『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:自分の色(中央大・大野篤生)

中央大を率いるキャプテン、DF大野篤生(4年=前橋育英高)
東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 劇的な勝利を収めた試合後。応援団から万雷の“アツキコール”を向けられたキャプテンは、一瞬だけ勿体ぶったものの、すぐさま華麗なステップを踏み始め、周囲の喝采をさらってみせた。その一幕を目にしただけでも、彼のチームの中での立ち位置が容易に窺える。

「カリスマというよりは、選手に寄り添いながらというか、“思いやりキャプテン”じゃないですけど(笑)、そういう色が自分には一番合っているのかなとは思いますね。結局、好き嫌いって人の判断を歪めてしまいますし、みんなが自分のことを好きでいてくれれば、何を言っても言うことを聞いてくれると思っているので、ちゃんとそういう状況を作れるように、日々の行動や言動というところは意識しながら、常に人望を集められるようなキャプテンでいられるようにあろうとすることが、『自分の色』なのかなと思います」。

 100年近い歴史を誇る中央大学友会サッカー部を束ねる、2024年のキャプテン。DF大野篤生(4年=前橋育英高)は最高の笑顔と、磨いてきた思考力と、紆余曲折の末に手にしたリーダーシップを携えて、大学ラストイヤーを全力で駆け抜けている。

 ホームに国士舘大を迎えて行われた、関東大学リーグ1部第11節。今季初の連敗を喫してこの一戦に臨んでいただけに、中央大にとって絶対に負けたくないゲームは、前半の終盤あたりから凄まじい“ゲリラ豪雨”に見舞われることになる。

 ただ、彼らにとって、これは『恵みの雨』だったのかもしれない。大野も「前半は想定していたよりも自分たちの緊張感と相手の勢いの両方が重なって、イメージ通りには行かなかったので、『雨が降ってくれた』という表現が近いかもしれないですね」と話したように、前半から何度も決定機を掴んでいたのはアウェイチーム。ホームチームはギリギリのところで踏みとどまっていた。

 ハーフタイムに入っても、雨の激しさは増すばかり。ピッチのそこかしこには水溜まりが浮き上がり、もはや想定していたようなプレーができるコンディションではなかったが、この状況を逆手に取った中央大は、後半4分にFW加納大(4年)が先制点をゲット。びしょ濡れの応援団も一気に沸騰する。ところが、事はそう簡単に運ばない。1点リードのままで突入した最終盤。39分にPKを決められ、土壇場で国士舘大に追い付かれてしまう。

 それでも金茶の魂は諦めない。45+5分。左サイドをFW北浜琉星(2年)が駆け上がって中へ。FW持山匡佑(3年)の強烈なシュートはクロスバーを叩くも、詰めたDF岡崎大智(1年)が押し込んだボールはゴールネットへ到達する。それから程なくして吹き鳴らされたタイムアップのホイッスル。中央大はドラマチックに勝点3をかっさらう。

「“中大らしくない”感じではありますね。去年はこういうゲームをなかなかモノにできなかったんですけど、今年はより選手間のコミュニケーションを増やす場を設けることもやり始めたので、それが直接実を結んでいるというよりは、そういう機会の何気ない積み重ね、数値では測れない何かが積み重なった結果かなとは思います」。

 いわゆる“マジメモード”で勝利の感想を口にするキャプテンに、少しだけ笑いそうになってしまう。その10分ぐらい前のこと。最後まで声援を送り続けた応援団の前で挨拶の音頭を取った大野は、仲間からの“アツキコール”に促されるがまま、コミカルな“勝利のダンス”を踊っていたからだ。

「あれがオレの真骨頂なので(笑)。中大のTikTokとかにも自分の動画がメッチャ上がっているんですけど、そこでも踊っていますし、一発芸もやっています。あとは毎年1年生の自己紹介というのがあるんですけど、自分は2年、3年、4年とその司会をやっていて、1年生がやる前に僕がやるというくだりもありますしね(笑)」。さりげないアピールも滑り込ませた笑顔は、4年前に見た時の印象と少し異なるものだった。

 2020年、秋。前橋育英高の部長を務めていた大野は、松葉杖を突きながら試合のピッチに向かうチームメイトたちを笑顔で送り出していた。時はコロナ禍真っ只中。インターハイも中止になるなど、想像もしていなかったような高校ラストイヤーを過ごしていた中で、サッカーの神様は18歳へさらに過酷な試練を与える。9月に入り、ようやく開催されたシーズン初の公式戦で待っていたのは、左ヒザ半月板損傷という大ケガ。早期復帰は難しいというのが医師の診断だった。

「『何でオレなんだろう?』とはケガをした瞬間にメッチャ思いましたね。自分でも自負できるぐらいサッカーに関しては真面目に取り組んできましたし、部長としてもチームのことを考えたり、一生懸命やってきてはいたはずなので、『何でここでオレなんだろう?』という想いは凄くありました」。正直な気持ちを明かしてくれながら、さらに大野が続けた言葉は今でも強く記憶に残っている。

「オレたちはこの3年間をサッカーに捧げてきた訳で、中でも何を目標にしてきたかと言われたら、『選手権で日本一を獲る』ことなので、そこはケガしていても、ケガしていなくても、試合に出ていても、試合に出ていなくても、完全に変わらない所です。だから、部長という立場も戴いている自分にできることは、本当にチームのことを考えたり、本当に日本一を獲るためには何ができるかという所をもう1回しっかり考えることなので、自分にやれることをあと3か月間、悔いなくやっていきたいなと思っています」。とても高校生とは思えないメンタリティに驚くとともに、現状を受け入れて、前を向いているポジティブさが、とにかく印象的だった。

 話を聞いたのは高校のグラウンド。その場所も、当時の部長という立場も含めて、一定の緊張感は保たれていた。本人は「部長ではありますけど、割と“おふざけキャラ”というか、ピッチ外では結構イジられたりするので(笑)」と話していたものの、時折浮かべる柔和な笑顔からも、そこまでのキャラクターを窺い知ることはできなかったのだ。

 実際のところ、高校時代とはリーダーシップの取り方にも、確実に変化はあるという。「高校の時は結構キツキツに締め付ける感じの部長をやっていて、それは正直自分が一番しんどくて、『これでは身が持たないし、オレはそこまで強くないな』と思ったのがキッカケになっていて、『オレは松木玖生みたいな感じではないな』とそこで悟ったんです」。

「自分には打たれ弱いところもあって、人のことを信じる分、裏切られた時に気持ちが落ちてしまうので、それなら裏切られないような人間であることが、自分にとっても一番楽ですし、チームにとってもいいのかなって。中大のみんなって“ギスギス”や“ガチガチ”という感じではなくて、どっちかというと『自分たちのペースでやりたいです』という感じなので、それも加味した上で、こっちもあまりギスギスし過ぎずにいることが合っているのかなと思いますね」。

 もちろん高校時代も、全力で部長という役職と向き合っていたことは間違いない。だが、そのタスクを意識するがあまり、自分がいろいろな意味で背伸びをしていたことも、今から振り返ればよくわかる。だからこそ、この歴史あるサッカー部のキャプテンを務める上では、もう自然体を貫こうと決めた。それがチームメイトにとっても、自分にとっても、必ずプラスに作用すると信じて。

「だから、アレはデフォルトです。いつも全然やらされますし、僕も喜んでやっちゃいます(笑)」。そう言い切った『ダンスを踊る側』も、『ダンスを躍らせる側』も、十分過ぎるほどにわかっている。この日の“おふざけキャラ”を見る限り、このグループを牽引するキャプテンのキャラクターは、きっと一番収まるところに、最適な形で収まっているのだろう。

 一方で、今の自分に足りないところにもしっかりと目は向いている。「キャプテンとしての自分のラストピースは“ピッチ内”だと思います。オフ・ザ・ピッチで言わなきゃいけないところとか、今自分が動けば変えられそうな何かというところでは、ちゃんと動けていると思いますし、それに対してのアクションも怠ってはいないので、あとは試合でのパフォーマンスが付いてくれば、結構良いキャプテンなんじゃないかなと思いますね(笑)」。

 高校時代の負傷の影響もあって、大学入学後も練習に本格合流したのは1年の11月ごろ。以降も主戦場はBチームであり、昨シーズンもレギュラーを掴んでいたわけではない。「今年もそんな簡単に大活躍できる年にはならないなということは何となく察してはいたので、自分の命題としてはシーズンを通して少しずつでも日常を積み重ねて、最後の最後でプロに滑り込めるぐらいの実力を付けるぐらいまで叩き上げることなんです」と冷静に現状を分析した上で、日々努力を重ねている。

 小さくない刺激を受けているのは、高校時代のチームメイトたちの活躍だ。既に新井悠太(東洋大/東京V内定)と稲村隼翔(東洋大/新潟内定)は特別指定選手としてJリーグのピッチに立っており、中村草太(明治大/広島内定)、熊倉弘貴(日本大/横浜FC内定)、熊倉弘達(日本大/甲府内定)もJクラブからの内定を勝ち獲っている。

「シンプルに凄く実力のある集団だったんだなって。普段からあまり話したりはしないですし、端から見て『あ、隼翔決まった』とか『弘達決まった』というのを知っていく感じなので、どちらかと言うとコミュニケーションを取っての刺激というよりは、入ってくる情報に対して燃える感じですけど、やっぱり『いいところでサッカーしてたんだな』って思います」。

 それは彼らに追い付きたい気持ちはあるけれど、焦っても仕方がない。「やっぱり地に足を付けて、コツコツ積み重ねることが近道だと思うんですよね。自分は普通に就活も終えて、内定を戴いている状態で、そっちの道に行っても社会人としてなりたい姿も自分の中では描いているので、もちろんプロにはなりたいですけど、そこに対しての焦りはないですね。今やるべきことに目を向けて、やるべき時にどれだけ実力を出せるかというところに、常に照準を合わせてやっています」。自分は自分の道を、ゆっくりと、着実に、歩いていく。

 大学サッカーと共に生きる生活も、あと4か月あまり。残された時間への決意が訥々と、熱く、口を衝く。「少しでも勝ちの記憶を残したいなという想いはあって、去年は負けてばかりで本当にキツかったので、今日みたいにこうやって勝って喜ぶことが一番の財産ですし、あと数か月、チームとしては勝ち続けたいですね。個人としてはもっと圧倒的なリーダーとして、一声でチームの空気を変えられるような存在を目指して、ピッチ内の精度をより高める時間にしなきゃなって。そして最後は歴史に名を残せるような、『アイツ、凄かったね』と言われるようなキャプテンでありたいですね」。

 18歳の時に帯びていた色彩も、22歳になって纏ってきた色彩も、どちらも自身の中から生まれてきたものであることは間違いないし、そこには正解も不正解も存在しない。ただ、これだけは言える。どこにいても、何をしていても、大野篤生が大野篤生であり続ける限り、その時々で考えて、悩んで、懸命に打ち出していく『自分の色』は、それこそこの日のダンスを踊った後のように、多くの人の表情へカラフルな笑顔の花を咲き誇らせていくはずだ。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』


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Source: 大学高校サッカー

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