[MOM5313]早稲田実FW篠田一(2年)_「一」を足して周囲に「幸せな笑顔」をもたらすスピードスターが「超高速一人カウンター」で後半ATに劇的決勝弾!

値千金の決勝点を叩き出した早稲田実高FW篠田一(2年=FC GONA出身)
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.9 選手権東京都Bブロック予選準決勝 早稲田実高 1-0 国士舘高 味の素フィールド西が丘]

 ピッチに入った時から、必ず自分がヒーローになるつもりだった。おそらくそんなに何度もチャンスは巡ってこない。その瞬間を見極めること。その瞬間を逃さないこと。その瞬間を結果に結び付けること。エンジ色のスピードスターは、その勝負に逞しく勝ったのだ。

「後半は自分が入ったらどういうプレーをできるかを考えていましたし、『この戦況をどうぶち壊してやろうか』というのを考えながらやっていたところはあったので、しっかり1点獲って、自分のゴールで勝てたというのは嬉しかったです」。

 後半開始から投入された、早稲田実高が誇る高速系ジョーカー。FW篠田一(2年=FC GONA出身)は後半アディショナルタイムの土壇場に、大カウンターから決め切った決勝ゴールで、チームを味の素スタジアムのファイナルへと鮮やかに導いた。

 自分に託された役割ははっきりと理解していた。第104回全国高校サッカー選手権東京都Bブロック予選準決勝。国士舘高と対峙する大一番。「今日は監督から『オマエがスタートから出ると後半の切り札がなくなってしまうから、後半からでいいか?』と聞かれて、『大丈夫です』と言いました」と明かした篠田は、ここぞという場面での出場をイメージして、ベンチでキックオフの笛を聞く。

 前半は国士舘に数度の決定機があり、早稲田実は何とか凌ぐ展開に。それでもスコアレスで40分間を乗り切ると、ハーフタイムに背番号19は後半からの登場を言い渡される。「僕はスピードが武器なので、『裏に抜けろ』という指示がありましたし、『もうやってこい』という感じでした」。前線で奮闘した同じ2年生のFW居相虎之介との交代で、篠田は西が丘の緑の芝生に飛び出していく。

 後半も基本的なペースは国士舘。守る時間が長い中でも、集中力は切らさない。いつかやってくるはずの、その瞬間にすべてのパワーを注ぎ込むため、あらゆる神経を敏感に尖らせ、ひたすら、ひたすら、待ち続ける。

 後半40+1分。もう時間はアディショナルタイムに差し掛かっていた。国士舘のロングスロー。もちろん得点を奪われてしまえば、限りなく負けが決まるような局面。篠田の中にも小さくない葛藤が生まれていた。

「相手はロングスローが武器だということはわかっていましたし、これでやられたらもうアディショナルタイムしか残っていないので、難しいなというところで、戻った方がいいのか、前でゴールを狙いに行くのかは考えていましたけど、『やっぱりキャプテンに任せて前に残ろう』と」。後ろは仲間に任せて、自身は前線に残る決断を下す。

 相手のロングスローはニアで引っかかると、キャプテンのMF野川一聡(3年)の足元へ。その野川が「ちょっと前を見たら篠田がいたので、『空いているな』と思いながらスローインを待っていたんですけど、たまたま自分の足元にボールが来て、篠田は足が速いので、浮かせるというよりは転がして速いボールを出してあげようと思って」グラウンダーパスを前方へ送ると、19番は猛然と走り出す。

 状況は追い掛けてきたマーカーとの完全な1対1。「この隣の相手をどれだけ引き離せるかということを考えていたんですけど、相手も速かったですし、簡単にシュートを打たせてくれないことはわかっていました」。ペナルティエリア内で2人は交錯。篠田もいったんは倒れたものの、「PKを狙いに行くという選択肢は僕の頭の中にはなかったです」と素早く立ち上がり、そのまま右足を全力で振り抜く。

 球体が左スミのゴールネットを激しく揺らしたのを見届けると、もう次の瞬間にはスタンドの方向へ走り出していた。「本当に嬉しかったです。決めた後の観客を見たら凄く沸いてくれていて、あの沸き具合は西が丘じゃないと受けられないですよね」。熱狂する応援団。駆け寄ってくるチームメイト。とうとうスコアボードに浮かび上がった“1”の数字。そして、程なくタイムアップのホイッスルが耳に届く。

「もう彼の独力で行っちゃいましたね(笑)。たぶんPKを取りに行ったりしたら絶対に入らなかったですし、あそこでもう1回立ち上がって、サイドネットにぶち込もうという強い気持ちがあったから入った点だと思うので、彼の素晴らしい負けず嫌いな性格が出たんじゃないかなと思います」と野川も称えた2年生ストライカーが、『超高速一人カウンター』から決め切った値千金の一撃が、ピッチとスタンドに最高の笑顔をもたらした。

「いつもヒーローになろうと思っていますし、どうやったらこの状況を壊せるかということを意識してやっています」と口にするだけあって、もともと強気な性格だが、試合に出場する時には、特に意識しているマインドがある。

「試合の雰囲気に溶け込もうという感じで出て行ったら、自分の味も出ないですし、気持ち的にも『この流れに合わせていけばいいかな』となったら、自分のスピードが出なかったりするのかなって。そういう観点で『オレの流れにしてやる』というのを考えていかないと、相手に押されてやられてしまうことがあったので、そういうところをずっと意識しています」。

 早稲田実が2年前に選手権へ出場した時には、まだ中学3年生だった篠田は、最近“あの代”の凄さを体感する出来事があったそうだ。「先週ア式(早稲田大ア式蹴球部)の方々と練習試合をさせてもらって、その時に戸祭くん(戸祭博登・全国出場時のレギュラー)とマッチアップしたんですけど、あのスピードの使い方とか、足元とか、凄いなと感じました」。憧れの先輩から受けた刺激が、晴れ舞台への想いを強くしてくれたことは言うまでもない。

 比較的珍しい名前の「一(いち)」という漢字には、両親からの粋な想いが込められているという。「『一』という名前は、一番になるというのは大前提であって、それにプラスして、『つらい』という読み方の『辛』という漢字があるじゃないですか。それに『一』を足すと、『幸』という字になるので、『一がいると周りにいる人たちが幸せになれるような子になってほしい』という意味があるみたいです。メッチャ気に入っています」。この日の応援席に最高の幸福をもたらしたように、その名の由来を体現する機会は、まだまだ何度でも訪れるはずだ。

 味の素スタジアムで行われる東京ファイナル。全国切符を争う一戦でも、狙うのは試合を決めるヒーローの一択。その意志には微塵の揺らぎもない。「決勝は凄く楽しみです。別に緊張はないですし、あの舞台で戦えるというのは全国の高校生の夢だと思いますし、またヒーローになれるように、流れをぶち壊せるようにやっていきたいですね」。

 オレが流れをぶち壊す。オレが決着をつけてやる。早稲田実が懐に忍ばせる、圧倒的なスピードを有した最終兵器。篠田一は全速力でピッチを駆け抜け、自らが挙げる確かな結果で、エンジ色のスタンドに幸せな笑顔の花を咲き誇らせる。

(取材・文 土屋雅史)


●第104回全国高校サッカー選手権特集
▶話題沸騰!『ヤーレンズの一生ボケても怒られないサッカーの話』好評配信中
Source: 大学高校サッカー

コメント

タイトルとURLをコピーしました