【インタビュー】日本代表10番MF堂安律、名将のもとで深めた“ウイングバック論”「監督のアプローチがすごく良かったんですよね」

インタビューに答えたMF堂安律(フライブルク)
 日本代表で10番を背負うMF堂安律(フライブルク)は昨季、ブンデスリーガ終盤戦でウイングバック起用を経験し、攻守において新境地を切り開いてきた。その財産は森保ジャパンにも好影響をもたらし、3-4-2-1の新布陣にトライした6月シリーズはミャンマー戦でシャドー、シリア戦でウイングバックと複数ポジションを担当。9月開幕の最終予選に向け、戦術オプションの可能性を大きく広げる立役者となった。

 ゲキサカでは6月下旬、そうした新たなトライを続ける堂安の単独インタビューを実施。ウイングバックという新たな役割への向き合い方、攻撃的なアタッカーが守備の役割を担うにあたってのアドバイスを聞くと、昨季まで29年間にわたってフライブルクで指導者キャリアを重ねたクリスティアン・シュトライヒ監督(59)の手法に一つの答えがあった。

——近年はアタッカーとして「守備もできる」という姿を見せてきた堂安選手ですが、昨季終盤はウイングバックのポジションで起用されていました。そのチャレンジとはどのように向き合ってきましたか。
「新しいことではありましたけど、監督のアプローチがすごく良かったんですよね。シュトライヒ監督は『ウイングバック』という言い方は僕にはしていなかったので。『4-4-2でやる時もたまに張ってるだろ?その時のポジションを取っててくれたらいいから』と言って、守備でも『SBがやられたら戻らないといけないけど、そこはいつもの感覚でいいから』と。あくまでも『ウインガーの選手がすごい守備もできるみたいな感覚でいいから』という感じで、ウイングバックとして自分に何かを植え付けようとしなかったのが良かったと思っていて、それが自分としてはすごくありがたかったです。一応、攻撃の選手なので、やっぱり『守備やれ!』ってところから言われたら『なんでだよ』ってなるじゃないですか。それが全くなかったですね。ネガティブさを出さずにやらせてくれたので『楽しそうじゃん!』って感じで、アプローチの仕方が良かったと思います」

——堂安選手自身もかなり分析をしたそうですが。
「ポジショニングのところはそうですね。この前のシリア戦を見てもらってわかると思うんですけど、ウイングバックなのにめちゃくちゃ前にプレッシャーをかけていて、あのかけ方には実はすごい駆け引きがあって、そこは勉強しましたね。簡単に言うと行く時と行かない時の判断です」

——サイドからプレッシャーに行ってマンツーマン気味にハメ切るという形であれば、特にブンデスリーガでは多いと思います。
「フライブルクはたまにマンツーもあるんで、僕としてはそのほうがやりやすいんですよね。裏を取られたらついて行けばいいし、降りていく相手にもついていけばいい。でも代表ではそういう守備の仕方をしないので、人と人の間に立って一人で2枚見るイメージで、少しアプローチを変えています。あとシリア戦は冨安(健洋)が後ろにいて、彼の良さ、守備範囲の広さを引き出すためにも、僕が引いたら良さは出ないので、前に行くようにして、それによって彼のプレー範囲が広がって良さが出るというイメージをしていました。その結果、右サイドは比較的良かったかなと思います」

——シリア戦に向けた記者会見では、森保一監督が堂安選手のウイングバック起用の可能性について言及した上で「こんな上手い選手がこんなハードワークするんだということを将来プロや日本代表を目指す少年、少女に見てもらえたら」と話していたのが印象的でした。
「あれは嬉しかったですね。ちゃんと自分が体現しているプレーを見て、評価してくれているんだなと。選手はチームのためにプレーしながらも、『これちゃんと評価してくれてるのかな?見てくれてるのかな?』って思いもどこかにあるんですけど、森保さんは食事会場から、ホテルでの行動からすごく見ている方なので。それを評価してくれるのはすごくありがたいし、特に守備をサボらないという自分の良さがある中で、あの言葉はすごく刺さりました。頑張らないとなと思いましたし、嬉しかったですね」

——昔は当然、アタッカーとしての道を突き詰めていた時期もあったと思いますが、そこからオランダやドイツを経てどのような変化があったのでしょう。
「そこはシュトライヒ監督のアプローチの仕方もありますし、あとはウイングバックじゃないよということで植えつけられたとはいえ、ウイングバックならではのシチュエーションは絶対にあるので、その時は試合後に監督から呼び出されて『こうしてほしい、ああしてほしい』という指示は受けていました。すごく良い人なので、自分も『この人のために、この人が言うなら』という思いで聞いていたし、その関係性がポジティブに働いたと思います」

——もともと1対1の局面での守備は上手く、特に相手から狩る技術が優れていた印象はあるのですが、堂安選手にとっての守備へのこだわりは。
「僕は奪い切る守備が最高の守備だと思っているので、理想はサイドハーフで取りに行って狩り取るというのが好きなんですけど、とはいえウイングバックは抜かれたらピンチになってしまうので、飛び込めないところがあって、そこは一つ自分が悩んだところでした。ウイングだと抜かれてもサイドバックの選手がいるので、一か八かで飛び込んで行けるし、奪えたらビッグチャンスだし、やられてもまだ大丈夫。ただ、いまは抜かれたら終わりという恐怖心はあったんで、そのバランスは考えましたね」

——ゲキサカ読者の中学生や高校生も、ウイングで守備を求められたり、ウイングから守備的なポジションに回るという経験をしている選手もいると思います。すでにトップレベルでそのチャレンジと向き合った堂安選手から、かつての自分も含めた彼らにどのようなことを伝えたいですか。
「今やから言えることは、攻撃と守備を分けて考えている時点でサッカーは分かってないなということですね(笑)。まず攻撃と守備って表裏一体なので、攻撃がいいと守備もよくなります。たとえばこれは細かいサッカーの話になるんですけど、フライブルクって左サイドで守備をハメに行く時は右サイドの選手がめちゃくちゃ中に絞らないといけないんですよ。守備ができない選手はそれをサボりがちなんですよね。どうしても前に残ってしまう。ただ、そこでうちの監督がよく言うのは『左サイドで奪った時に、そこのポジションがゴールに向かう最短の道だよ。サボってるほうがボール来ないよ』ということ。監督は攻撃の選手によく『お前、点取りたくないのか?』って言うんですよ。『正しいポジションにいて守備してれば点も取れるから』『攻撃のための守備だよ。攻撃のためにそこにいなさい』と。自分はその感覚がすごく理解できるし、ウイングバックでもその感覚があるからこそ点が取れてるのかなと思います」

——これは育成年代の選手に対するアドバイスだけでなく、攻撃的な選手に対するアプローチの良い例として指導者へのアドバイスにもなりそうですね。
「そうですね。いい指導者になれそうです(笑)」

——最後に日本代表のことを聞かせてください。守備というテーマに限らず、アジア杯では堂安選手のチームのための振る舞いが印象的でした。特にグループリーグ3戦目に向けて、中山雄太選手とトレーニングを盛り立て、勢いにつなげた場面は象徴的だったと思います。
「もちろんチームを引っ張っていこうという思いはあります。ただ、そこを評価するのは第三者だと思っているので。メディアの方、監督、チームメートもそうだし、こいつの存在感ってすごいなと思われることが僕の理想なので、いくらみんなを引っ張って戦術的なことも頑張ってやろうが、信頼をされていなかったらそこまで。そういう役割を担いたいというのもありながら、信頼を得られる選手になりたいなと思っているので、そういう意味でいろんな言動や行動が変わってきているのかなと思います」

——さきほど守備のことについて細かく聞いたのも、攻撃で結果を出すという姿は2年前のカタールW杯でも見せたからなのですが、そこに加えて2年後の北中米W杯でこういう姿を見せたいというビジョンはありますか。
「でも『やっぱ取るんだ』って思われたいですね。1回目はたまたまで誰でも取れるんで。自分はいつも言い聞かせているんですけど、1回目のまぐれはある。『ラッキーパンチが入っただけ』って自分には言い聞かせています。ただ、2回目、3回目と続けていくことはやっぱり簡単なことじゃない。それができてこそ、本当に大舞台に強いと思われるべきだと思います。だからこそ本田さん(本田圭佑)がやった3大会連続ゴールというのを本当にリスペクトしていますし、1大会だけじゃ満足していないんで、2大会目にもその気持ちで臨みたいと思います」

——最後に本日お披露目されたスパイクについての感触を教えてください。
「僕は足の横幅が広くて、今までは広げてくれてフィットしていたんですけど、今回は実際に横幅が広くなっているんで、僕の意見が詰まったスパイクだなと思いますね。あと派手な色が好きなので良いと思います。またアウトソールも新しいことにトライされていて、(スタッドが)3本のものは僕自身もあまり履いたことがなかったので、これからどんどん試していきたいです」

(インタビュー・文 竹内達也)


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Source: サッカー日本代表

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