市船で選手権、インハイ日本一の朝岡新監督就任。県立のふたば未来学園が福島県、JFAと連携し、トップアスリート育成と「魅力のある」チームに

市立船橋高で選手権、インハイ日本一の朝岡隆蔵新監督が就任。福島県立ふたば未来学園高は恵まれた環境を活かし、「魅力のある」チームに
 震災からの復旧・復興を目指す地域の県立高校が、福島県や日本サッカー協会(JFA)と連携してトップアスリート、生涯スポーツのリーダー育成に取り組んでいる。

 福島県立ふたば未来学園高は「真の国際人として社会をリードする人材の育成」を基本目標とする、関係団体(福島県、双葉郡各町村、日本サッカー協会等の競技団体、大学等)の連携により06年度にスタートした人材育成プログラムである双葉地区教育構想(双葉地区未来創造型リーダー育成構想)のモデル校。高度な技術・理論を習得する授業トレーニング、充実した育成環境の下で各部活動の生徒が成長を目指し、バドミントン部やレスリング部が全国大会で活躍している。

ふたば未来学園高は15年に開校

 今春、日本サッカー協会からの派遣により、JFA S級コーチライセンス取得者の朝岡隆蔵氏が男子サッカー部監督に就任した。朝岡監督は母校でもある市立船橋高(千葉)の監督として、11年度全国高校選手権と13、16年度のインターハイで日本一に輝いている。

 また、MF和泉竜司(現名古屋)やMF柴戸海(現町田)、MF椎橋慧也(現名古屋)、MF高宇洋(現FC東京)、ともにA代表歴を持つMF原輝綺(現清水)とDF杉岡大暉(現湘南)らを育成し、19年には日本高校選抜の監督を務めた。その後、ジェフユナイテッド千葉U-18監督や中国の成都市サッカー協会アカデミーU-18監督を歴任。そして、今回、福島県やJFAが協力してリーダーやトップアスリートを育成しようとしている取り組みに惹かれ、「(震災からの)復興のシンボルとして色々な人の思いを背負っている学校ですし、高校サッカーで培ってきた自分の力が還元できる」という考えから福島での挑戦を決意したという。

 市立船橋、千葉U-18という高体連、Jクラブアカデミーの強豪チームを指導していた朝岡監督は、「Jクラブと高体連の両方を知ったので、両方の教育的な側面を含めた良さを活かして指導していきたいです。学校は魅力があるので、魅力のあるチームを作っていきたいです」と語る。

 いずれもJFA公認ライセンスを持つコーチ陣とともに指導をスタート。ピッチではサッカーの原理原則から選手に伝え、映像の分析や個人計画表の作成についての講義なども行っている。MF五十嵐瞳生主将(3年)は「(朝岡監督は)凄く詳しく説明してくれるという感じがあります。ミスしたところや自分が気づいていないところをしっかりと教えてくれて、自分のダメなところとかが自分の中で明確に持てるので、凄く勉強になっています」と頷いていた。

朝岡隆蔵監督は市立船橋監督として選手権、インターハイで日本一

 チームの最高成績は、福島県ベスト8。まだまだこれからのチームであることは確かだが、JFA、福島県と連携事業を進めるふたば未来学園の育成環境は、非常に充実している。校舎から自転車で5分ほどの距離に照明完備のサッカー部専用人工芝グラウンド。同地域で活動するJFAアカデミー福島との練習試合や同アカデミーのJFAコーチによる指導も行われるほか、整形外科・リハビリテーション科のJFAメディカルセンター(Jヴィレッジ内)との連携による医療的なサポートを受けることができ、毎年選ばれた3選手が海外研修(ドイツ、2週間)へ行くチャンスを得ている。

 ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジが近隣にあることも大きい。今年3月15日から18日に第6回 J-VILLAGE CUP U-18が開催されたが、ふたば未来学園の選手たちは大会運営をサポート。同大会は地域交流も目的としていることから、大会期間中、ふたば未来学園は全国トップクラスの強豪チームと練習試合で対戦する機会にも恵まれた。

 プリンスリーグ東海の浜松開誠館高(静岡)戦では相手を見ながらボールを繋いで攻めることや、左SB仲田海吾(3年)のスピードを活かしたサイド攻撃などにチャレンジしていた。また、劣勢でもマジメに、続ける力を示していたが、完敗。それでも、仲田は「スピード感や一個一個のパス&コントロールの質が自分たちとは全然違っていた。そういうところで驚くものがありました。自分たちはチーム一丸となってプレーしようとしているんですけれども、組織力がまだまだなので、これからもっと組織力をつけて、福島で1位を目指せるようにやっていきたい。浜松開誠館みたいなチームと互角に戦えるようになることと、もっと自分がサッカーでも、生活面でも成長できたらなと思っています」と気持ちを新たにしていた。

J-VILLAGE CUP U-18の運営をサポートし、練習試合に参加

苦しい展開でも、マジメに続ける力があることを示した

 また、Jヴィレッジになでしこジャパンや国外の年代別代表チームが訪れた際に合同練習を行ったり、練習試合で対戦したりすることも。トップレベルに触れられる環境にある。

 そして、「時間を有効利用できるのは凄くメリット」(朝岡監督)だ。同校のトップアスリート系列のカリキュラムにスポーツが組み込まれており、月曜日から金曜日まで毎日2コマの授業時間にトレーニング(ミーティング)。午前中に行われる火曜日を除き、午後2時、もしくは午後3時から授業としてトレーニングを実施している。

 他の高校では部活動がスタートするような時間に、ふたば未来学園では約2時間の全体トレーニングを終了し、グラウンド、学校施設での自主練など自分磨きの時間に費やすことができる。また、サッカー部員の大半が生活する寄宿舎も近い。加えて、基本的に公式戦は土曜日に行われており、平日は授業トレーニングもあるため日曜日がオフ。五十嵐は「(この学校の)一番は(成長するための)環境が整っているところ。常に人工芝で練習もできて、授業内でも練習できる。自分の課題を克服する時間もたくさんあるので、上手く時間を使えればどんどん成長できる場だと思います」と説明した。

 特別なタレントがいる訳では無いが、「ドリブルというのは自分の武器なので、それが(J-VILLAGE CUP U-18参加チームとの練習試合で)強い相手でも通用している感じが自分の中でもありました。ずっと小さい頃からの夢なので、プロという世界を目指して、日々頑張っています」という仲田のように、ポテンシャルと野心を持ったプレーヤーがいる。また、エース格のMF早田凌(3年)、MF岡田一沙(3年)、GK佐藤遼空(2年)ら伸びしろのある選手たちが複数。五十嵐は「(朝岡監督の下で)もっと頑張れば、もっと上を目指せるんだろうなと思っています。ふたば未来として今までベスト4を越えられたことがないので、まずはそこをしっかりと自分たちで壁を越えて、全国大会に進んでいきたいです」と意気込んでいる。

左SB仲田海吾(新3年)はポテンシャルを秘めたアタッカー

人工芝の専用グラウンド

 元々、06年にスタートした双葉地区教育構想(双葉地区未来創造型リーダー育成構想)は双葉地区の富岡高を中心に、取り組みを推進。富岡の男子サッカー部はプロサッカー選手の育成や全国大会出場を成し遂げていた。だが、震災、原発事故の影響によって、16年度に同校が休校になるなど環境が大きく変化。15年開校のふたば未来学園は、富岡をはじめとした双葉地区の中高の意志を受け継ぐ形で取り組みをスタートしている。

「地域からしっかりと応援されるチームになりたいというのがあるので、私生活のところやサッカー以外のところでの挨拶とかをしっかりと徹底して、良い印象を持たれるようなチームにしていきたいです。(そして、)ふたば未来のサッカー部として、自分たちだけが楽しいんじゃなくて、サッカーを分からない人たちから見ても『オッ』と驚いてもらえるようなサッカーをしたいなと思います」(五十嵐)。

 県立のふたば未来学園だが、福島県内に限らず全県受験が可能。仲田は「県立で人工芝もあって、環境に恵まれていて、指導者の方もS級(ライセンス保持者、当時は砂金伸監督)なので飛び込んでみようと」と進学理由を明かしていたが、より福島県の中学生が憧れるチーム、地域から応援されるチーム、そして県外からも注目されるようなチームを目指している。高体連、Jリーグアカデミー、そして国外でも指導を重ねてきた朝岡監督らコーチ陣から学び、環境の良さを最大限に活かして、成長を続けること。そして、個人、チームとしての目標を達成する。

組織力の強化を選手たちは目指している

まずはチーム初の県ベスト4進出、それ以上にチャレンジ

(取材・文 吉田太郎)
Source: 大学高校サッカー

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