ストライカーという職業に必要なものを実感するルーキーイヤーの苦闘と充実。琉球FWワッド・モハメッド・サディキがJ選抜での45分間で感じた想い

力強いドリブルを見せるFWワッド・モハメッド・サディキ(琉球)
[5.13 ポストユースマッチ U-22 Jリーグ選抜 2-2(PK4-5) 関西学生選抜 J-GREEN堺]

 自分に求められているものは、ハッキリと自覚している。ストライカーというポジションが職業になったからには、もうやるしかない。いくつもこなすべきタスクはあるけれど、いつだって狙うのはゴール一択。それをひたすら積み重ねた先に、思い描いたような未来が広がっていくはずだ。

「スタッフだけではなくて、チームメイトに信頼される選手にならないといけないので、攻撃だけではなくて、守備もしっかりやらないといけないなと感じています。ただ、やっぱりフォワードというポジションは、点を獲らないとどのチームでも使われないと思うので、まずは点を獲るというところですよね」。

 U-22 Jリーグ選抜の最前線で奮闘した、レイソル育ちの大型ストライカー。FWワッド・モハメッド・サディキ(琉球)は2日間で手にした貴重な経験を糧に、再び沖縄の地でシビアな競争を繰り広げる日常に身を投じていく。

「久しぶりに同世代とやる中で、みんなプロの世界でなかなか試合に出られていないこともあって、全員に勝ちたいという想いがあったので、練習は昨日の1回だけでしたけど、意識高くやれていたと思います」。

 ポストユース世代の育成・強化を目的に始まった日本サッカー協会(JFA)とJリーグによる新施策『ポストユースマッチ』の第2回目。柏レイソルU-18からトップチームへの昇格を果たし、ルーキーイヤーは育成型期限付き移籍先のFC琉球OKINAWAで過ごすことになったサディキは、U-22 Jリーグ選抜のメンバーに選出され、J-GREEN堺で行われる2日間の活動に参加することになった。

 初日のトレーニングを経て、2日目に組まれたのは関西学生選抜との90分ゲーム。ベンチスタートとなったサディキは、後半開始からピッチへと送り込まれる。任されたポジションは1トップ。少し下がり目の位置に構えるFW杉浦駿吾(名古屋)との連携も意識しながら、最前線にそびえ立つ。

 前半を1点のリードで折り返したチームは、後半2分と20分に失点を喫し、逆転される展開に。サディキも「立ち上がりは久しぶりの試合というところもあって、なかなかゲームに入れなかったですね」と振り返ったように、ややボールが足に付かず、25分にはエリア内で相手GKのパスをカットしたものの、シュートを打つ前にスリップしてしまい、絶好のチャンスも生かし切れない。

 ただ、時間を追うごとにフィジカルの強さを生かしたキープが冴え出し、少しずつボールも集まり出す。そんな好リズムの中で37分にはMF嶋本悠大(清水)の縦パスをワンタッチで右へ。このボールをDF松本遥翔(鹿島)が左足でゴールネットへグサリ。まずは同点弾のアシストという形で、得点に絡んでみせる。

 この試合最大の見せ場は、終了間際の44分に訪れる。右から松本が差し込んだパスを、MF名和田我空(G大阪)はワンタッチでフリック。エリア右で前を向いたサディキは思い切り良く右足を振り抜くも、GKのファインセーブに弾かれたボールはクロスバーの上へ逸れていく。

「あのシュートはニアの上を狙って蹴ったんですけど、思ったより左に行ってしまいました。決めたかったですね」。際どいシーンを創出するも、決勝点を叩き出すまでには至らない。PK戦では3人目のキッカーとして登場し、GKの逆を突いてきっちり成功させたものの、5人目が止められたU-22 Jリーグ選抜は勝ち切ることができず、サディキも「今日の試合で勝てなかったというところが、まだ僕らがJリーグでも通用しないところに繋がっているのかなと思っています」と悔しげな表情を浮かべていた。

 
 プロ1年目となる2025年シーズン。「プレシーズンは自分が一番点を決めていたんです」というサディキは、開幕戦の群馬戦でスタメンに抜擢されると、後半43分までプレー。続く第2節のFC大阪戦でも先発起用されるなど、滑り出しは上々だった。

 だが、その2試合でチームは勝利を手繰り寄せられず、3節以降はベンチスタートに。「点が獲れないというところがチームの課題としてあったので、スタメンだった自分が点を獲らないといけなかったんですけど、なかなか獲れなくて、試合に出られない期間が長くなってきましたね」。チームもなかなか結果が出ない中で、18歳はメンバー入りもままならない日々を強いられる。

 U-15時代から6年間を過ごした柏を飛び出して、研鑽を積む日々。「自分はレイソルでずっとやっていた分、2トップが得意なんですけど、琉球は1トップなので、1人でやらないといけない部分もありますし、やっぱりどのチームに行ってもやれる力がないといけないので、1トップでもよりやれることに磨きを掛けないといけないと思っています」。

「J3という舞台も、もちろん強度は高いですし、それこそJ1で経験を積んできている選手もいますし、ユースとは全然違いますね。自分ももっともっと成長しないといけないことは、今の状況を捉えてもわかっています」。

 5月6日。J3第12節の鹿児島戦では、7試合ぶりにリーグ戦での出場機会を得たものの、ゴールを奪うことはできず、チームも1-2と敗戦。首脳陣への猛アピールとはいかなかったが、巡ってきたチャンスを生かすことでしか次の出番が回ってこないことは、自身が一番よくわかっている。

 実はサディキが楽しみにしていた試合が、間近に迫っている。今週末の土曜にホームで対峙する北九州には、柏U-18時代の同期に当たる吉原楓人が在籍。吉原もここまでのリーグ戦ではわずか1試合の出場にとどまっているが、前節は久々にベンチ入りを果たしており、ピッチ上で再会する可能性もないとは言い切れない。

「楓人も試合に出られていないみたいですけど、もちろんいつかは対戦したいですし、もし次の試合ですぐに対戦できるのなら、自分が圧倒して勝たないといけないなと思っています」。そのためには、とにかく目の前の練習を、100パーセントでやり切るのみだ。

 ルーキーイヤーからブレイクを果たすだけのポテンシャルは、間違いなくその立派な体躯に秘められている。あとは、それを存分に発揮するタイミングを逃すことなく、しなやかに解き放つだけ。ワッド・モハメッド・サディキは煌めく瞬間を手繰り寄せるべく、静かに牙を研いでいる。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 国内リーグ

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