2022年末のカタールワールドカップではメンバー発表後にアキレス腱断裂の大怪我を負い、目前に迫ったW杯初出場の夢が絶たれたDF中山雄太。あれから1年半、リハビリ中から「新しい中山雄太を見せる」をテーマに力強く再起してきた27歳はアジアカップも経験し、次なる夢舞台をたしかに見据えている。
ゲキサカではシーズンオフで帰国中の中山に単独インタビューを実施。イングランドで過ごした2年間、次のステージでの展望、控えの立場から始まったアジア杯で見せた振る舞いなど、26年の北中米W杯を目指す土台ともなる日々について聞いた。
——まずはイングランドでの話から聞かせてください。2022年末のアキレス腱断裂から、復帰を目指した期間、主力に戻ってプレーした期間、再び負傷離脱に至った終盤戦と様々なことがあったと思います。ここまでの日々をどう捉えていますか。
「まずは起きたことはしょうがないと。でもそれで片づけず、次にまた起こしたくはないので、起こさないためにどう過ごすかということをすごく考えていました。その上でこの2年間のことが、これからのサッカー人生に大きく影響を与えるとも思っていましたし、良い影響力をどれだけ生むかはどう過ごすかが大事だなと思っていたので、先を見据えて過ごす2年間だったなと思います」
——ハダースフィールドに加入した2年前、EFLチャンピオンシップ(イングランド2部相当)は日本人選手にとって馴染みがなかったですよね。ただ、いまでは複数の日本人選手がプレーするようになり、この状況を切り拓いた立場だと思います。
「入団当初にも言っていたんですが、日本人があまりプレーしていなかったリーグで今後日本人がプレーしていく上では自分のパフォーマンス次第だなと思っていました。自分が掲げたレベルには到底及ばないシーズンを過ごしてしまったので、すごく心残りな部分はありますが、個人の部分で言えばチャンピオンシップの2年間で起きたことはすごく大きかったと思います。今後の人生で『起きてよかった、そこがターニングポイントだった』と言えるように今後できればなと思います。またいまサッカーをしている子たちがその経験を知って、より強く何かを感じてくれるようになればいいなということも考えています」
——EFLチャンピオンシップは『オプタ』のリーグパワーランキングで、5大リーグに続く世界6番目のレベルだとされています。昨季はレスター・シティ、サウサンプトンといったチームも降格してきて、とくに凄まじいレベルにあったと思いますが、その空気感をどう感じていましたか。またそこでどのようなものを得ましたか。
「やはり落ちてくるチームもありますし、昇格すればサッカー界で一番のリーグに行けるということで、人生を変えられるチャンスのあるリーグだと思います。実際、良い選手もたくさん輩出されています。いまは有名になり切れていなくても、たとえばベリンガムの弟(ジョーブ・ベリンガム/サンダーランド)も良い選手でしたし、これからビッグスターになる選手たちがゴロゴロいるリーグだと思います。もちろんその分、競争も激しいです。自分はそこに2年間いたことで、プレーは納得できるようなものではなかったですけど、それを肌感で感じてからは自分の基準、それもプレーする上での基準、生活する上での基準がすごく上がったかなと感じています。そこは現地に行ったからこそ変わったところかなと思います」
——一方、その中でハダースフィールドは降格という結果に終わりました。どのような思いでチャンピオンシップでの戦いを見ていましたか。
「降格してしまったので、何かが足りなかったからこそ残れなかった、何かが足りなかったからこそ上に行けなかったという思いです。その“何か”というところは、自分自身がプレーし続けられなかったこともそうですし、むしろそこが一番なんじゃないかと思いながら過ごしてきました。2年間で丸々これほどプレーできなかったことは今までありませんでしたし、自分としては初めての経験でした。これからはチームを離れることになりますが、チームにはまた上に上がってほしいですし、自分は自分で離れるからこそ自分が決めた先でしっかりやっていきたいなと思います」
——キャリアを進める岐路にあると思いますが、どういった基準で次のステップを踏んでいこうと考えていますか。
「怪我をしたタイミングもそうですし、年齢もそうですし、今回はいろんなことを含めて考える部分はあります。今まではチームの中ではある種、なりふり構わずという部分もあったのですが、もうプロ生活も10年くらい経って自分のことをよく知って、サッカーのことをよく知ってきているので、チーム選びのところも自分のスタイルに合っているかであったり、チームの美学であったりを考慮して進んでいきたいなと思っています。今までは正直、そこを考える余裕もなかったんですけど、いろんな経験を経たことで、今後はそこがチーム選びに活かされ、選んだ先で自分のプレーが見られるんじゃないかなと思います」
——では、ここからは日本代表の話を。まずアジア杯でのベスト8という結果を率直にどう捉えていますか。
「結果だけで見れば優勝しなければいけない状況でそれができなかったということで、期待を裏切った形になりましたし、自分たちもそのポテンシャルがあると思い、優勝を目指してやって敗退した結果なので、僕の中では深く反省すべき結果だったなと思っています」
——グループリーグ第2戦でイラク、準々決勝でイランに敗れました。いずれも試合前の取材対応で、中山選手が特に警戒を語っていた相手でした。
「自分としてはその2試合に出ていないので、難しい部分はあるんですが、そこも含めて僕は日本代表に対しての反省点というよりも、僕自身がしっかりと試合に出ることができなかった、出て活躍することができなかったという意味で、自分自身に反省すべき点がすごくあるなと感じています」
——ただアジア杯という大会全体の流れを見ると、中山選手と堂安律選手の存在の大きさを感じた部分もあります。2戦目でイラクに敗れた後、3戦目のインドネシア戦は大幅にメンバーを入れ替えて戦い、チームに活力が加わりましたが、2人のトレーニングでの振る舞いや発言も含め、一つのターニングポイントになったと思います。
「ただ僕はどちらかというと、それまで試合に出ていないからこそやった身だし、その立場ではやって当然のアプローチだったと思います。そもそもの話、僕はそれまでのことも反省すべきだと思っていて、ああいったことになる状況は未然に防げるし、ああなった時点でもう遅いなとも思います。ただ、そうなってしまったところには自分の責任もあるので、一言で言えば甘かったなと思っています。僕はそういうところが結果に直結しているんじゃないかと思います」
——もっとできたことがあるということでしょうか。
「まず自分が試合に出て発言することと、試合に出ずに発言することでは、発言する内容も違うし、聞く側の捉え方も変わると思っていて。自分が試合に出ていなかったという責任が自分にとっては大きかったなと思っています」
——なるほど。その話と関連するかはわからないのですが、アキレス腱の怪我から復帰した際に『新しい中山雄太を見せたい』というテーマを強く掲げていました。当時は見た目にもよくわかるフィジカル面がフォーカスされていましたが、アジア杯を見ると精神的な部分、そして振る舞いにも表れているように感じています。
「そうですね。今の代表は強烈な個性はいますし、キャプテンになる資質のある選手も結構多くいると思うんですが、強烈なリーダーシップを取る選手があまりいないと思っています。何かが起きた時に『誰がそれをするか?』というと、あまりいないなという印象がある。今は航くん(遠藤航)がキャプテンをしていますが、何かしらのプラスアルファが必要で、それなら自分がそこを担っていきたいという気持ちはあります。そこは怪我をしてカタールW杯を外から見ていて、自分が代表復帰するまでに掲げた目標でもありましたし、復帰してからの代表を肌で感じてみても、やっぱりそこが必要だなというふうにも感じています。おそらくそういう意識を持っていたことが行動に表れて、そのように感じてもらえているのかなと思います。ただ、僕はまだまだ足りない。そもそもこうして怪我をしてプレーをしていない状況、そういったことをしたくでもできないような状況を生んでしまっています。なので、まずは自分のことをしっかりして、自チームのこと、自分自身のことを整えていきたいと思います」
——いま、次のW杯に向けての2年間をどのように見据えていますか。取材している側としては、前回があっただけにという期待もしていますが。
「もちろんそこは目指している部分ではありますし、1回目を逃したから自然と気持ちが強まっているという部分はあります。でも、かといってそれがうまく軌道に乗っているかというと、この2年間は怪我があってそういうわけではなかったので、そこに囚われず、一歩一歩地道に積み上げてこそ叶うものかなと思っています。どこにパワーを持っていくかのベクトルを持つために目標は立てつつも、そのベクトルの持つパワーを日々大きくしていきたいなと思っているので、まずは目の前のことをしっかりと全力でやっていきたいと思っています」
——一歩一歩という点ではA代表に定着した東京五輪後からカタールW杯より、今から北中米W杯までのほうが長い時間があります。
「そうですね。僕の場合こういった怪我をしたこともあり、まだ時間があることで『問題ない時期に怪我をした』と思っていますし、怪我をしたからこそ蓄えられたものがあるとも思います。そう言った意味で『進化する』という点でもまだまだ途中ですし、新シーズンから進化したところを徐々に見せつつ、それをうまくパフォーマンスに乗せながら、さらに進化し続けて目標に向かって進んでいきたいと思います」
——最後に毎回恒例のスパイクについても一つ聞かせてください。最近はアシックスのスパイクを使用する選手が増えてきて、育成年代の選手も気になっているところだと思うのですが、長く履いてきている中山選手から見て支持される理由はどのようなところにあると感じていますか。
「やっぱり安定感、安心感といったところですね。履いていてマメができることもないし、どこが当たるということもないです。またたとえ当たっていたとしても、そこを改善しようとしてくれるアプローチがあることが大きいです。僕はそこが理由で選んでいます。アシックスのスパイクは100%の力を出すために、“100%を出せない状況”を生まないスパイクだなと思っていて、そこが大きいなと感じています。また安定感はもちろんですが、“安定”というとどっしりと変わらないイメージがあるじゃないですか。でもそうじゃなく“進化する安定感”と僕はよく言うんですが、アシックスのスパイクはそこが大きくあるなと感じています。他の選手から『アシックスどうなの?』と聞かれた時はそこをよく話していますね」
(インタビュー・文 竹内達也)
●北中米W杯アジア2次予選特集
Source: サッカー日本代表
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