[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.8 プレミアリーグEAST第22節 川崎F U-18 1-0 柏U-18 Ankerフロンタウン生田 Ankerフィールド]
気の置けない仲間たちと築き上げてきた3年間の、そして、6年間の集大成。このエンブレムの付いたユニフォームに袖を通せば、一瞬で気持ちのスイッチは入る。絶対に負けたくない。絶対に勝つ。最高のプレーを出し尽くして、最高の勝利を引き寄せて、最高の笑顔の花を咲かせながら、みんなで歓喜の歌を響かせるんだ。
「欲を言えば優勝争いをして、今日も優勝を決めるゲームをしたかったので、それが叶わなくなってしまったのは唯一の心残りですけど、このメンバーでできるラストの1試合だったので、その想いを単純にぶつけるだけでした」。
川崎フロンターレU-18(神奈川)の右サイドを走り続けてきたDF柴田翔太郎(3年=川崎フロンターレU-15出身)は、並々ならぬ決意でこの日の90分間に臨んでいた。プレミアリーグEAST第22節。長いシーズンの最終戦であり、このアカデミーで戦う最後の1試合。加えて対戦相手の柏レイソルU-18(千葉)はリーグ優勝が懸かっている。いくつも揃った要素。燃えないはずがない。
「間違いなく相手の方がプレッシャーはあったと思いますし、自分たちは『当たって砕けろ』だったので気楽というか、ホームで味方もいっぱい付いてくれていたと思うので、相手が首位でも自分たちは勝てると思っていましたし、とにかく思い切ってやるだけでした」。柴田もそう話したチームは、立ち上がりから丁寧にゲームリズムを手繰り寄せていく。
この一戦を前に、個人的に楽しみにしていたことがあったという。「レイソルの11番の吉原楓人くんは、自分がプレミアで今年1年を戦う中で一番楽しみにしていたマッチアップで、『絶対やられないぞ』と思っていました」。来季からギラヴァンツ北九州へ加入することが決まっている柏U-18のFW吉原楓人は、間違いなくプレミア屈指の左ウイング。前半戦の対戦時には完璧に抑え込んだイメージがあっただけに、7か月ぶりの“再会”に自ずと気合も入る。
持ったら仕掛ける吉原に、柴田は全力で食らい付く。「前半戦より体付きも一回り大きくなった感じもありましたし、よりゴールに向かってくる怖い選手だなと思ったので、自分のところでは絶対にやられないと思っていましたけど、何回か行かれてしまったので、そこは自分の課題としつつ、最低限の仕事はできたのかなと思っています」。こういうライバルたちと切磋琢磨しながら、この1年も着実に成長を続けてきた。
試合の均衡を破ったのは、磨いてきた“左足”だった。前半37分。左からMF児玉昌太郎(3年)が入れたグラウンダークロスをファーで拾った柴田は、冷静にマーカーの対応を見極めていた。
「あれは自分の得意な形で、左右両足のキックの質は自分の武器でもありますし、かなり相手が縦を切ってくれたので、左足に切り替えて自信を持って蹴れました。自分自身はどっちかを切られても、常に『オイシイな』と思っていますね」。完璧に送り届けたクロスを、FW恩田裕太郎(2年)は頭で右スミのゴールネットへ流し込む。1-0。柴田のアシストで川崎F U-18は1点のリードを奪う。
この日の“ピッチ外”には意外なサプライズが待っていた。学校の同級生たちが内緒で試合観戦に訪れていたのだ。「コーナーを蹴る時にメッチャ自分の名前を呼ばれて、メッチャ蹴りにくかったです(笑)。でも、嬉しいですね。たぶんこの試合を調べてきてくれたと思いますし、そういう友だちやいつも支えてくれている人に自分のプレーを見せたいと思っていたので、嬉しかったです。だいぶサプライズでした(笑)」。このあたりにも周囲に慕われるパーソナリティが垣間見える。
率直に言って、決して思い描いていたようなアカデミーラストイヤーではなかった。特にあと一歩で日本一に届かなかった夏のクラブユース選手権以降は、チームとしても、個人としてもなかなか結果が伴わず、難しい時期を強いられたが、それも良い経験として捉えられるだけのメンタリティが、柴田には備わっていた。
「夏に獲れなかったものをこの冬に絶対獲ってやろうと意気込んでいた中で、後半戦が始まってちょっとチームが失速してしまって、個人としてもアシストの数も止まったりして、そこは苦しい時期だったんですけど、あそこがあったから、今年はより成長できたかなと思っていて、ラスト3節で出せた自分たちの力強さに繋がったので、この経験は間違いなく自分の今後に生きると思います」。
少しずつ、少しずつ、最後の瞬間が近づいてくる。苦しい最終盤の時間帯も、懸命に右サイドを上下動し続ける。タイムアップの笛が鳴ると、崩れ落ちた児玉に駆け寄り、勝利の歓喜を分かち合う。1-0。力強くもぎ取ったホームでの白星と、チーム全員で達成した3連勝。最高の笑顔の花が咲き誇る中、柴田に加えて、一緒に副キャプテンを務めてきたMF加治佐海(3年)、キャプテンのDF土屋櫂大(3年)の3人の熱唱から始まった『勝利のバラバラ』が、フロンタウンに生き生きと響き渡った。
高校卒業後は大学への進学が決まっている。ずっとトップチームへの昇格を目指してきたのだ。もちろん悔しい想いを抱えていないはずがない。でも、もう切り替えた。ここからは、より自分の信念の強さが問われる4年間が待っているが、そんな日々にも100パーセントでぶつかっていく。
「7月に『トップに昇格することはできない』と言われた時に、凄く悔しかったですし、正直大学での4年を待たなくても、2年や3年で他のクラブでもいいから、『早くプロにならなきゃ』という焦りもありました」。
「でも、『トップ昇格へ向けてのアピール』という想いがなくなって、純粋にこのクラブでやるサッカーを楽しんでいくうちに、『やっぱりこのクラブが大好きだな』と思いましたし、またこのクラブのエンブレムを背負って、等々力でサイドを駆け上がりたいなと。今日の試合後には『必ず4年後には帰ってきます』という決意表明もしてきたので、難しい道にはなると思いますけど、やっぱりこのクラブに帰ってきたいという想いが強いです」。
当たり前だが、未来のことなんて誰にもわからない。でも、それならば、今を全力で駆け抜けるしかない。川崎F U-18をエネルギッシュに、パワフルに彩ってきた魂の右サイドバック。迷ったら、選択肢は前へ、前へ。これからもたゆまぬ努力を続ける限り、柴田翔太郎が歩んでいくサッカーキャリアには、まだ見たことのないような景色が、きっと無限に広がっている。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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