関東大会予選準優勝とインターハイ予選ベスト4。指揮官も驚くこの2か月の圧倒的成長。2024年の日大豊山が突入しつつある新章のストーリー

貴重な経験を積んだ日大豊山高は選手権予選で初の全国へ再チャレンジ!
[6.15 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 2-1 日大豊山高 AGFフィールド]

 とにかくシビアな試合ばかりを繰り返してきた、この2か月で得てきた経験は、間違いなく彼らの視線をより高いところに引き上げてしまった。確かに見えてきた東京の頂上。ここまで来たからには、もう引き返せない。新たな歴史を切り拓くための2024年を、最後まで走り切ってやる。

「選手権での全国出場も目標にはしていましたけど、正直そう口で言っていただけで、内心は『キツいんじゃないか』と思っていました。でも、今回のインターハイと関東予選でしっかり良い結果を出せているので、『ちょっと現実味が出てきたな』とワクワクしています」(日大豊山高・葛西由晏)。

 関東大会予選は堂々の準優勝。インターハイ予選は代表権獲得まであと一歩のベスト4。今シーズンの東京の高校サッカーシーンを席巻している日大豊山高にとって、もう冬の全国出場は達成すべき明確な目標だ。

「本当に選手たちがよく頑張ってくれましたね。想像以上にやってくれたなと思います」。終わったばかりの試合を海老根航監督はそう振り返った。夏の全国出場を巡るインターハイ東京予選準決勝。名門の帝京高と対峙した日大豊山は、互角以上の戦いを繰り広げる。

 貫きたいスタイルはハッキリしていた。ゴールキックはGK高橋謙心(3年)が小さく出し、DF石田悠太郎(3年)とDF丸山修史(3年)のセンターバックコンビからきっちりビルドアップ。ドイスボランチを組むMF平間右庵(3年)とMF磯野湧人(3年)もセカンド回収に奔走しながら、ボールを収めれば左右にきっちり配球。練習してきた形で前進していく姿勢を鮮明に打ち出していく。

 すると、素晴らしいサイドアタックから先制点を奪う。前半17分。ここも最終ラインのビルドアップを起点に、平間は左サイドへ展開。走ったDF大根悠資(3年)のクロスをファーでMF作道海斗(3年)が折り返し、FW葛西由晏(3年)のシュートを収めたFW大山泰生(3年)はシュートフェイントで2人のマーカーを外すと、豪快なシュートをゴールへ叩き込む。「普段だったら打っちゃうんですけど、こういう時にしっかり落ち着いて流し込めて良かったです」と笑ったストライカーの一撃。早くも難敵からリードを奪う。

 痛かったのは追い付かれた時間帯だ。前半終了間際の40+6分。ペナルティエリアのすぐ外でFKを献上すると、それを直接叩き込まれてしまう。「不用意なファウルからで、アレがなくて1-0で折り返していれば、また違う形で後半に入れたかなと思うんですけどね」(海老根監督)。だが、後半のピッチに帰ってきた日大豊山の選手たちは、前半と微塵も変わらずファイティングポーズを取り続けていく。

 2点目をもぎ取るチャンスはあった。後半6分にMF高岡佑吏(3年)が狙ったミドルはクロスバー直撃。12分には葛西が枠内シュートを放つも、GKの正面を突く。「選手たちは後半もちゃんと気持ちを切り替えて、勇気を持って自分たちのやるべきことをやってくれていました」と海老根監督。18分には決定的なピンチを迎えるも、守護神の高橋がビッグセーブ。勝利への意欲は衰えない。

 だが、試合は残酷な形で幕を下ろす。後半終了間際の40+5分。左サイドの深い位置で相手にボールを奪われると、その流れから無念の失点。ファイナルスコアは1-2。日大豊山にとって初めてとなる全国切符は、土壇場でするりとその手から滑り落ちた。

 4月。関東大会予選に挑んだ日大豊山は、躍進を遂げる。初戦で片倉高に6-0で快勝すると、2回戦では昨年度の高校選手権予選で敗れた日大三高との“日大ダービー”にも、2-1で勝利を収めてリベンジ成功。さらに準々決勝でも国士舘高を延長戦の末に振り切り、準決勝は選手権で全国4強を経験した堀越高に1-0で競り勝って、同校初の関東大会出場権を獲得する。

 迎えた今大会は準々決勝からの登場。実践学園高との一戦は押し込まれる時間も長かったものの、エースの大山が挙げた決勝点を守り切って、1-0で辛勝。その大山が「最初はやっぱり格上相手という意識があったんですけど、自分たちがどんどん勝ち上がっていくごとに自信も付いてきましたし、みんなの気持ちも『あとはもう全国に行くだけだ』というふうに意識もどんどん変わっていったので、全員でそういう方向に向けたことは良かったかなと思います」と言及すれば、葛西も「公式戦に慣れてきたことが凄く良かったのと、強いチームとやることによって、練習からプレースピードがどんどん上がっていったことが、チームとしての成長に繋がったのかなと思います」ときっぱり。チームの中の基準は、日を追うごとにより高いところへと引き上げられていった。

 海老根監督も4月からの2か月間で選手たちが見せた成長には、驚きを隠せないという。「正直、『高校生って凄いな』と思いました。もちろんスタッフもチームも今年はある程度やれる子たちがいるんじゃないかなと思ってスタートしたんですけど、最初はT3(東京都3部リーグ)の開幕戦や新人戦も含めて、『もう1つ殻を破れないかな』というような苦しい試合も多かったんです。でも、関東予選から1つ1つ勝ち進んでいくことで、選手たちがものすごく成長してくれましたし、『高校生の成長ってこっちの予想を遥かに超えてくれるな』ということは凄く感じていますね」。

選手を笑顔で送り出す海老根航監督
日大豊山を支えるコーチングスタッフ

 就任13年目となる指揮官にとって、全国大会へ出場する東京代表の懸かった試合は今回が2度目の挑戦。1度目は2020年度の高校選手権予選決勝。その時は関東一高に0-3で敗れ、目標達成には至らなかった。

 同じシチュエーションの試合を戦った4年前と今の違いを、海老根監督は強く実感しているようだ。「あの頃よりもチームとしてやりたいことがもっとハッキリしてきましたし、それを体現できる選手が増えてきたので、今年は関東予選で東京代表になったということも含めて、本当に全国を狙えるところに入っているのかなと。ただ、まだまだプリンスやT1(東京都1部リーグ)のチームとやった時に、強度や1つ1つの技術の違いというのは、この予選を通じても感じたところなので、そこをもう1つレベルアップしていければ、選手権で全国の舞台を勝ち獲れるチャンスはあるのかなと感じています」。

 自分たちが地道に歩んできた道の先にあるはずの、全国へと続く扉は確実に見えている。キャプテンの葛西は、力強く言い切った。「今回は負けはしましたけど、チームとしての成長には繋がったので、練習から高い強度の練習をして、細かいところを詰めていって、選手権では相手を圧倒できるぐらいの力を見せて、全国に行きたいと思います」。

 機は熟した。首都に旋風を巻き起こしている、桃色の若武者たちが突き進むのは、栄冠への一本道。勇往邁進。2024年の日大豊山が描き始めたストーリーには、まだまだ新たな歴史のページを書き加えていくだけの余地が、大いに残されている。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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