦やルヴァンカップなどの公式戦を担当している。
2月下旬〜3月中旬の開幕期にはエルファス・イスマイル主審(42)らアメリカ出身トリオを招聘。カタールW杯では日本対クロアチア戦など3試合で笛を吹き、決勝戦では第4審を務めた著名主審のJリーグ担当が実現した。また3月上旬から同下旬には今季プレミアリーグデビューを果たしたばかりのスミス・ルイス・ディーン主審(30)らイングランドの若手審判員も来日。Jリーグに新たな風を吹かせている。
今月3日にJFA審判委員会が報道陣向けに開いたレフェリーブリーフィングでは、元国際主審で現JFAレフェリーマネジャーの佐藤隆治氏が交流プログラムの現状を総括。「学ぶところがたくさんあったし、ここは日本と変わらないなというところもあった」と彼らから受けた刺激を口にした。
佐藤氏はブリーフィングの冒頭で、エルファス氏が担当したJ1第2節のFC町田ゼルビア対鹿島アントラーズ戦の映像を紹介。「彼は身長も大きいし、見た目も怖い」とW杯レフェリーの威厳をジョークを交えながら称えつつ、「一番学んだことはマネジメント」だったと明かした。
選手に対して毅然とした態度で接し続けていたエルファス主審だが、注目すべきはバリエーションあふれる選手対応だ。
試合開始直後の接触シーンでは、注意対象の選手をその場にとどまるように厳しく指示した上で、負傷者のケアを行い、当該選手への注意を行ったエルファス主審。ところが前半に起きた別の接触シーンでは、まず抗議する選手に説明を行った後、負傷者のケアに移っており、佐藤氏は「マネジメントがバラエティ豊かで引き出しが多い」と着目した。
そんなエルファス主審は来日中、プロ審判員だけでなく若手審判員とも交流していた様子。「フェーストゥフェースが大事。目を見て話をすることを心がけている」「立ち振る舞いでしっかり演じることが大事」「日本人は真面目で礼儀正しいが、外では弱々しく映ることもある。それでレフェリーのプレゼンスが下がっているんじゃないか」といったマネジメント面でのアドバイスを送ってくれたという。
こうした金言について佐藤氏は「日本人が同じようにしたら同じようになるかというと別問題だが、試合中にここはきっちり話をするというのは大事」と受け止め、他の審判員にも担当試合の映像も共有。今後に向けて「こうしたマネジメントを見て何かを吸収し、自分のやり方で表現できるようにしていければ」と期待を口にした。
またスミス主審に関しては、川崎フロンターレ対京都サンガF.C.戦の映像を紹介。佐藤氏はジャッジをする際のポジショニングに目を向け、「彼の強みはとにかく動くこと。非常に豊富な運動量でスプリントもすごいし、アシスタントレフェリーのサイドも自分で見に行っている」と近年のトレンドの一つとなっている運動量を称えていた。
その上で「今季は動きやポジショニングのところを開幕前の研修会からだいぶ言っている。自分たちがやろうとしていることは間違っていない。これが世界でも求められていると感じた」と手応えも口にし、弱冠30歳でプレミアデビューを果たした主審の存在に「若いレフェリーにとっては衝撃的だと思う。これ(運動量)がプレミアリーグで求められていること。そういったレベルを意識するという点で有意義だった」と感謝した。
こうした基準の共有だけでなく、共に試合を経験した他の審判人にとっても大きな学びがあったという。エルファス主審は副審とのトリオで来日したが、第4審とVAR・AVARは日本人審判員が担当。またディーン主審は単独で試合をさばいたため、両副審も日本人が務めており、それぞれ英語でコミュニケーションを取りながらの担当となった。
佐藤氏はこうしたピッチ上での審判交流について「そういったところでやることも日本人のレフェリーにとって非常に学びになる」と指摘。「今後も海外からのレフェリーが来るが、できるだけ多くの副審、多くの4th(第4審)を戦略的に当てていきたい。一緒に組んだレフェリーが、プレミアでやっている、W杯に入っているというのは普段とは違う学びがあると思う。戦略的に進めて、日本人レフェリーも5年後、10年後にそういう舞台に行ってほしい」と期待を寄せた。
招聘に向けた交渉や来日後のサポートを行った扇谷健司審判委員長も前向きな総括を行った。招聘オファーは「日本人にとってなるべく学びになる方」という基準でコネクションのある国に声をかけたといい、W杯主審のエルファス氏は「彼を呼びたい思いはあった」と信頼の抜擢。またスミス氏の招聘はイングランド協会との関係性で実現したが、来日直前のプレミアリーグデビューは予期しておらず「ラッキーだった」とも明かした。
そんなホットな審判員の来日に扇谷委員長は「我々としても課題はたくさんある中で、数十年前のリーグ開幕当初はW杯決勝で笛を吹いた世界トップのレフェリーが何人か来られていたが、それはまずレフェリーの質を上げないといけないからだった。今回はより高いレベルを学ぶという点で、学べるものがあったし、タメになった。機会があればまた呼びたいと思える審判員だった」と総括した。
JFA審判委員会は今後も積極的に海外から審判員を招聘していく方針。欧州シーズンオフには長期間の招聘を予定しており、5月15日から6月11日にドイツから1人、5月22日から6月17日にポーランドから3人、6月12日から7月1日にイングランドから1人がそれぞれ来日。そのほか、メキシコ、カタールからも招聘する。
(取材・文 竹内達也)
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