[6.22 プレミアリーグEAST第9節 横浜FCユース 1-4 柏U-18 保土ヶ谷]
目の前のハードルを1つずつクリアした先に広がっているはずの、明確なビジョンは頭の中に描けている。さまざまな経験を積み重ねてきたことで、携えるべき基準は間違いなく上がってきた。自信は、ある。あとはそれをゴールという形で証明し続けていくだけだ。
「最終的には高3になるころには横浜FCのプロでやっていたいと思っていますし、それを成し遂げるためには結果がより大事になってくるので、夏のクラブユースで成果を出すというところで、チームを勝たせるゴールを獲りたいですし、今年はプロ契約を勝ち獲る1年にしたいなと思っています」。
昨年末にはバイエルン・ミュンヘンへの短期留学も経験した、横浜FCユース(神奈川)を前線で牽引する2年生ストライカー。FW前田勘太朗(2年=横浜FCジュニアユース出身)の『得点を奪う』という才覚は、プレミアリーグのステージでも際立ち始めている。
「相手に自分たちが狙っていた背後を消されて、1つ長所が潰された中で、サイドからのクロスも合わせ方も質が低くて、チャンスが全然生まれなかったなと思います」。柏レイソルU-18(千葉)との一戦を終えた試合後。やや渋い表情で前田は90分間を振り返る。前節で川崎フロンターレU-18(神奈川)に逆転勝ちを収め、良い状態でこのゲームへ臨んできただけに、1-4というスコアでの敗戦は横浜FCユースの選手たちにとっても想定外だったと言っていいだろう。
前田も自身の出来には納得がいっていないという。「今日の前半は相手が3バックでやってきた中で、自分もまったく基点を作らせてもらえなかったなという印象です。僕は特徴が割とハッキリしているので、対策をされた中で、もうちょっと戦える選手になれるようにならないとダメだなと思いました」。“大好物”の裏に抜けるスペースを与えてもらえず、思ったような形のフィニッシュにはなかなか持ち込めなかった。
それでも2度の際どいシーンは創出した。前半14分。右サイドからMF中台翔太(3年)が入れたクロスをファーサイドで収めると、マーカーとGKの位置を瞬時に見極め、意外なタイミングでシュートを選択。GKに弾かれたものの、面白いシーンを作り出す。
「自分は去年までいつもあそこでパスを選択してしまうという癖があったんですけど、ドイツに行った時に向こうのフォワードはシュートの意識が凄く高くて、ノールックでも打ってくる印象があったので、自分もあのシーンはボックス内で、マイナスでチームメイトが呼んでいたんですけど、それをおとりにして自分が打ったという感じでした」。
後半45+2分。右サイドからDF小漉康太(3年)がアーリー気味に入れたグラウンダークロスは、相手DFのクリアに遭ったものの、こぼれをいち早く収めた前田は身体をひねりながら枠内シュート。ここも相手GKのファインセーブに阻まれるも、シュートセンスの一端を披露する。
「1-4で負けている中で、チームとして得失点差を埋めるということと、個人の得点数を増やすという意味では、アレは間違いではない選択だったのかなと思いますけど、もうちょっとシュートの威力や強さのところは上げていけるところがあるかなと思いました」。
ゲーム状況も判断しつつ、ゴールを挙げるための選択肢を選び取れることが、ストライカーとしての大事な要素であることは言うまでもない。今季はここまでのプレミアでも4ゴールを記録。得点に繋がらなかったが、この日見せた形の違う2つのシュートにも着実な成長の跡が窺えた。
本人も『ドイツに行った時』と言及していたように、前田は「育成年代応援プロジェクト JFA アディダス DREAM ROAD」のメンバーに選出され、昨年の11月末から約2週間に渡ってドイツの名門として知られるバイエルン・ミュンヘンに短期留学。素晴らしい環境の中で、大きな経験を得た。
「向こうではU-17のカテゴリーに入れてもらいました。サッカーのレベル感で言ったら、『突き詰めればやれるな』という感じはしたんですけど、狭いエリアでの基礎技術が向こうの選手は凄く高くて、ライン際でも失わないですし、ボールを出さずに身体を入れてターンすることも凄く上手くて、そこは自分も刺激になりましたね」。
「あとは練習内容もわからない中で、見よう見まねでやっていたんですけど、『やっぱり言語を理解する必要があるな』とは思いました。他にも環境のところで、バイエルンの練習場にはサッカーコートが15面ぐらいあったので、世界基準のアカデミーを経験できたかなと思います。若いうちに世界へ行くという自分の中でのビジョンがあるので、改めて若いうちに行けるんだったら、どんどん海外にも行ってみたいと思いましたね」。身体で体感した手応えは、自分の中にしっかりと刻み込んでいる。
「自分は足元より“背後”で違いを出せるという部分で、背後に出たらほとんどのディフェンダーに競り勝てますし、そこからシュートに持っていく得点パターンが多いので、“背後”は1つの特徴かなと思います」と自身でも分析する通り、川崎F U-18戦でもDF深澤莉久(3年)のシンプルなフィードからゴールを獲り切ったように、前田の特徴は背後へと抜け出すタイミングと、そこから加速するスピードだ。
既に2種登録されているトップチームにも1年時から練習参加している中で、以前との意識の違いも強く感じているという。「高1の時は遠慮もあって、特徴もあまり出せなかったんですけど、高2になってもう自分の覚悟も決まったことと、ある程度トップの人ともコミュニケーションが取れたことで、ボールを要求しやすい環境を作ってくれているので、もっと周囲に求めるということをやっていきたいですね」。
「背後への抜け出しはトップに行っても十分通用しますし、良いパスもいっぱい出てくるので、より自分の持ち味が生きてくるかなと思っています」。とりわけ強い印象を受けたというMF井上潮音やMF三田啓貴、DF福森晃斗といった“先輩”たちに食らい付きながら、少しずつ存在感を打ち出す努力も重ねている。
細身の身体から繰り出すシュートで、次々とゴールを陥れていく様は、さしずめ有能なスナイパー。横浜FCユースの23番を背負った点取り屋。前田勘太朗は三ツ沢のスタンドに集まった水色のサポーターを熱狂させる日を夢見ながら、求められた場所で得点を奪い続ける。
(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2024特集
Source: 大学高校サッカー
コメント