今季初のトーナメントも指揮官が「今年一番の試合」と認める冷静な試合運び。帝京は多摩大目黒を終盤の3ゴールで突き放して夏の全国まであと1勝!

FW宮本周征が先制点を挙げた帝京高は終盤の3ゴールできっちり勝ち切って全国出場に王手!
[6.7 インターハイ東京都予選準々決勝 帝京高 3-0 多摩大目黒高 駒沢補助競技場]

 難しい試合になることも、うまくいかない時間があることも、そんなことは想定済み。必ずどこかで自分たちの流れは来る。大事なのはそれを見逃さない感覚。たとえなかなかペースを掴めなくても、必ずその時が来ると信じて、焦らずに、丁寧に、タイミングを待ち続ける。

「プリンスリーグでも90分全部できなくても、やれている時間が局所であったので、最初からじゃなくて尻上がりに良くなるのが自分たちの勝ち方の1つならば、うまくいかなくても、前半からそんなに攻め急がずに、『それが自分たちのリズムだ』みたいな感じで進んでいったような感じじゃないでしょうか」(帝京高・藤倉寛監督)

 ジリジリするような展開にも、終盤の3ゴールで貫禄の勝利!令和7年度全国高校総体(インターハイ)東京都予選準々決勝が7日、駒沢補助競技場で開催され、35度目の全国を狙う帝京高と初の東京制覇を目指す多摩大目黒高が対峙した一戦は、後半28分、34分、39分に続けて得点を挙げた帝京が3-0で勝利を収めた。14日の準決勝では早稲田実高と対戦する。

 
 序盤からアクセルを踏み込んだのは多摩大目黒。前半6分にはDF三浦大夢(2年)の左ロングスローにMF長井春磨(3年)が競り勝ち、抜け出しかけたFW今泉颯太(3年)はシュートまで持ち込めなかったものの、惜しいシーンを。以降もシンプルにFWヘンリー公太(3年)、長井、今泉の前線3枚を使いながら、前への圧力を強めていく。

 19分も多摩大目黒。三浦のロングスローから、MF中野颯介(3年)が放ったシュートはゴール右へ。31分も多摩大目黒。ここも三浦がロングスローを投げ入れ、DF川畠暖世(3年)が競り勝ったボールを、ヘンリーは枠の左へ外れるシュートまで。際どい2つのチャンスに、少しずつ漂う得点の香り。

多摩大目黒の注目ストライカー、FWヘンリー公太が果敢にゴールを狙う

 なかなか攻撃の形を作り切れない帝京の中でも、やはり9番は常に脅威。33分。DF中川慈司(3年)が右へ送った浮き球パスから、FW宮本周征(3年)はわずかにゴール左へ逸れるボレーにトライ。40+1分にも右サイドからMF杉岡侑樹(3年)が折り返したパスを、宮本が叩いたボールは多摩大目黒GK平野豪太(2年)がわずかにさわり、クロスバーにヒットしたものの、秀でたシュートセンスを披露する。

 前半終了間際の40+3分には、多摩大目黒にビッグチャンス。相手CKをクリアしたボールが相手陣内で弾むと、飛び出したGKとディフェンダーの連係ミスを突いた中野がかっさらい、そのまま無人のゴールへシュート。だが、軌道は枠の左へ外れてしまう。最初の40分間はスコアレスで推移した。

 思ったような攻勢の時間を作れなかった前半の中でも、帝京を率いる藤倉寛監督はあるシーンに手応えを感じていたという。「前半の飲水後にこの試合で初めて真ん中でボランチがパンパンと触れて、あそこで『これで今日は行けるんだ』というスイッチが、彼らに入った感じがありました」。

 後半は一転して、カナリア軍団が猛攻を仕掛ける。2分。宮本のパスからFW久保恵音(3年)のドリブルシュートは枠の左へ。7分。左から久保が通したグラウンダークロスに、MF永野太一(3年)が放ったシュートはゴール右へ。11分。右サイドを駆け上がったDF小林爽人(3年)のクロスに、宮本が合わせたヘディングは左ポストを直撃。帝京が攻め続ける。

 15分。杉岡が左サイドを運んでクロスを上げ切り、永野が叩いたヘディングはクロスバーの上へ。18分。左サイドで仕掛けた久保がシュートを打ち切るも、寄せた三浦が懸命にブロック。直後にも久保の左CKから、DF高橋遼(3年)が高い打点で競り勝つも、軌道は枠の上へ。多摩大目黒は最終ラインに並んだ中野、三浦、川畠、DF高橋正陽(3年)、DF関優(3年)も集中力をキープし、ドイスボランチのMF木伏啓彰(3年)、MF武山悠哉(3年)も守備に軸足を置きつつ、最後の局面では全員で身体を張り続ける。

 輝いたのは「自分が決めて勝たないと責任は果たせないと思っていた」という背番号9。28分。小林のパスを受けた宮本は左足で枠内シュート。平野もファインセーブで弾くが、自らこぼれに詰めた宮本のシュートは、再び飛び付いた平野の身体に当たりながら、ゆっくりとゴールへ転がり込む。「嬉しかったですけど、安心した気持ちの方が強かったです」(宮本)。帝京がようやく1点のリードを奪う。

 続いたのは「シュートが少なかったので、自分が出たら一発打ちたいなとはベンチでずっと思っていた」という途中出場の背番号18。34分。右に開いたMF加賀屋翼(3年)が短く流すと、前を向いたMF高橋佳汰(3年)はゴールまで30メートル近い距離から、躊躇なく左足一閃。大きくブレた無回転の軌道は、鋭くゴールネットへ突き刺さる。「いい場面が来たので、左足で振るだけでした」と笑った高橋はベンチへ向かって一直線に走り出し、チームメイトと歓喜を分かち合う。2-0。点差が開く。

 とどめを刺したのは、「もっと決めなきゃと思っていた」という背番号9、再び。39分。縦に送られたフィードを、2人の相手DFが処理にもたついた隙を突き、かっさらった宮本が独走。GKとの1対1も冷静に制し、ボールをゴールネットへ送り届ける。「2人の間に落ちた時に、『これは来るぞ』と思ったので、もうファーストタッチで相手の前に入りました。落ち着いて決められて良かったです」と口にした宮本は、黄色の応援団の中に飛び込んでいく。

 黄色のストライカーが叩き出したこの1点で、勝負あり。ファイナルスコアは3-0。「今年一番の試合だったんじゃないですか」と藤倉監督も認める冷静なゲーム運びで勝ち切った帝京が、2年連続となる全国切符まであと1勝に迫る結果となった。

 試合全体を考えると、帝京にとってとにかく大きかったのは2点目。「1点差だったらいつ追い付かれるかもわからないですし、相手のフォワードにも良い選手がいっぱいいたので、『ここでもう1点取っておかないとピンチは来るな』と思っていた中で、あの1点はチームに良い影響を与えられたかなと思っています」という高橋のゴラッソが、チームにさらなる落ち着きをもたらしたのは間違いない。

 このスーパーなミドルには伏線があった。藤倉監督は苦笑交じりに、こう語る。「ウチにはずっと『ここを崩す』みたいなテーマがある中で、いいところで持っているのに打たないという、“帝京あるある”が目に付いたので、今週はミドルシュートやサイドからの攻防をやってきていて、『もう振りなさい。振っていいです』と彼らと話してきたので、ああやって高橋が振ってくれたのかなと。でも、あんなのは見たことないです(笑)」

 実は学校でもクラスが一緒だという宮本は、“クラスメイト”の一撃に笑顔が弾ける。「アレはエグかったですね。僕はクラスが一緒で、席も隣で、普段はずっとふざけているタイプで(笑)、ああいうミドルも持ってるなとは思っていたんですけど、あんなのは初めて見ましたね。でも、アレでだいぶ気持ちも楽になりました」。

 本人の中では、ある程度確信に基づいたチャレンジだったようだ。「藤倉先生からも個人面談で『ミドルシュートを打て』と言われていましたし、インターハイが始まる前にもチームでミドルシュートの練習をやって、意識付けもできていたので、今日はとっさにではありましたけど、そういう意識で蹴れたと思います。いいコースに行っちゃって(笑)、結構自分でも驚きました」。交代で入った高橋がこういう活躍をするあたりに、チームが着実に積み重ねてきた日常の成果の一端が滲む。

 7試合を消化しているプリンスリーグでは、ここまでわずかに1勝と苦戦が続いている中で、粘り強く引き寄せたこの日の白星の価値は小さくない。「今年は去年の『選手権の残像』が残っていて、自分たちも『そうならなきゃいけない』『そうなるだろう』みたいな部分は少なからずあるはずなんです。その中でリーグ戦が始まって、なかなか勝てない中で、『こんなはずじゃないぞ』みたいな、メンタル的なところが整わないまま、この2か月はサッカーをやってきたので、今日は選手たちが落ち着いていたという、そこに尽きるかなと思います」(藤倉監督)

 実力者はそろっている。地力もある。あとは落ち着いて、それをピッチの上で解き放つだけ。苦しみながら、もがきながら、それでもファイティングポーズを取り続けてきたカナリア軍団に、差し込みつつある覚醒の光。2025年の帝京も、いよいよエンジンが掛かってきた。

(取材・文 土屋雅史) 


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Source: 大学高校サッカー

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