[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[10.6 プレミアリーグEAST第17節 横浜FCユース 2-1 川崎F U-18 横浜FC・LEOCトレーニングセンター]
いわゆるイメージ通りの左サイドバック像に収まることなんて、端から考えてもいない。左サイドからゲームを作って、左サイドを駆け上がって、最後は自らゴールを奪う。自分の中にはっきりとした高い理想を掲げながら、できることの幅を最大限まで広げ続けていく。
「自分はサイドバックであっても、前に上がった時はサイドハーフやトップ下の選手の気分でやっていますし、攻撃の作りやビルドアップの部分も特徴としてやっているので、そこから結果というところにもこだわっていきたいですし、まだまだゴールやアシストを獲っていきたいなと思っています」。
左右両足を自在に操ることのできる、横浜FCユース(神奈川)の攻守を支える次世代型左サイドバック。DF佃颯太(2年=横浜FCジュニアユース出身)はさらに進化した自分に出会うため、どんな時でも常にチャレンジするマインドを貫いている。
「前半は相手に持たれる時間帯が多かったですけど、自分たちにもチャンスはあるなと感じていました」。佃は最初の45分間をそう振り返る。プレミアリーグEAST第17節。川崎フロンターレU-18(神奈川)を迎え撃つホームゲーム。首位固めを狙う横浜FCユースは、やや守備の時間を長く強いられながらも、落ち着いて相手のアタックに対応していく。
前半21分。左サイドバックはいつの間にかペナルティエリアまで走り込んでいた。MF朝見友樹(3年)が左へ振り分け、FW庄司啓太郎(3年)はシンプルに縦へ。走ったMF岩崎亮佑(2年)がクロスを上げると、佃のシュートはヒットこそしなかったものの、予期せぬ“侵入者”を川崎F U-18守備陣は捕まえ切れず、あわやというシーンを創出する。
前半45+2分。左サイドバックは思考を巡らせていた。前半終了間際に掴んだ右CKのチャンス。「前半のラストチャンスだというのもわかっていましたし、自分のキックで決まると思っていて、結構密集だったので、ボールをしっかり見て蹴ることだけを意識して、キーパーを目掛けて蹴ればいいかなと」。
左足で蹴り込んだキックは、密集からマーカーを外したMF管野心人(2年)の頭にドンピシャで届き、先制ゴールを導く。「良いところに落ちて、スピード感も完璧で、一番のキックができたかなと思います。自分は右利きなんですけど、左足にも自信があるので、自分の左足を信じて蹴りました」。まずはアシストで貴重な1点を演出する。
後半18分。左サイドバックにはゴールへの道筋が明確に見えていた。ピッチ中央で相手のドリブル突破をスライディングで止めた流れのまま、そのまま縦へとスプリント。MF柴草哲晟(2年)からパスを引き出すと、視界で捉えた情報から瞬時に“正解”を導き出す。
イメージは大好きなネイマールだ。「あのシーンはもうボールを奪ったところから良い感じで入れたので、1回目のキックフェイントの時に左足で打とうと思ったんですけど、もう1回キックフェイントを入れたら自分の前にいた2人のディフェンダーは完全に剥がせるなとわかっていて、あとはキーパーが出てくるタイミングを見て、右に流し込んだ感じでした」。
「プレミアでは去年も1点も獲れていないので、これが初ゴールです。ゴールやアシストに関わることがサイドバックで一番怖さを出せるポイントだと思うので、『やっと点が獲れたな』という感じでしたし、気持ち良かったです」。佃のプレミア初ゴールとなるゴラッソが飛び出し、横浜FCユースは2点をリードする。
終盤には1点を返され、さらに危ないピンチも迎えたものの、粘り強く守り切って聞いたタイムアップのホイッスル。「もう自分のゴールで勝ったなという感じはしたので、凄く嬉しかったですけど、何よりチームの勝ちが一番大事なので、今は首位ですけど、2位と勝点3を離せたというのは大きなポイントかなと思います」。佃が披露した1ゴール1アシストの活躍が、チームに貴重な白星をもたらした。
8月にU-17日本代表に選出された佃は、ほぼ1年ぶりの年代別代表活動となる『Balcom BMW CUP 広島ユース』に参加。所属チームとは異なる右サイドバックと右サイドハーフで出場機会を与えられ、ハイレベルなチームメイトたちと共闘した。
「ユーティリティにやれるのは自分の特徴なので、そこは代表の人に評価していただいたポジションをやろうと思っていました。右ハーフの時はいつもよりゴールに近いポジションだったので、シュートも結構な数を打ちましたし、ゴールは獲れなかったんですけど、良い収穫が出たかなと思いました」。
「右サイドバックの時は、もともと右利きなのでオープンを取った時はやりやすかったですし、中に入っていく動きも左と景色は違いますけど、入る場所は変わらないなって。そこは左右対称にやるだけだったので、何も問題なかったと思います」。与えられたポジションをこなし切る技術とサッカーIQは、間違いなくこの人の大きな武器だ。
強く意識している選手は、今回も代表で一緒だったインターハイ王者のレフティだという。「山口豪太(昌平高)とは対戦する時はマッチアップして、代表では右で一緒に組んだんですけど、常にライバル視していますね。知り合ったのは中3か高1だったんですけど、そこからは連絡も取っていますし、紅白戦で相手になった時もお互いに『絶対やらせないよ』という気持ちでやりました。あっちもアイツだけには負けないと思っているはずですし、僕も絶対アイツだけには負けたくないです(笑)」。同年代のライバルと切磋琢磨しながら、さらなる成長を誓っている。
首位を快走しているプレミアリーグも残りは5試合。いよいよ優勝を意識せざるを得ないフェーズに入っていく中でも、和田拓三監督を筆頭にチームはとにかく落ち着いている。そのメンタルは佃も同様だ。
「凄く難しい試合がほとんどなんですけど、そこを勝ち切れているというのが自分たちの強みで、守備の粘り強さだったり、前線が決めるところで決めるところだったり、チームとして戦うというところが自分たちの一番の特徴なので、そこは今継続してやれているところかなと思います」。
「でも、これから対戦するのはまだまだ強い相手ばかりなので、そこは気を抜かずにいきたいですし、自分はあと5ゴール5アシストぐらいを目標にしてやっているので、それも狙いつつ、ビルドアップや攻撃に関わるところをやっていくことは変わらないので、チームとしてこのまま継続してやっていけば、本当に優勝を狙えるんじゃないかと思います」。
積み重ねてきた努力の先で、根拠のある自信を纏ってきた、クレバーでアグレッシブな左サイドバック。思い描く理想像は『ハマのネイマール』。佃颯太は攻守に発揮する高水準のクオリティで、悲願のタイトルを狙う横浜FCユースを、サイドから逞しく牽引し続ける。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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