[1.27 練習試合 U-17日本高校選抜候補 2-4 東京国際大]
小柄な身体に搭載した類まれなサッカーセンスを解き放ち、まるでピッチを泳ぎ回るかのように、スイスイとボールを運んでいく姿は実に爽快だ。地元の神戸から遠く離れる長岡の地に飛び込んだ16歳が持ち合わせている才覚には、どう考えても期待せざるを得ない。
「年代別代表にはまだ入れていないので、そこは意識するところもあるんですけど、まずはチームの中で力をつけて頑張らないといけないですし、プレミアという舞台を3年生が残してくれて、今年もそこでやれるので、自信を持ってプレーできたらなと思います」。
入学早々から黄緑のタレント軍団で居場所を確立してしまった、左利きのワンダーボーイ。MF和食陽向(帝京長岡高/1年=FCフレスカ神戸出身)は年上の多いU-17日本高校サッカー選抜候補の中に入っても、確実に大きな存在感を打ち出している。
「今までは選ばれても県選抜ぐらいで、こういう選抜は初めてで、だいぶ緊張していたんですけど、少しずつ慣れてはきました」。合宿活動の感想を問われ、返した言葉も初々しい。25日から4日間にわたって実施されたU-17日本高校選抜の候補合宿。和食は少しドキドキしながら、静岡のグラウンドにやってきた。
とはいえ、話を聞いていると比較的スムーズにチームの輪にも溶け込んだようだ。「部屋は前橋育英のタケル(平林尊琉)と流経のコウキ(安藤晃希)と、矢板中央のタクミ(平野巧)が一緒で、(小泉)ハーディーも結構部屋に来て話したりしています(笑)」。自身と近いポジションの選手とコミュニケーションを取りながら、少しずつ自分のストロングをピッチの上でも打ち出していく。
2日目に行われた駒澤大(関東大学2部L)とのトレーニングマッチ(30分×4本)では、強烈な一撃で首脳陣へのアピールにも成功している。同部屋のMF安藤晃希(流通経済大柏高/2年)やMF平野巧(矢板中央高/2年)と一緒に3本目へ登場すると、FW伊藤湊太(京都橘高/2年)の少し下に入った和食は、積極的にボールを引き出しながら、チームのアタックにアクセントをもたらしていく。
眩い輝きを放ったのは終了間際の27分だ。中央やや左でパスを受けて前を向くと、躊躇なく仕掛けたドリブルでマーカーを剥がし、そのまま左足一閃。ボールは右スミのゴールネットへ鮮やかに突き刺さる。
「あんな1対1で抜いて決めることはあまりないですけど、ボールを受けた時には『ここは仕掛けよう』と思って、そのまま行ったら決められたので良かったです。帝京長岡で1年間やってきたことで、ああいうメンタルの部分は成長したのかなと思います」。
最終日に組まれた日本高校選抜とのトレーニングマッチでは、1本目からFW大石脩斗(鹿児島城西高/2年)と縦関係を組む格好で登場。そこでは活躍を収めるまでには至らなかったが、今後も続いていく選抜活動に向けて、好感触を得たことは間違いないだろう。
中学時代は兵庫のFCフレスカ神戸でプレーしていた和食は、サッカースタイルへの憧れと人間性の向上を志して帝京長岡へと進学すると、プレミアリーグWESTでもいきなり開幕戦でベンチ入りを果たし、第2節の大津高(熊本)戦でリーグデビュー。続く第3節の米子北高(兵庫)戦からはスタメンを確立した上に、第8節の静岡学園高(静岡)戦で初ゴールを記録するなど、着々とステップを踏みながら成長を続けてきた。
「結構最初の方から試合に出させてもらったんですけど、周りは3年生がたくさんいたので助けられた部分もメッチャありました。みんなが『自由にやれ』と言ってくれて、ボールも持たせてくれますし、ボールを持ってもパスコースがあるようなサポートもしてくれて、メッチャやりやすかったです。その中でだんだん『やれるかな』という感じにはなっていきましたね」。
インターハイでも全国4強を経験し、高校1年目を順調に過ごしていた中で、悔しい現実を味わったのは高校選手権予選。準決勝の新潟明訓高戦はスコアレスで突入した後半アディショナルタイムに失点を喫し、0-1でまさかの敗退。試合終了のホイッスルをピッチで聞いた和食も、その場に呆然と立ち尽くした。
「やっぱり『県予選は難しいな』と感じましたし、『それでもそこで勝っていかないといけないんだな』と思いましたね。選手権はテレビで見ていました。レベルも高くて、強度も高くて、自分もそこでやってみたかったなという想いはあるので、来年は行きたいと思います」。先輩たちが涙を流す姿は、しっかりと脳裏に刻み込んだ。その想いを背負って、また新しい1年間へと向かっていく。
中学時代のチームメイトの活躍には、小さくない刺激を受けているという。FCフレスカ神戸で切磋琢磨してきたDF元砂晏翔仁ウデンバ(1年)は鹿島アントラーズユースへと進み、プレミアでもゴールを記録するなど、タレントが揃うチームの中で成長中。年代別代表にも既に選ばれているだけに、意識せざるを得ない存在だ。
「いろいろ話を聞いたり、ネットとかで情報を見たりして、凄いなと思いますし、自分もああいうところまで行けるように頑張りたいですね」。とはいえ、普段はシンプルに仲の良い友だち同士。「この間帰省した時にも遊ぼうと思っていたんですけど、タイミングが合わなくて会えなかったので、来年はできれば会いたいです(笑)。メッチャ仲は良いですね」と笑顔で話す表情には、まだあどけない高校生らしさが滲む。
昨年で積み重ねた経験値を考えれば、期待されるのはチームを牽引するだけの活躍。ただ、そんなことは本人が一番よくわかっている。今シーズンのプレミアでの目標を尋ねると、力強い答えが返ってきた。
「去年はアシストができた部分はあったんですけど、やっぱりゴールというところで悔しい想いもあったので、もっとゴールに直結するプレーをしたいですし、得点が獲れる選手になりたいなと思います。去年のプレミアでは2点だったので、今季は10点獲れたらいいなと思います」。
いつだって自分の立つ場所が、躍動すべきピッチの中心地。高い技術を備える選手が顔を並べる帝京長岡の中でも、明確な違いを生み出せるウルトラレフティ。ここからもたゆまぬ努力を続ける限り、和食陽向が2025年のプレミアリーグを彩る主役になっても、そこには何の不思議もない。


(取材・文 土屋雅史)
●第103回全国高校サッカー選手権特集
Source: 大学高校サッカー
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