[8.25 SBS杯 U-18日本代表 0-0(PK7-6) U-18アルゼンチン代表 エコパ]
日の丸の付いたユニフォームに袖を通すこと。試合前にみんなで君が代を歌うこと。そして、日本代表の選手としてピッチに立つこと。どれも今まで外からは見てきていたけれど、実際に自分が味わってみたら、その意味が、その重さが、少しだけわかった気がした。
「3年ぶりに選ばれた代表で、こういう舞台で国歌斉唱するのも初めてだったので、『ああ、こういう気持ちになるんだな』という想いもありましたし、この年代には他に良いキーパーもたくさんいるので、そういう人たちに食らい付いていくためにも、『ここで絶対に爪痕を残したい』という想いもありましたね」。
アルビレックス新潟のトップチーム昇格が内定している、190センチの体躯を誇る守護神。GK内山翔太(新潟U-18、3年)は国際大会で得たかけがえのない経験を糧に、もっと圧倒的な存在になるためのステップを、一歩ずつ駆け上がっていく。
「2024 SBSカップ国際ユースサッカー」の最終日で対峙するのは、U-18アルゼンチン代表。勝った方が優勝、引き分けた場合にはPK戦の結果を待たずにアルゼンチン代表が優勝というシチュエーションで迎えたこの大事な一戦で、内山はスタメンとしてピッチに解き放たれる。
激しい雨の降る中で行われた初戦のU-18韓国代表戦でも、先発で出場した内山は相手の攻撃を無失点に抑えたものの、U-18日本代表もゴールを奪えず、天候の影響もあって、本来行われるはずのPK戦は実施されなかったため、試合は0-0で終了。「自分がチームを勝たせたいという気持ちは強かったですね」とより気合を入れて、重要な80分間へと飛び込んでいく。
自身の中では確かなメンタル面での成長を感じていた。U-17新潟選抜の一員として参加した昨年9月の「第25回国際ユースサッカー in 新潟」で、大会最終日にU-17日本代表と対戦した一戦は、1-5と思わぬ大敗。憧れのデンカビッグスワンスタジアムという舞台装置から来る緊張も相まって、思ったようなパフォーマンスを発揮することが叶わなかったという。
それからほぼ1年が経ち、今度は日本代表側として戦うことになったが、初戦もこの日の試合も、いたって冷静に戦況を見つめられている自分に気付く。「去年の代表戦ではひどい失点数だったんですけど、メンタル的にこの1年間で強くなった部分はあるのかなと思いますし、今日は実際にこういう良いスタジアムで試合をしても、去年に比べて緊張もあまりしなかったですし、落ち着いてプレーもできているのかなと思います」。ディフェンスラインの選手へ積極的に指示を送り、セットプレーの際にはチームメイトを大声で、堂々と鼓舞し続ける。
終始押し気味に進めた試合は、ここまでの2試合同様に0-0で80分間が終了。この時点でU-18アルゼンチン代表の優勝が決まってしまったが、ホストカントリーの代表チームとしてこのまま終わるわけにはいかない。「チームのみんなで『最後に勝って帰ろう』という話はしていたので、『ここで自分が止めて、勝って帰れるようにしよう』と思って挑みました」。そう振り返る内山は、PK戦へと気持ちを入れ直し、勝負のゴールマウスへと向かっていく。
4人目まで、すべて方向は合っていた。フィーリングは悪くない。あと少し。あと少し。5人目と6人目には、逆方向へ決められる。それでも強気な姿勢は変わらない。7人目。先攻のU-18日本代表はMF嶋本悠大(大津高、3年)がきっちり成功。次は止められる。次こそは止めてやる。
後攻のU-18アルゼンチン代表。左足から放たれたキック。自分から見て左に身体は飛んでいたが、中央に来た軌道を見て、残した右足がボールを確実に弾き出す。咆哮しながら走り出す背番号12の守護神へ、チームメイトたちが次々と駆け寄ってくる。気合のビッグセーブに、意地のPK戦勝利。「優勝はできなかったですけど、最後に自分が止められて、試合に勝つこともできて、本当に良かったと思います」と笑った内山は、最終戦で手繰り寄せた勝利にしっかりと貢献してみせた。
2021年のU-15日本代表候補合宿以来となる久々の代表活動は、やはり刺激的な時間だった。「国歌斉唱の時には気持ちが高まるというか、日本を背負っていることを実感しましたし、アルゼンチンの選手は筋力もあって、日本の選手と比べてPKのシュートスピードの差も感じましたね。こういう試合になるとPKも大きな要になってくる部分だと思うので、そういうところでも止めていけるようなキーパーになっていきたいです」。国際試合だったからこそ、体感できた新たな気付きもあったというわけだ。
スクールに通っていた小学生時代から在籍してきたアルビレックスで、来季からプロサッカー選手になる内山にとって、A代表も経験している“先輩”の存在は、さらに高いステージを視野に入れていく中でも、やはり大きな指標になってくることは間違いない。
「アルビのゴールキーパーには足元の技術が求められてくると思うんですけど、そういったところも小島(亨介)くんはメチャメチャ上手いので、そういうところは小島くんの基準をベースにして、もっと追い付いていきたいですし、安定感ももっと高めていかないと試合には出られないと思っているので、そういうところは伸ばしていきたいです」。
「足元の技術自体に自信はありますけど、逆足のキックはまだ全然足りないですし、両足が蹴れないと意味がないので、もっともっと練習したいと思います」。この日の試合でも丁寧なビルドアップで相手のプレスを剥がす一幕もあったが、自分にはまだまだ高い基準を課しているようだ。
アカデミーで過ごせるのも、あと4か月あまり。残された時間でさらなる自身の成長と、チームの結果を同時に追い求めていく。「日の丸を背負ってプレーしたことで、多少は自信も付いたと思うので、これをちゃんとチームに還元したいですし、今はまだチームはあまり良い位置にはいないですけど、残りのリーグ戦もしっかり戦って、1つでも勝ってプレーオフに行けるように、自分が先頭に立っていきたいなと思います」。
新潟生まれ、新潟育ち。オレンジの希望を背負った地元出身の長身ゴールキーパー。代表活動で手にした自信と成長への渇望感を携えて、内山はもっと高い大空へと力強く翔け上がるため、1日1日を大切に、自分自身と向き合っていく。
(取材・文 土屋雅史)
Source: サッカー日本代表
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