[10.14 プレミアリーグEAST第18節 柏U-18 1-0 横浜FCユース 日立柏総合グランド]
ひとたびその10番にボールが入ると、周囲に流れる空気が一変する。まるで時空を歪めるような、独特なテンポとリズムを刻みながら、自分の信じた次の最適解へとスムーズに移行していく。その醸し出す雰囲気、まさに異才。
「自分は別に身体がそんなに強いわけでもないので、その分周りを見ながらプレーしていますね。相手が来るまでに“1秒”でも時間があったら次の選択肢を持てますし、そこの“1秒”を稼げるようなポジショニングを意識してやっています」。
プレミアリーグEASTで首位を走り続けている横浜FCユース(神奈川)の10番を託された、自分のスタイルを貫きながら“1秒”を作り出すプレーメイカー。MF朝見友樹(3年=横浜FCジュニアユース出身)の存在感は、シーズンを追うごとにどんどん高まっている。
「前半は自分としてもボールを持てたり、回せたりしていて、自分たちの思い通りの流れになっていたと思います」。柏レイソルU-18(千葉)とアウェイで激突したプレミアリーグEAST第18節。首位に立っている横浜FCユースにとっては、このゲームでも勝点3を手繰り寄せ、優勝争いを優位に進めていきたいところ。チームは立ち上がりから攻勢を強めていく。
9分にはMF中台翔太(3年)の積極的なミドルから、こぼれに詰めたMF柴草哲晟(2年)のシュートは相手GKがセーブ。16分にも柴草が高い位置でボールを奪い、FW庄司啓太郎(3年)のパスからMF岩崎亮佑(2年)が打ち切ったシュートはわずかに枠の上へ。20分にもキャプテンのDF小漉康太(3年)が直接狙ったFKはクロスバーをかすめるなど、先制への予感を漂わせる。
21分には朝見も積極的な守備から敵陣でボールを奪い切り、そのまま枠内シュートを放つもGKがキャッチ。さらに24分と45+2分にも庄司が決定機を迎えながら、ゴールには至らず。「自分たちは前半で良い試合ができていても決められないことが多いので、前半はチームとしての課題だと思います」(朝見)。最初の45分間はスコアレスで推移する。
後半は一転して、ホームチームのターンが増える。「後半は相手が後ろに人数をかけてきて、自分たちもちょっと下がってしまったことで間延びが生まれたりして、フォワードだけでプレスに行くシーンもありましたね」(朝見)。3-4-2-1気味にシステム変更した相手を前に、なかなかチャンスを作り切れない。
すると、13分に先制点を献上。以降は朝見も高い位置へとポジションを取りながら、懸命にボールを引き出しに動き回るものの、効果的なアタックには繋がらず。40分に庄司に訪れたチャンスは相手GKのファインセーブに阻まれ、直後にDF佃颯太(2年)が蹴り込んだCKはクロスバーを直撃。どうしても1点が遠い。
試合はそのまま0-1でタイムアップを迎える。「優勝を考えるよりは、まず1試合1試合を戦っていかないといけないので、優勝が遠のいたというよりは、後半に自分たちのプレーが出せなかったことが問題ですし、そこはもっと改善しないといけないかなと思います」と朝見。横浜FCユースは4試合ぶりの黒星を突き付けられる結果となった。
今シーズンの前半戦は途中出場がほとんどで、初スタメンは第10節の市立船橋高校戦。なかなかコンスタントな出場機会は得られなかったが、朝見はその起用法にはある程度納得する部分もあったという。
「前期はどちらかと言うと『蹴るサッカー』だったと思うんですけど、その中で自分が出られないのは納得しているので、出たい気持ちはありましたけど、監督の意向に異論はないというか、仕方ないかなと。いつか繋ぐサッカーができた時に出られればと思っていました」
「前期は苦しい時期もあったんですけど、その時期にしっかり練習して、とことん技術を磨いたことで後期から出られるようになって、今も波はちょっと大きいですけど、去年よりは攻撃面でも守備面でも全然できることも多くなって、特に守備面では中盤でも最低限のプレーはできるようになってきていると思います」。前述の市立船橋戦以降は全試合でスタメンに指名され、中盤でチームにアクセントをもたらしてきた。
2年生だった昨シーズンには、改めて自身のスタイルを見直し、突き詰めるきっかけになるタイミングがあったという。「自分は足が速いわけでもないですし、身体が強いわけでもないので、考えてやらないとすぐ潰されちゃったりするのが2年の最初の方の課題で、それを当時の監督に言われてからは、自分なりに考えてフィジカルの練習もやっています。もっとポジショニングにこだわってプレーしないと、試合にも出れないですし、試合にも勝てないことがわかったので、ポジショニングやファーストタッチを意識してきましたし、ワンタッチの選択肢を持っておくことも考えながらやっています」。はっきりした特徴を最大限に発揮できる状況を自ら作り出すため、常に思考を巡らせ続けている。
参考にしているのは、同じ番号を背負っている国内きってのプレーメイカーだ。「よくプレーを見ているのはフロンターレの大島僚太選手で、あの人のファーストタッチとか認知力は参考にしていますね」。フィジカルやスピードではなく、技術と思考力で勝負するフロンターレの10番に自身を重ねているところもあるようだ。
プレースタイル同様に飄々とした雰囲気も印象的だが、心の中央に据えている“芯”は間違いなく強固。そう簡単に揺るがない。「今年の番号は自分でも『あ、10番なんだ』みたいな感じでしたけど、プレースタイルは小学校ぐらいからずっと変わっていないです。もちろんチームの勝利は求めながら、自分が成長すれば結果的にチームも強くなるので、自分が攻撃でも守備でもより成長できるように、ここからもやっていきたいです」。
良い意味で郷愁を誘うようなクラシック感も合わせ持つ、横浜FCユースのナンバー10。時間と空間を操る唯一無二のプレーメイカー。朝見友樹がピッチの上で貫き続けてきたスタイルには、サッカーの楽しさが存分に詰まっている。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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