「最後にようやく『らしさ』を見せてくれたね。やっぱり持っているんだよ、彼は」。プリンスリーグ関西1部最終節(11月30日)、京都サンガU-18に1-3で敗れた履正社高だったが、試合後に平野直樹監督はこう口にした。その視線の先にはナンバー10を背負うMF木村有磨(3年)の姿があった。
来季、レノファ山口FC入りが内定している木村は、抜群のスピードとテクニックを誇り、切れ味鋭いドリブルとシュートセンスを駆使するアタッカー。今年3月にU-17日本高校選抜としてJヴィレッジカップで活躍すると、8月のBalcom BMWカップにU-17日本代表メンバーとして参加。そこで山口のスカウトの目に留まり、2度の練習参加の末に正式オファーをもらうなど、一気に伸びてきた逸材だ。
だが、全国にその名を知られる存在となったことで、彼に対するマークは厳しくなり、特に得意とする縦突破はマッチアップする相手プラス、カバーが必ず入り、「なかなか縦に行かせてもらえない状態が続いた」と試合展開によっては流れから消えてしまうこともあった。さらに1、2年生の主体のチームとあって、カバーの動きに入ったり、ボールを受けに下がったりとしたことで持ち味が思うように発揮できないジレンマもあった。
プリンス関西でも途中で交代を告げられるなど、もがく中でリーグ戦では9月15日の第12節・京都共栄高戦以降はゴールから遠ざかった。そして、選手権予選では決勝で阪南大高に0-5で敗退。木村も後半途中で交代という幕切れとなった。
「このまま終わっていいのか」と自問自答が続く中で、彼はもがきにもがいた。同時に平野監督が今後プロの世界で羽ばたいていくために与えた試練だということも理解していた。
「最初はJユース志望でしたが、僕が中学2年生の時はちょうどコロナ禍もあって練習参加ができなかった。そもそもJユース側から誘いがない中で、平野監督が熱心に僕を誘ってくれた。実際に練習参加をしてレベルが高く、ここなら成長できると思ったので、中3の4月の段階で履正社に行くことを決めました。そこからいろんなことを教えてもらいましたし、履正社に来たおかげで成長できたし、プロにもなれたと思います」
今年に入って大事にしていた言葉がある。それは「(ワイドに)張ってボールを受けてからの仕掛けがゆっくりすぎる」という平野監督の指摘だった。
「その通りだと思いました。相手と駆け引きをして抜くのが得意なのですが、対策をされればされるほど、受けてからの仕掛けが遅いと相手の守備陣が戻ってきて、仕掛ける時には(陣形を)整えられてしまうし、より縦も切られる。間髪を入れずに仕掛けること、リズムを変える練習も意識してやってきた」
思うように成果が出なかったが、それでも指揮官の言葉を信じてトライし続けた。そして最終戦、リーグ7試合ぶりのゴールはまさに練習し続けてきた形で生まれた。
後半23分、GKからのロングキックが届くと、木村はボールを受けて即座に仕掛ける。1人カウンターとなり、慌てて京都U-18DFが戻った瞬間を見逃さずに、カットインを仕掛けると右足インフロントで擦り上げるようにシュートを放つ。これが鮮やかな軌道を描いてゴール右隅に『ここしかない』コースで飛び込んだ。
「正直、このままでは終われませんでした。今季、ずっと期待をされてきた中で結果を出せなかった時期があって、本当に苦しかった。でも、最後にこの形でゴールをできたことはプラスに捉えています」
チームの勝利にこそ繋がらなかったが、最終戦でエースが見せた意地の一撃は、これまでの努力が裏切らなかったことの証明となるゴールだった。だからこそ、平野監督は彼に冒頭の言葉を送ったのだった。
もちろんこれで満足をしている暇はない。来季からは甘えが一切許されないプロの世界に飛び込む。
「僕は能力を記した五角形で言うと、スピード、ドリブルが尖っていて、他が標準以下のいびつな形なので、それではプロの世界では通用しないし、ましてやその上は目指せない。どれも標準以上で、プラス特徴が2つくらい突き抜ける形にして、全体の五角形を大きくしていかないといけないので、課題により真剣に向き合っていかないといけないと思っています」
足掻いた時間は土台となる。それはこれからも変わらない。木村は恩師の思いと共に次なるステージに走り出した。
(取材・文 安藤隆人)
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Source: 大学高校サッカー
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