[MOM4707]前橋育英GK藤原優希(3年)_「雨野颯真さんを超えるぐらいの気持ちで頑張りたい」。タイガー軍団の新守護神が超ビッグセーブでチームを救う!

前橋育英高の新守護神、GK藤原優希(3年=坂戸ディプロマッツ出身)
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[5.25 プレミアリーグEAST第8節 前橋育英高 2-1 尚志高 前橋育英高校高崎グラウンド]

 もう“偉大な前任者”と比較される現実は、受け入れた。それでも自分は自分。オレにしかできないことだってある。今年は勝負を懸ける高校最後の1年。個人の圧倒的なパフォーマンスで、チームとして叩き出す結果で、あの人の幻影を乗り越えてみせる。

「もちろんインターハイも選手権も全国に出て活躍したいですし、プレミアでももっと勝っていきたいですし、やっぱり自分は目立ちたいタイプなので、目標としている雨野颯真さんに負けないように、雨野颯真さんを超えるぐらいの気持ちで頑張りたいです」。

 上州のタイガー軍団を最後尾から支える背番号1。前橋育英高(群馬)の守護神を任されたGK藤原優希(3年=坂戸ディプロマッツ出身)が決定的なピンチで繰り出した果敢なビッグセーブが、連敗中のチームに逆転勝利を力強くもたらした。

「前半はなかなか向かい風でボールが運べなくて、すぐに失点してしまって、チームの雰囲気的には最悪でした」。藤原は立ち上がりの時間帯をそう振り返る。高円宮杯プレミアリーグEAST第8節。2連敗中でこの日の尚志高(福島)戦を迎えた前橋育英は、開始早々からビルドアップでのミスが目立ち、その一連からわずか5分で先制点を奪われてしまう。

 ただ、少しずつボールを落ち着いて繋ぎ始めると、攻撃の回数も増加。ゲームリズムも引き寄せていく中で、前半終了間際にはFWオノノジュ慶吏(3年)が同点ゴールをゲット。1-1に追い付いて、ハーフタイムへ折り返す。

 後半10分。ホームチームに絶体絶命のピンチが訪れる。クリアが小さくなったところを拾われ、バイタルエリアで前を向いた選手の丁寧なラストパスが、右サイドへ通る。だが、冷静な思考を保っていた藤原には、一連の流れが手に取るように見えていたという。

「まずボールを持っていた選手の前に味方の選手が1枚立っていた中で、右サイドでフリーになっていた選手にパスが行くことはもうほぼ見えていたので、それで一歩目から速く飛び出せましたし、あとは身体を広げて当てるだけでした。会心のセーブです!」。一瞬でシューターとの距離を詰めると、両手を広げて勇敢に突っ込み、身体に当てる超ビッグセーブ。思わずガッツポーズも飛び出す。

 その5分後。前橋育英はPKの流れから、MF平林尊琉(2年)が逆転弾を決め切り、結果的にこれが決勝ゴールに。「1-1の状況でアレを止められて、チームの雰囲気も一気に良くなったと思いますし、ある意味でオレのおかげですかね(笑)。今日は本当にチーム全体で勝って、連敗を止めてインハイに向かおうということでやってきたので、勝ち切れたのは本当に大きいと思います」。そう口にして笑顔を見せた守護神のワンプレーの価値が、90分の中でもとにかく高かったことに、誰も異論はないだろう。

 チームを率いる山田耕介監督も「足元が上手いので、ビルドアップには彼が必要だなと思って起用しています」と言及するように、藤原のゴールキーパーとしての特徴の1つには、足元の上手さが挙げられる。ただ、聞けば納得。もともと兼任していたフィールドプレーヤーとしての能力も相当高かったようだ。

「小4ぐらいまではボランチをやっていて、小4の半ばぐらいからキーパーになったんですけど、小6の時にはFC東京のスクールのアドバンスクラスにフィールドで受かったんです(笑)。入ってからはキーパーに切り替わったんですけど」。当時のアドバンススクールで一緒にボールを追いかけていた中には、現在のチームメイトでもあるオノノジュもいたそうだ。

 そんな経緯もあって、中学進学時はFC東京U-15むさしでのプレーを希望し、セレクションでも最終選考まで残ったものの、結果的に入団は叶わず。埼玉の強豪・坂戸ディプロマッツではゴールキーパーとして実力を磨き、高校は「関東の強い高校に行きたい」という希望を貫き、群馬の名門校へとやってきた。

 1年時からプレミアリーグの登録メンバーには入っていたが、2年生までの2シーズンでリーグ戦の出場は1試合もなかった。なぜなら前橋育英のゴールマウスには1歳年上の先輩であり、年代別代表にも選出されていた絶対的なレギュラーの雨野颯真(早稲田大)が立ち続けていたからだ。

「雨野さんは1年の頃から国体でも一緒でしたし、2年の時は自分もプレミアのベンチにずっと入っていたので、2年間ずっと近くで見てきたんですけど、ハイボールの飛び出しとか1対1のセーブとか、それこそ安定感も含めて見習うことばかりで、そこでいろいろなことを吸収できたことが、今に繋がっているのかなと思います」。そう振り返る藤原だが、新チームが立ち上がったばかりのころは、事あるごとに“先輩”と比較されることが小さくないプレッシャーになっていたという。

「新人戦の時から雨野さんの次のキーパーということで、まずそこまで注目もされないですし、『雨野だったら止めてたんじゃないか』みたいに言われるのが本当に嫌だったんです。でも、何とか負けないように頑張ってやってきたので、今はだいぶ気にならなくなりましたし、普通にやれていますね」。このチームでプレーしている限り、その比較からは逃れられない。ならば、もうそれをエネルギーに変えてやる。吹っ切れた男は、強い。

 高校に入学してからの2年間でとりわけ伸びたのは、この日も披露した1対1のシュートストップだ。「自分は1対1になっても前に出ることができずに、立ち止まってしまって決められることが多かったんですけど、今は1対1で球際に強くアタックに行けるようになったのが一番大きな変化ですね。それも雨野さんから教わることが多かったです」。着実な成長を勝敗に直結させてみせるのだから、何とも頼もしい。

 少し話していれば、明るいキャラクターであることはすぐにわかる。そのことを本人に告げると、満面の笑顔でこう返してくれた。「自分は独特のキャラクターだと思うので、ノリの良い人が自分には合うかなって。でも、ムードメーカーまでは行かないですよ。慶吏ほどではないですけど、まあ、うるさい方だと思います(笑)」。

 何とも言えない不思議な魅力を放っている、タイガー軍団の守り神。偉大な前任者の背中を追いかけ、たゆまぬ努力を続ける17歳。藤原優希がそびえ立つ前橋育英のゴールマウスには、今シーズンも大いに注目する必要がありそうだ。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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