[7.6 プリンスリーグ九州1部第9節 熊本U-18 0-0 長崎総合科学大附高 大津町陸上競技場]
トレーニングで積み重ねてきたことを過不足なく出せるところまでは、間違いなく成長してきた。ここから先は次のフェーズ。選手が自分たちの個性を存分に発揮し、それが掛け算になって、想像以上のプレーがピッチに現れていく。指揮官はそこをハッキリと見据えている。
「『それはもうボール状況次第でしょ』『オマエはどこで受けたかったの?』の繋がりで、全体があるようなチームにしたいと思っていて、相手に『ロアッソのシステムって何なの?』と言われるような形が理想というか、そこを追い求めて、トライして、選手とともに成長していければと思っています」(ロアッソ熊本U-18・岡本賢明監督)。
異なるスタイルの両者が激突した炎天下の一戦は、決着付かず。6日、高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ 2024九州1部第9節でロアッソ熊本U-18(熊本)と長崎総合科学大附高 (長崎)が対戦し、双方にチャンスはあったものの、結果はスコアレスドローとなった。
試合はスタートから明確な構図ができる。「ロアッソは後ろからしっかり繋いで、しっかりゲームメイクして、ボールを支配して、アグレッシブにプレーするということを目標にやっています」とキャプテンのDF東哲平(3年)が話した熊本U-18は、その東とDF前川晟真(2年)に左サイドバックのDF奥村海斗(3年)を交えた3枚でビルドアップしつつ、中盤に入ったMF朽木優水(3年)とMF堤隼誠(3年)もボールをピックアップして、縦へのスイッチを入れるタイミングを探っていく。
一方の長崎総科大附は長いボールを使いながら、MF宇土尊琉(3年)、MF阿部紘斗(3年)、MF高橋駿介(3年)の中盤3枚がセカンド回収に奔走。右のFW門井良知(3年)、左のFW松下昊稀(3年)を生かしたサイドアタックからチャンスを探る一方で、前半の途中からは「そこは自分たちで流動的にやらせているので」と定方敏和監督も話したように、ピッチの中での話し合いで前線からのプレスの形も変更するなど、柔軟な戦い方を披露する。
30分を過ぎると、お互いにチャンスを創出し始める。33分は熊本U-18。DF高村颯太(2年)が左へ振り分け、FW元松蒼太(2年)が打ったシュートはわずかにゴール左へ。35分は長崎総科大附。中央左寄り、ゴールまで約25メートルの位置から宇土が直接狙ったFKはわずかにバーの上へ。45+2分は熊本U-18。ここも左サイドから元松が枠へ収めたシュートは、長崎総科大附のGKマガリェンス・アルナウド(3年)が弾き出し、こぼれを叩いた堤のボレーはゴール左へ。前半は0-0のまま、45分間が終了した。
ハーフタイムに動いたのは熊本U-18。最前線で奮闘したFW西門樹浬(2年)に代えて、MF森平一輝(2年)を中盤に投入。ボランチの堤が右ウイングへ、右ウイングの白濱が1トップへそれぞれスライド。後半4分には白濱が早速フィニッシュまで持ち込み、軌道は枠の左へ外れたものの、先制点への意欲を滲ませる。
だが、試合の流れは少しずつ「良い感じで前の選手が方向を切ってくれていたので、後ろも狙いやすくて、そこで自分たちの持ち味の運動量だったり、ハードワークを生かせていたと思います」と宇土も振り返った長崎総科大附に。11分に右から宇土がFKを蹴り込み、ニアに潜ったDF角田碧斗(3年)はシュートまで持ち込めなかったものの、以降もセットプレーを中心に攻勢を強めていく。
終盤は双方がチャンスを作り合う。31分は長崎総科大附。左サイドを駆け上がったDF田中泰平(3年)のクロスに、坂本が合わせたヘディングは熊本U-18のGK宮本哲宏(3年)がファインセーブで回避。33分は熊本U-18。「相手も疲れていたので、『もっと行けるな』と思ってギアを上げました」と後半に入って存在感の増したMF成田響輝(1年)が中央を切り裂いてラストパスを送るも、高村のシュートはクロスバーの上へ。漂うゴールの予感。両チームが踏み込むアクセル。
37分は長崎総科大附に決定機。左サイドを運んだ門井のシュートは、ここも宮本が懸命に弾き出すと、こぼれを叩いた坂本のフィニッシュは東が身体でブロック。41分も長崎総科大附。坂本、DF河野泰良(1年)と繋いだボールから、MF小手川蓮(3年)が狙った枠内シュートも、宮本がビッグセーブ。「とにかく後ろは良い準備と失点ゼロを意識して声を掛けていました」という守護神がゴールマウスに立ちはだかる。
「『粘り強くやって1本刺そう』というのはみんなで話していたので、その1本を刺せなかったのが今日の課題かなと思います」(宇土)「ボールを持つシーンが多い中で、最後のクオリティのところが低かったり、足を振るところの思い切りがちょっとなかったかなと思います」(東)。ファイナルスコアは0-0。お互いにゴールを奪い切るまでには至らず、勝ち点1を分け合う結果となった。
3月に開催された船橋招待U-18サッカー大会では、強豪が居並ぶ中で優勝するなど、前評判が高かった熊本U-18だが、ここまでのリーグ戦では8試合を終えて2勝3分け3敗と黒星が先行。プレミアリーグプレーオフ圏内に当たる2位とは5ポイント差の6位に付けている。
「今ごろは首位争いをしているイメージでやっていたんですけどね。正直プレシーズンは少し勢いでうまく行っていた部分もあったんですけど、ここまでチームとしてまったく積み上がっていないかと言ったら、そういうこともないので、あの勢いが今のチームに欲しいなと思います」。岡本監督はそう語りながら、高校年代のチームを率いている中で考えていることも口にする。
「チームとしての成長も間違いなく大事なんですけど、僕自身は個人の成長が一番に来てほしいところがあるので、余白を残したいというか、あまり戦術的になりすぎないようにというのは心がけていますね。結局ビルドアップをクリアしてからどうするというところがチームの課題で、そこはチームとしての形というか、狙いも必要ですけど、選手個人が一番の強みをもっと発揮できるように、トレーニングしていきたいなとは思っています」。
ここ数年の熊本U-18を見ていると、選手たちが適切な立ち位置を取りながら、トップチーム同様にボールを丁寧に動かし、サイドと中央を使い分けるアタックを繰り返すような、トレーニングで積み重ねていることがピッチに現れるスタイルを、どのシーズンのチームも体現している。
キャプテンの東の言葉も印象深い。「高校の時からこういうことができていると、大学やプロに行く上で、自分の個人戦術も上がっていくと思いますし、自分で判断することが多いので、いろいろと考えながらプレーできるようになるかなと思っています」。身に付けるべきベースの部分を学ぶことの効果は、選手たちも十分に感じているようだ。
その上で、個人の育成も着々と進んでいる。道脇豊や神代慶人のように、高校生のうちにプロ契約を交わし、既にトップチームの確かな戦力になるような才能も輩出。「やっぱり豊と慶人がトップに行っていることは刺激になっていますけど、それこそ豊は年齢も一緒なので『オレらもできるぞ』ということは監督からも言われていますし、そこは意識の差が違いになっているとも思うので、もっとそこに近付いていきたいですし、刺激をもらってやっています」と東も語るなど、彼らがU-18の選手たちに与える影響も小さいはずがなく、そのサイクルを考えても、熊本のアカデミー自体が着実にステップアップしていることは間違いないだろう。
九州予選で敗退したため、この夏のクラブユース選手権の出場は叶わず、プリンスリーグでも思い描いていたような結果は残せていないが、指揮官は改めてここからのチーム作りについても、それぞれの判断を尊重しながら、個性を繋ぎ合わせて組織に昇華させるような、明確なイメージを持ち合わせている。
「最初は選手たちに少し迷いがあったので、ある程度の形を与えてあげないといけないなと思っていたんですけど、やっぱりそれには限界があるなとも感じています。だから選手たちにも『これからもう1回トライするよ』ということは話していて、もしかしたら選手たちが難しく感じることがあるかもしれないですけど、自分で考えてプレーできる選手はどこに行っても良い選手と言われると思うので、そこを目指してやっていきたいですね」。
チームを最後方から支える宮本の決意が、夏空の下に広がるグラウンドに力強く響く。「今は苦しい試合が多いですけど、3年生がしっかりしたものを示せると次にも繋がってくると思いますし、僕たちが引退した後も1,2年生がそれを繋いでいってくれると思うので、自分たち3年生のパワーを練習でも試合でも示して、もっと良いチームになって、勝利も増やしていきたいと思います」。
ブレないアカデミーのフィロソフィーと、ブレない指揮官の強い意志。個人も、グループも、まだまだ成長する余地は多分に残されている。暑い夏をみんなで乗り越えた先に待っている熊本U-18の進化には、大いに注目する必要がありそうだ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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