ハーフタイムに響いた「戦術に感情を乗っけろ!」という指揮官の檄。湖国の海賊・近江は4連勝中の神戸弘陵をホームで撃破!

近江高はホームで4試合ぶりの勝利!
[6.29 プリンスリーグ関西1部第9節 近江高 2-1 神戸弘陵高 近江高校第2G]

 喜怒哀楽のすべてが詰まっているから、このサッカーというスポーツを続けてきているのだ。自分たちが心を揺さぶられながらプレーするからこそ、自分たちのプレーが見ている人の心を揺さぶるのだと信じて、湖国の海賊たちは今日もボールに感情を乗せて、グラウンドを駆け回る。

「サッカー選手やったら、『オレはこんなんやってみたい』とか、『オレはこんなんにトライしたい』とか、そんなんが絶対にあるわけで、その感情があるから、ロボットではなくて人間として生き生きしますし、そういう部分で『全員が調和してチームになれば、人に感動を与えられるサッカーになるんちゃうの?』って言いました」(近江高・前田高孝監督)。

 気持ちを前面に押し出す戦いぶりで、難敵相手に粘り勝ち!6月29日、高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ 2024関西1部第9節で、4試合ぶりの勝利を目指す近江高(滋賀)と5連勝を狙う好調の神戸弘陵高 (兵庫)が対戦。MF中江大我(2年)とMF市場琉祐(2年)のゴールで2点を先行した近江が、神戸弘陵の反撃をFW池壱樹(2年)の1点に抑えて、2-1で勝利。第5節以来となる勝ち点3を手にしている。

 試合は開始早々に動く。前半4分。右サイドでの連携から、外に張り出した市場が中央へ戻したボールに、逆サイドから中央へ潜っていた中江は思い切り良くシュート。DFに当たってコースが変わったボールは、そのままゴールネットへ吸い込まれる。「最近は前半から行ける試合が少なかったんですけど、今日に関しては自分たちから仕掛けていけたと思います」と話したのはボランチのMF廣瀬脩斗(3年)。積極的な攻撃参加が光る左ウイングバックの先制弾で、ホームチームが1点のリードを奪う。

「立ち上がりの5分で出足が遅かったところと、人数はいたけど足が止まったところで、きっちり決められましたね」と谷純一監督も振り返った神戸弘陵はビハインドを負う展開になったものの、右のMF大垣颯楽(3年)、右のFW石橋瀬凪(3年)と単騎で突破できるアタッカーを配したサイドからの攻撃を徹底。14分には大垣のクロスから、こぼれをキャプテンのMF木津奏芽(3年)が叩いたシュートは枠を外れるも、厚みのあるサイドアタックからフィニッシュシーンを作り出す。

神戸弘陵の右の翼、MF大垣颯楽(3年)
神戸弘陵の左の翼、FW石橋瀬凪(3年)

 17分は近江。中央をドリブルで運んだFW山本諒(3年)のシュートは、DFに当たって右ポストを直撃。21分は神戸弘陵。石橋が左へ振り分け、FW白石蒼悟(2年)が放ったシュートは近江のDF藤田准也(2年)が身体でブロック。37分も神戸弘陵。左サイドを運んだ石橋の折り返しから、大垣が打ったシュートは、ここも近江ディフェンスが複数人でシュートブロック。さらに、神戸弘陵は43分にも右から大垣が左足クロスを送り、石橋が合わせたヘディングはゴール左へ。「前半はあれだけ回していて、ゴールが入らなかったというところが痛かったですね」と木津。最初の45分間は近江が1点をリードして終了した。

「前半は押しこまれる時間帯の方が多かったですけど、練習からクロス対応は徹底してやってきたので、焦れずにできたかなと思っています」とキャプテンのGK山崎晃輝(3年)も話した近江は、後半もスタートからやや劣勢を強いられながらも、藤田、DF高本翼(3年)、DF中川郁人(3年)で組んだ3バックを中心に、守備の安定感も発揮。ドイスボランチの廣瀬とMF伊豆蔵一惺(3年)はセカンド回収に奔走し、きっちりとした組織的な対応で穴を作らない。

 すると、後半17分に生まれた追加点。左サイドをFW松山大納(2年)との連携で抜け出した市場が、カットインしながら右足で打ち込んだシュートは、左スミのゴールネットへ突き刺さる。2-0。ワンチャンスを見逃さなかった近江の高い集中力。点差が広がる。

 2点を追いかける神戸弘陵もアクセルを踏み込む。23分には木津、FW下酔尾朔也(3年)、石橋とボールを繋ぎ、途中出場のMF中邑蕾羽(3年)が打ったシュートは中川が何とかクリア。28分にも下酔尾のパスから、右サイドに移った石橋のシュートは山崎がセーブ。31分にも木津が左へ振り分け、こちらも途中出場の池が枠へ収めたシュートは、山崎が辛うじて触ってクロスバーにヒット。さらに33分にも右から石橋が3人を置き去りながら狙ったカットインシュートは、山崎が丁寧にセーブ。「アレだけ押し込んでいる時間が多かったので、あとはフィニッシュの精度ですよね」とは谷監督。チャンスは作り続けたものの、1点が遠い。

 38分。ようやくアウェイチームが相手ゴールを打ち破る。左サイドから木津が中央へ送ったボールを、下酔尾が丁寧に落とすと、池が叩いたシュートはゴールネットを揺らす。「決定機を作れますし、仕事はきっちりできる選手ですね」と指揮官も賞賛する2年生アタッカーが一仕事。2-1。終盤に差し掛かったタイミングで、神戸弘陵が勝ち点獲得への執念を表出する。

 ただ、この日の近江は冷静だった。「先にボールに触ることだったり、目の前の相手にやらせないことだったり、そういうことを特に意識してチーム全体でやれたのは自分たちの成果かなと思います」(高本)。最後のシビアなシーンでは、やられないための優先事項を徹底し、身体を投げ出すこともいとわず、1つずつ相手の猛攻を凌いでいく。

 少し長めに取られた6分間のアディショナルタイムが過ぎ去り、タイムアップのホイッスルが響き渡る。「ここ3試合ぐらい勝ちがなくて、それでも1人1人が勝ちたいという想いを、攻守ともにゴール前のところで全面に出せたと思うので、そこで粘れたのかなと思います」(山崎)。ファイナルスコアは2-1。守備面でのハードワークも光った近江が、4試合ぶりの白星をもぎ取る結果となった。

「戦術に感情を乗っけろ!」。ハーフタイムに近江のベンチから、前田高孝監督のこんな声が聞こえてきた。

 指揮官はなかなかリーグ戦の白星が付いてこない中、神戸弘陵戦に向けた練習の中で選手たちにこう語り掛けたという。「『「心からボールを奪いたい」とか、「ボールを受けたい」とか、「前に進みたい」「ドリブルしたい」とか、そういう自分のやりたいことがあるはずやん』という話をしたんです。『オマエら、サッカー選手として何したいねん?』と。人間には感情があるから、そこはトレーニングから常に出してほしいですよね。ホンマに腹立ったなら怒ればいいし、悔しかったら芝生叩いてもいいし、人間がやっていて、いろいろなことがある中でサッカーが一番得意だと思って、サッカーが一番好きでやっているわけだから、うまく行かなかったら悔しいやろうし、基本それがなかったら、1人1人の顔も見えないので、魅力もないですもんね。だから、『感情を乗せろ』っちゅう話なんですよ」。

 選手たちはそれぞれの解釈をこう口にする。「監督の言われた通りにやるというのが今までちょっと多くて、『それだけやってればOK』みたいな感じやったんですけど、今回は言われたことも含めて自分の感情を膨らませることも、自分たちで考えながらやれたことも良かったと思います」(高本)「もっとみんなが声を出して、活気強くやったらチームの雰囲気も良くなりますし、もっと勢い付くと思うので、あの言葉は響きました。感情を乗っけたらチームは1つになりますし、1つになったら強いと思いますし、そのまとまりを持ってやれば苦しい時もみんなで支え合ってやれると思います」(廣瀬)「今年勝てない原因として、まだ1人1人が殻を破れていないと。1人1人が型にハマりすぎてしまっているという感じで、そういう意味でも監督からそういう話があったことも、ゴール前で身体を張ることに繋がってきたのかなと思います」(山崎)。

 この日の試合も、近江は決して思うような内容を披露できたわけではない。チャンスの数も相手チームの方が圧倒的に多かった。それでも選手たちは自分たちでピッチの空気を感じ取り、少ない決定機を高い集中力で仕留め、ピンチに身体を張り続け、それぞれがそれぞれの感情を表に出しながら、勝ち点3を手繰り寄せた。「今日は今できるすべてを出そうとはしたと思います」。前田監督も久々の勝利に一定の手応えを掴んだようだ。

 もう1か月も経たないうちに、インターハイが開幕する。昨年度の高校選手権では決勝まで勝ち進んだだけに、周囲から見られるハードルも確実に上がっているが、彼らは良い意味で今年は今年だと割り切って、全国の舞台に歩みを進めていく。

「いろいろな声は聞こえてくるんですけど、去年は去年のこととして、自分としてはきっぱり忘れています。今年の目標としては“一戦必勝”を掲げてやっているので、泥臭く、粘り強く、1勝ずつ登っていくことで最終的な結果が出るので、先を見過ぎずに、まず目の前の相手に対して全力でやりたいと思っています」(山崎)

『戦術に感情を乗っけろ!』という指揮官の言葉に、それぞれの解釈で、それぞれのやり方で応えようとし始めている選手たち。新たな宝の在りかを求めて、湖国の海賊たちが漕ぎ出した2024年の航海も、自由で、アグレッシブで、間違いなく面白い。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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