[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.15 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 2-1 日大豊山高 AGFフィールド]
もうほとんど後半が終わりかけていることはわかっていた。せっかく交代カードとしてピッチに送り出されたのに、納得の行くようなプレーは出せていない。ならば、せめて結果だけでも残さないと、せっかく使ってもらった期待に背くことになる。感覚は研ぎ澄まされる。一瞬の隙だって、見逃すつもりはない。
「今日の自分はあまり良いプレーができていなかったので、あそこのシーンで相手からボールを奪えて、しっかりゴールを決められて、良かったと思います」。
後半アディショナルタイムの決勝点を呼び込んだのは、「絶対に自分が決め切ってやる」という強い意志。帝京高(東京)が誇る攻撃のジョーカー。MF杉岡侑樹(2年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)の抜け目なくプレスを掛け切るアグレッシブさと、冷静なフィニッシュワークが、チームに2大会ぶりの全国出場という歓喜をもたらした。
インターハイの全国切符が懸かった東京のセミファイナル。日大豊山高と対峙した帝京は、ボールを握る展開の中で先制を許したものの、前半終了間際にFKからFW土屋裕豊(3年)が華麗な同点ゴール。1-1に追い付いて、ハーフタイムを迎えていた。
藤倉寛監督を中心にしたスタッフ陣は、後半開始からの選手交代を準備する。「『中盤でボールを受けて、捌いたりしてチャンスを作れ』と言われていて、自分としてはボールを受けて、前を向いて、スルーパスを出したり、自分でシュートを打って、ゴールを決めようと思っていました」と口にした杉岡が入ったのは1トップ下の位置。攻撃の指揮を執る重要な役回りだ。
より激しさを増していく展開の中で、杉岡はなかなか中盤や前線の良い位置でボールを引き出すことができず、ゲームに入り切れない時間が続いていたが、勝負をかけるべきタイミングを虎視眈々と狙い続けると、土壇場で千載一遇のチャンスがとうとう巡ってくる。
後半40+5分。右サイドでボールが相手ディフェンスラインの裏へと転がる。自分より大柄な選手がラインを割らせようと身体を入れていたものの、17番は実に冷静だった。「最初は回り込もうと思ったんですけど、相手の身体が強かったので、足の間から自分の足を伸ばしたら、奪い切れました」。ゴールラインギリギリでボールをかっさらうと、まったくのフリーで少しだけ中へ運びながら、左足を思い切り振り抜く。
「もう目の前はゴールだけで、『ニアに打てば絶対入る』と思って打ち抜きました」。ボールは狙い通りにGKのニアサイドを破って、ゴールネットを激しく揺らす。2-1。逆転。その瞬間。気付けばもうチームメイトたちが待つピッチサイドへと、杉岡は走り出していた。
結果的にこの後半アディショナルタイムに記録された1点は、チームに勝利をもたらす貴重な決勝点。今季のトップチームでの公式戦初ゴールを、この大事な試合に持ってきた2年生アタッカーが、全国出場を巡る大一番の主役を鮮やかにさらっていった。
中学時代に所属していたヴァンフォーレ甲府U-15では、なかなか自分の思うようなパフォーマンスを発揮しきれず、「チームの試合にスタメンで出ることもなかなかなかったですし、出られても出場時間も短かったので、U-18には上がれなかったです」とのこと。進学先を考えていた時に、東京の名門校から誘いの声が掛かる。
「他に行くところも決まっていなかったので、『思い切って行ってみよう』と思いました」。覚悟を決めて門を叩いた帝京では、1年時からルーキーリーグやニューバランスチャンピオンシップなどに出場し、実戦経験を積み重ねながら、その実力を着実に伸ばしてきた。
このチームでプレーしてきた1年強の時間で、自分が成長している手応えは間違いなく掴んでいる。「自分に自信を持ってプレーできるようになりましたし、試合に出ることで経験を得られたかなと思います。特に攻撃の面はのびのびプレーさせてもらっていて、自分もやっていて楽しいですし、先輩も本当に上手な選手が多くて、そういうところを参考にしています」。だからこそ、お世話になってきた3年生たちにゴールという形で恩返しできたことも、とにかく嬉しかった。
みんなで挑む夏の全国大会。晴れ舞台へのシンプルな決意が、力強く響く。「試合にしっかり出て、自分の実力を発揮できるようにしたいと思いますし、チームの勝利に貢献できたらいいなと思います」。
自分に課せられた役割はわかっている。磨いてきた鋭いターンや巧みなドリブルで、カナリア軍団の攻撃を活性化させる勝利への切り札。成長を止めない杉岡侑樹の存在は、どんな対戦相手にとっても間違いなく厄介なものになっていくはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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