山あいのグラウンドで醸成されていく「吉田の熱」。広島ユースは「今季一番良い内容」で名古屋U-18との上位対決を制す!

サンフレッチェ広島ユースMF小林志紋(14番)がチーム3点目をゲット!
[5.19 プレミアリーグWEST第7節 広島ユース 3-2 名古屋U-18 安芸高田市サッカー公園]

 去年のファイナルで味わった悔しさは忘れていない。再びあの場所へ帰るのはもちろんだけれど、どうやって帰るかも大事なポイントだ。ただ勝つだけではなく、圧倒して勝つ。ただ上手いだけではなく、圧倒的に上手いチームを目指す。そのためには立ち止まっている時間なんて、あるはずもない。

「ここまで7節やった中で内容的には一番良い内容で、ボールを握って押し込むことができましたし、サイドからのチャンスも何回も作れていたので、やりたいことが多く出た試合でした。今までの6試合はあまりしっくり来る内容ではなくても、勝ちに繋げているところがあったんですけど、今週に関しては勝つべくして勝ったのかなという感じはします」(広島ユース・野田知監督)。

 勝ち点で並ぶ上位対決は、充実の内容を披露したホームチームに軍配。19日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 WEST第7節で、3位のサンフレッチェ広島ユース(広島)と2位の名古屋グランパスU-18(愛知)が激突した一戦は、先制を許しながらもFW井上愛簾(3年)の2得点で逆転した広島ユースが3-2で勝ち切って、貴重な勝ち点3を手にしている。

 先にリズムを掴んだのは「立ち上がりが最近はずっと悪くて、『今日はしっかりやろう』という話をしていたので、入りは良かったですね」とキャプテンのDF木吹翔太(3年)も振り返った広島ユース。2分にはMF小林志紋(2年)、井上とボールを繋ぎ、MF中島洋太朗(3年)のシュートは枠を越えたものの好トライ。3分にも小林が右へ振り分け、MF廣重壮真(3年)のシュートは名古屋U-18のGK萩裕陽(2年)のファインセーブに阻まれたものの、2つのチャンスを作り出す。

 ただ、アウェイチームも21分にシンプルなアタックから決定機。DF神戸間那(2年)のフィードから、FW大西利都(2年)が抜け出しフィニッシュ。ここは広島ユースのGK小川煌(2年)が弾き出すも、狙いの一端を打ち出すと、31分に迎えた歓喜。相手のビルドアップの乱れを突いたFW西森脩斗(3年)のパスから、FW神田龍(2年)が丁寧に上げたクロスを、大西はヘディングでゴールへ流し込む。勘所を押さえた素早い切り替えから、きっちり成果まで。名古屋U-18が試合を動かす。

 嫌な流れは紫のストライカーが振り払う。39分。小林が良い位置で前を向くと、ディフェンスラインの背後でパスを受けた井上はそのままフィニッシュ。1度目は萩のビッグセーブに阻まれるも、こぼれ球を拾うと2度目はきっちりゴールネットを揺らす。「シュートは正直気持ちで打ったところはあるんですけど、跳ね返ったところにもしっかり反応できました」(井上)。1-1。広島ユースがスコアを振り出しに引き戻して、前半の45分間は終了した。

 後半も先に好機を手繰り寄せたのはホームチーム。3分。右サイドを小林とのワンツーで抜け出したMF桝谷歩希(3年)のシュートは萩の好守に弾かれるも、右サイドバックがフィニッシュに関わると、7分には完璧なサイドアタック。木吹のインターセプトを起点に小林は左へ展開。MF長沼聖明(2年)が入れた高速クロスを、井上が確実にゴールへ叩き込む。「凄く良い流れで崩せたので、勢いのまま合わせられました」と笑った9番はこれでドッピエッタ。2-1。逆転。形勢は引っくり返る。

 一気呵成。次の主役は既に2点を演出していた2年生アタッカー。14分。中島が左から蹴り込んだFKがこぼれると、エリア外に構えていた小林はミドルレンジから右足一閃。ボールはディフェンダーの間をすり抜け、そのままゴールネットへ到達する。全速力で走り寄ったナンバー14が、アップエリアのベンチメンバーと作った笑顔の輪。3-1。点差が広がる。

 以降も広島ユースは攻める。とりわけ圧巻だったのは、中央で小林や中島、MF橋本日向(3年)が前向きを作ってからのアタック。そこからどこにボールが配られても、3本4本とダイレクトパスが繋がり、気付けばサイドの深い位置へと侵入していく。「今シーズンはここまでそういった形があまり作れなかったんですけど、今日は後ろから前までうまく運べて、そこから押し込んでいくシーンが多かったです」(中島)。4点目こそなかなか生まれなかったが、その一連からはトレーニングの練度が垣間見えた。

 名古屋U-18もそう簡単には引き下がらない。最終盤の45+3分。右からレフティのDF池間叶(3年)が丁寧なCKを蹴り入れ、突っ込んだキャプテンのDF青木正宗(3年)が頭で合わせたボールはゴールへ突き刺さる。3-2。赤いサポーターのボルテージも一段階引き上げられる。

 だが、最後は着実に時間を消し去っていった広島ユースの選手たちに、勝利を告げるタイムアップのホイッスルが届く。「最後にセットプレーで失点してしまったんですけど、全体の内容としてはボールも持てて、相手のロングボールもディフェンスラインでしっかり弾けていたので、良い試合だったかなと思います」(木吹)。ハイレベルな上位対決を逞しく制した広島ユースが、3試合ぶりの白星を手繰り寄せる結果となった。

 この試合の広島ユースには、前節までと異なるポイントがあった。最終ラインが3バックから4バックに変わっていたのだ。「選手の特徴がより出る形を模索した結果が、ああいう3バックという形になったのかなと。でも、ずっと3バックだけで行くつもりもなかったので、去年からずっとやり慣れている形に戻しただけなんですけど、それがやっぱり『やり慣れているな』というところですかね(笑)」とは野田監督だが、選手たちもそれほどシステムにはこだわっていない。

「ずっと3バックでやってきたんですけど、4バックになっても自分たちの繋ぐところとか、1枚剥がして運ぶところとか、中盤で数的優位を作ってとか、そこは変わらないので」(木吹)「3バックも4バックも練習からやってきているので、そんなに違和感はなくて、相手のフォーメーションや特徴に合わせて、3枚でも4枚でもやってきている感じはあります」(DF小谷楓河)。大事なのは数字上の噛み合わせや相性ではなく、目の前の状況をどう把握し、最善手を打てるか。この日の彼らは中央とサイドを巧みに使い分けながら攻め続け、魅力的な内容と結果を同時に手に入れてみせた。

 試合終盤に印象的なシーンがあった。アップエリアにいたMF野口蓮斗(1年)に、ベンチから交代出場を告げる声が掛かる。その瞬間。一緒にアップを続けていたFW菊山璃皇(1年)は自分が呼ばれなかったことに対して、あからさまに悔しそうな表情を浮かべていた。

 だが、その直後のこと。野口と同時に切られる交代カードとして、コーチから自分の名前を呼ばれた菊山は、凄まじいスピードで着ていたビブスを脱ぎながら、ベンチへ向かって笑顔で走っていく。その光景は、まさにサッカー小僧のそれ。4月にユースへ入ったばかりの1年生も、もうこのチームで試合に出ることの意味を、プレミアリーグのピッチに立つことの意味を、十分に理解しているのだ。

交代出場を告げられたFW菊山璃皇はビブスを脱ぎながらダッシュでベンチへ!

「スタメンの選手だけじゃなくて、ベンチの選手もふてくされることなく声を出して、僕たちと一緒に戦ってくれますし、そうやって1年生も試合に出ることになったらすぐにビブスを脱いで準備したりとか、ベンチ外の選手も含めて一体感を持てるので、そういうところは良いチームだなと思います」(木吹)

「みんな試合に出たいという気持ちがあって、それは1年生でも関係なく出してくれているので、途中から入っても試合に入り込めますし、後ろの選手からしたらそういう存在は助かりますし、入ってきた選手もしっかりやってくれるという信頼があるところでは、常に競争があって良いチームだなと思います」(小谷)。

 菊山はプレミアの試合の後に組まれていたトレーニングマッチでは、“命ベルト”を腰に巻いて、高いところから試合を撮影する役目を果たしていた。もう1年生の彼らも『吉田の熱』を確実に纏い始めている。山あいのグラウンドで醸成されていく、サッカーと真摯に向き合う者たちの一体感。今シーズンの広島ユースも、間違いなく強い。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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