[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.20 プレミアリーグEAST第3節 前橋育英高 1-0 青森山田高 前橋育英高校高崎グラウンド]
昨年の1年間で積み上げたものは、間違いなく大きな自信になっている。いよいよ迎えたのは最高学年として挑む高校ラストイヤー。もうチームを牽引する立場だということは、十分に理解している。その上で求めるのは明確な結果。今年は自分のゴールで、アシストで、勝利を手繰り寄せてみせる。
「個人的にも1試合の中でゴールかアシストのどっちかは残したいなというのはあって、今年はもっと攻撃的に行きたいというイメージの中で、その得点意欲が今日のあの1点にも少しは繋がっていたのかなと思います」。
高校選手権王者の前橋育英高(群馬)で昨シーズンから定位置を掴んだ、攻守をハイレベルにこなせる右サイドバック。DF瀧口眞大(3年=横河武蔵野FC U-15出身)が叩き出した決勝ゴールが、タイガー軍団に大きな白星と最高の笑顔を力強くもたらした。
開幕戦はホームで柏レイソルU-18相手に2-0と快勝。上々の90分間を経て、勢いを持って挑んだ第2節だったが、アウェイに乗り込んだ鹿島アントラーズユース戦は2-3で競り負けてしまう。
「アントラーズ戦はメンタル的にあまり良くなかったので、マツさん(松下裕樹コーチ)が気持ちを入れ直してくれて、今日はみんな『絶対やるぞ』という感じで入れたと思います」。3試合目の相手は同じ高体連の雄として知られる青森山田高(青森)。瀧口も必勝を誓って、ホームゲームのピッチへ飛び出していく。
前半の45分間はなかなかチームのギアが上がらない。だからこそ、大事なのは守備の安定。「相手の長いボールとロングスローは分析していたので、そこはディフェンスラインでアラートにやれていたのかなと思いました」。右から瀧口、DF久保遥夢(3年)、DF市川劉星(3年)、DF牧野奨(3年)と並んだ3年生4バックは、エリア内へと放り込まれるボールにも冷静に対応。危険なシーンを作らせない。
0-0で迎えた後半17分。タイガー軍団の右サイドバックは勝負どころを嗅ぎ分ける。「カウンターで白井(誠也)が持った時に、最初は自分が受けるようなイメージで上がっていて、そのままボールは左に行ったんですけど、『もう上がっちゃおう』みたいなイメージでしたね」。パスの展開とは逆側の右サイドで一気に加速。ペナルティエリア内へと走り込んでいく。
MF平林尊琉(3年)のシュートは相手GKに阻まれたものの、ルーズボールが目の前にこぼれてくる。「『ゴール入れちゃおう』みたいな感じで、思い切り右足をぶん回して打ったんですけど、空振りしちゃって(笑)」。だが、まだ運は残っていた。蹴り損なったボールは目の前に転がっていたのだ。
「最初は中に入れるか考えたんですけど、でも、『ゴールを狙ってみようかな』と」。角度のない位置から今度は左足のシュートを選択。意表を突かれたGKも反応しきれず、ボールはニアサイドをすり抜けて、ゴールネットへと吸い込まれる。
本人は「ニアサイドを狙ったかはちょっと怪しいです。とりあえずゴールに向かって蹴りました」と話したものの、U-17日本高校選抜のチームメイトでもあり、この試合もPKストップを含めて驚異的なファインセーブを連発していた青森山田の守護神・松田駿の牙城を打ち破った一撃は、そのまま決勝点に。今季は自身の結果にこだわっているという右サイドバックが、連敗ストップと貴重な勝ち点3獲得に自らのゴールできっちり貢献してみせた。


もともと高校入学時のポジションはボランチ。1年生の終盤に右サイドバックへコンバートされると、攻守に動ける豊富な運動量と機を見たオーバーラップを武器に、スタメンを獲得。プレミアでも20試合に出場するなど、高いレベルで経験を積み上げ、高校選手権でも全6試合にフル出場を果たし、日本一の栄冠をピッチで味わった。
その活躍が認められ、この冬には前述したU-17日本高校選抜の活動に参加。同年代の才能とともに切磋琢磨したことで、より自分の課題が明確になったという。「守備の1対1はある程度やれていたんですけど、個人で打開する部分ももっと必要ですし、自分の武器のクロスも、もっと高いレベルで1本1本完璧を求めないといけないと思いました。みんな個人のレベルが高いので、個人の力が足りないなと感じましたね」。1本のパスを、1本のクロスを、1本のシュートを、丁寧に、正確に。より精度を向上すべく、今まで以上にトレーニングへ全力で取り組んでいる。
数回の活動を経て、サッカー仲間の輪も大きく広がった。「松田駿と神村学園の中野陽斗は、部屋が一緒で結構喋ったりして仲良くなりましたし、村上慶と村上葵(ともに大津高)とか、大石脩斗(鹿児島城西高)、安藤晃希(流通経済大柏)とか、みんなといろいろ喋れて、いろいろなことが吸収できたので、今年1年を通して自分の中で去年より変われた部分を出していきたいと思います」。
中でも意識するのは、選手権ファイナルでもマッチアップした流経大柏のスピードスターだ。「安藤晃希は選手権の決勝で1対1をした時に、メチャメチャ速かったので、対峙するのは楽しみですね。プレミアには他にも凄い左のハーフがたくさんいて、昌平には長璃喜選手もいるので、しっかりと去年までの経験を生かして、逃げずに良い間合いを探しつつ、そういう選手たちを止めたいなと思います」。
並み居る強力アタッカーを抑えてこそ、自分の評価も高まるはず。各種大会で“元チームメイト”を筆頭に、ハイレベルなライバルたちと対戦できることも、小さくないモチベーションになっているようだ。
もちろん狙うのは冬の全国連覇。ただ、一度その座に立ったからこそ、その難しさは十分に理解している。それも含めてこの1年で為すべきことも、実に明確だ。
「自分たちの代は去年から試合に絡んでいた人数も多いですけど、アントラーズ戦に負けた後に監督に強く言われたのは、『自分たちが優勝したんじゃなくて、先輩たちが優勝してくれたんだぞ』と。やっぱり自分たちは天狗にならずに、今年1年の1試合1試合も、常にチャレンジャー精神を持って戦わないといけないなと感じています」。
目指すのは自身の結果でチームを勝たせるサイドバック。上州のタイガー軍団を攻守に支える背番号3。謙虚に、真摯に、堂々と。瀧口眞大はその先にさらなる成長が待っていると信じて、今日も、明日も、明後日も、颯爽と右サイドを駆け上がる。


(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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