[10.19 プレミアリーグWEST第19節 神戸U-18 1-0 岡山U-18 いぶきの森球技場 Cグラウンド]
満ちてきた。相手を飲み込むような圧倒的なパワーが。あふれてきた。自分たちで自分たちを突き動かしていくような圧倒的な熱量が。もう2位で終わるなんて結末はたくさんだ。今度こそ頂点へとたどり着く自信は、ある。必ず快走を続けてきた首位の背中を捉えてやる。
「一番は一体感ですね。結構おとなしい子が多いなと感じている中で、前節もピンチを凌いだシーンでみんなが熱い声を掛けたりとか、彼らの中でちょっとずつ“熱”を感じられるような部分が見られるようになってきていて、そういうところが成長しているなと思いますね」(ヴィッセル神戸U-18・安部雄大監督)
19日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 WEST第19節で、ヴィッセル神戸U-18(兵庫)とファジアーノ岡山U-18(岡山)が激突した一戦は、終盤の後半37分に途中出場のFW渡辺隼斗(2年)が先制点を叩き出した神戸U-18がそのまま1-0で逃げ切って、リーグ戦9連勝を達成。26日に開催されるビッグマッチ、延期分の首位・大津高戦へ最高の状態で臨んでいく。
試合序盤はホームチームの勢いが鋭い。前半4分には左サイドのポケットを取ったMF濱崎健斗(2年)のパスから、MF上野颯太(1年)が狙ったシュートは枠を越えるも好トライ。9分にも左サイドバックのDF寺岡佑真(2年)が中に付け、この日はウイングに入ったMF里見汰福(中学3年)がゴール左へ逸れるシュートまで。さらに10分にもフィードに抜け出したFW吉岡嵐(3年)がGKをかわして放ったシュートはクロスバーの上に外れたものの、「結構良い崩しでゴール前まで迫っていましたね」とトップ昇格が内定したDF山田海斗(3年)も話したように、ホームチームが先制点への意欲を連続アタックに滲ませる。
だが、「前半は攻守でプランしていたこと通りにみんながやってくれました」と梁圭史監督も話した岡山U-18は右からMF向井涼太(1年)、DF千田遼(2年)、DF瓶井常葉(2年)、DF脇本祐希(2年)と下級生で組んだ4バックを中心に粘り強い守備から、FW石井秀幸(3年)が良い位置でボールを受けて時間を作り出したことで、少しずつ攻撃の芽が。22分にはFW作田航輝(2年)、石井と繋いで、南が惜しいシュートを放つと、37分には決定機。左サイドからカットインしながらMF磯本蒼羽(3年)が狙ったミドルはゴール右スミを襲い、ここは神戸U-18GK亀田大河(2年)のファインセーブに阻まれたが、あわやというシーンを創出する。
「ボールは持てていた時間が長かったですけど、相手の前でのプレーというのが結構多くて、なかなかうまくゴール前までは持っていけなかったかなという印象です」(岩本悠庵)「そんなに長い時間相手コートでボールを持てるわけではなかったですけど、その中でも崩しながらクロスを上げるシーンもあったので、相手を上回るチャンスはなかったわけではないと思います」(梁監督)。拮抗した45分間はスコアレスで推移した。
「まずは焦れずにやろうと。ただ、ゴール前での回数は増やしていかないとゴールには繋がらないですし、カウンターも何回か受けていたので、そのリスク管理のところは確認して、あとはメンタル的に落ち着いてやれば大丈夫だからという形で送り出しました」(安部監督)
後半は再び立ち上がりから神戸U-18がアクセルを踏み込む。MF岩本悠庵(3年)の配球と濱崎のドリブルをアクセントに、DF西川亜郁(2年)とFW大西湊太(2年)もスムーズな連携で再三右サイドを突破。14分にはDF原蒼汰(2年)の縦パスを濱崎が左へ流し、途中出場のFW森田皇翔(3年)のクロスから里見が枠へ収めたシュートは岡山U-18GK水田優誠(2年)がビッグセーブで凌いだものの、中学3年生が決定的なフィニッシュで相手ゴールを脅かす。
「相手には特徴がある選手がいるので、そこで押し込まれましたけど、粘り強くはやったと思います」(梁監督)。残留に向けて何とか勝点を積み重ねたい岡山U-18もファイティングポーズを取り続ける。堅陣を築きながら、キャプテンのMF藤田成充(3年)が全体のバランスを取りつつ、右のミキ・ヴィトル、左の磯本を素早く生かす攻撃を徹底。交代カードも切りながら、虎視眈々と“一刺し”のタイミングを狙う。
悩めるストライカーは、その瞬間を待ち続けていた。37分。右サイドで神戸U-18が獲得したCK。キッカーの濱崎がスポットに向かうと、渡辺の覚悟は決まる。「『どんな形でもいいから自分が点を獲ってやる』と思っていました」。ニアに届いた軌道へ9番が飛び込んで頭で触ったボールは、そのまま左スミのゴールネットへ吸い込まれる。
「安部さんには『1本行ってこい』と言われたので、今日こそは決めないとなと思っていました」という渡辺の今季3ゴール目となる後半戦初得点は貴重な、貴重な、先制点。1-0。最終盤に神戸U-18が1点のリードを手繰り寄せる。
すぐさまベンチもゲームクローズに取り掛かる。39分にはケガからの復帰戦で奮闘した岩本と吉岡を下げて、MF藤本陸玖(2年)とMF片山航汰(2年)を投入して中盤に厚みをもたらすと、以降もあらゆるエリアで素早いボールアプローチを貫き、岡山U-18の前向きのアタックを制限。残された時間が減っていくにつれて、集中力はより増していく。
ファイナルスコアは1-0。「今日はなかなか獲れなかったですけど、セットプレーで途中から入った隼斗が点を決めてくれたのは、今のチームの強さというか、入ってきた選手もしっかりやってくれるというところが光った試合だと思います」(山田)。苦しい試合を勝ち切った神戸U-18が勝点3を獲得。7月から続いているリーグ戦の連勝を9まで伸ばしている。
終盤の時間帯に印象的なシーンがあった。左サイドで相手がドリブルしているところへ、後半から交代でピッチへ登場していた森田が果敢なプレスバックを敢行し、力強いスライディングタックルでボールをタッチラインの外へ弾き出すと、ピッチサイドで戦況を見つめていた神戸U-18の選手たちはベンチから飛び出し、大声を上げて、森田のプレーを称賛したのだ。
「僕も森田には『こんなできるやん!』って本当に思いました。ああいうものを見せてくれて、『ああ、やっぱりそういう意識もあって、こういうプレーができるんだな』って」。その一連をこう振り返った安部監督は、今のチームに生まれてきている“熱量”をはっきりと感じているという。
「実は夏のクラブユースの時に、『そういうところってもっと必要なんじゃない?』という話をしたんです。『上手いだけ、淡々とやるだけじゃなくて、「誰がそこを走ってくれるの?」と。それに対して反応しようよ』という課題が出たんですけど、今はもう自然にいろいろなところで熱を発してやってくれている選手が、ベンチも含めているなと。そういった部分はチームとして成長しているんじゃないかなと思いますし、良い循環ができているんじゃないかなと思います」。
来週26日には、後半戦最初の試合として開催予定だった第12節の延期分に当たる、大津とのアウェイゲームが控えている。前半戦は大きく差を付けられていた首位チームと、勝点差7で対峙する優勝争い直接対決のステージを、勝ち続けた彼らは自分たちの力で作り出したのだ。
目の前に迫った重要な試合に向けて、選手たちからもポジティブな想いが口を衝く。「チーム的には絶対に勝点を落とせなくて、来週まで絶対繋げようとは考えていたんですけど、チーム全体も常に大津の試合を考えていたわけではなくて、とりあえず目の前の相手に勝って、勝点3を積み上げようとやってきた中で、そういう舞台を自分たちで作れたなと思っているので、あとはもうやるだけかなと思っています。自分的にはピリピリしている試合ができるのは楽しいです」(岩本)
「まずは後期一発目に大津戦があったんですけど、それが延期になって、中断期間に試合が入るとわかってから、自分たちはそれまでに勝点を積んでいかないとダメだった中で、ずっと連勝できて、それをチームとして達成できたことが非常にポジティブですし、最高の舞台が整ったので、ここで勝ったら正直流れは変わると思っています」(山田)
指揮官も“最高の舞台”への期待を隠さない。「もうお互いにやることは変わらないと思いますし、がっぷり四つでぶつかって、自分たちの良さが出せたらいいですし、良いゲームがお見せできたらなと。もちろん勝ちたいですけど、バチバチの面白いゲームをしたいですし、本当に楽しみですね。もう試合中も黙っていようかなと思います(笑)」。
果たして若きクリムゾンレッドの戦士たちは、敵地で堂々と10連勝を飾り、リーグの覇権の行方をより混沌としたものにできるのか。10月26日。COSMOS=熊本県フットボールセンター。14時にプレミアリーグWESTの大一番は幕を開ける。
(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2024特集
Source: 大学高校サッカー
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