[10.28 選手権東京Bブロック準々決勝 修徳高 2-1 大森学園高 駒沢補助競技場]
「僕らだって延長の準備をしていたのに、こういう大舞台の“ここ”というところでオーバーヘッドを決めちゃうんだから、アレがまさに『選手の力って凄いな』というところですし、まさに『今年のチームには選手たちの力があるな』ということですね」(修徳高・吉田拓也監督)。
千両役者の“オーバーヘッド決勝弾”で劇的勝利!第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準々決勝が28日、駒沢補助競技場で行われ、修徳高と大森学園高が激突。1-1で迎えた後半アディショナルタイムに、エースのFWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄(3年)がオーバーヘッドを叩き込んだ修徳が2-1で競り勝ち、9年ぶりとなる準決勝進出を手繰り寄せた。
前半は修徳が攻勢に打って出る。右からFW豊田海晟(2年)、ンワディケ、FW田島慎之佑(3年)が並んだ3トップを早めに生かすアタックでチャンスを創出。20分には田島の左クロスから、こぼれを叩いたンワディケのシュートは大森学園のGK田中康平(2年)がファインセーブ。28分にもDF中村拓斗(2年)が低いフィードを裏へ通し、走った豊田のクロスに田島が完璧なヘディングで合わせるも、ボールは左のゴールポストに嫌われる。
だが、先にスコアを動かしたのはやはり修徳。34分。ここも右サイドへと展開した流れから、豊田が丁寧なクロスを送ると、「1本目のヘディングがあったので、『相手はああいうところが苦手なのかな』と思って、2回目もああいう同じ入り方をしました」という田島が再び頭で叩いたボールはゴールネットへ突き刺さる。「自分はそれこそ『初めてヘディングで決めた』ぐらいの感じなので、ヘディングはちょっと苦手なんですけど、練習の成果が出たのかなと思います」と笑った10番の先制弾。前半は修徳が1点のリードを手にして、最初の40分間が終了した。
3年連続で“西が丘の準決勝”を目指す大森学園は、ハーフタイムを挟むとアグレッシブに変貌を遂げる。後半3分。右サイドで獲得したFKをMF原田大聖(3年)が蹴り込むと、こぼれを拾ったDF三好将太(3年)が枠内シュート。ここは修徳のGK小森獅音(3年)がビッグセーブで凌いだが、このワンプレーでゲームリズムは反転。
「自陣でビルドアップしすぎて奪われたり、自分たちで失って相手の攻撃を食らうことが多かったので、相手が前から来ていたら背後に蹴るとか、その使い分けがあまり今日は上手くできていなかったと思います」と話したのは修徳のDF山口春汰(3年)。大森学園は2トップのFW和田優哉(3年)とFW高橋優(3年)が果敢にプレスを掛けつつ、とりわけ後半はDF津田旭(3年)とMF大塚匠稀(3年)が縦関係を組んだ左サイドが活性化。6分には津田がドリブルで前線まで駆け上がると、そのままフィニッシュ。小森が懸命に弾いたボールを、和田が詰めた決定的なシュートは枠を越え、ピッチのほぼ全員が頭を抱えたものの、明らかに勢いを増していく。
すると、待望の同点弾は15分。右サイドへ開いた原田が丁寧に上げたクロスから、今度は和田が確実にボールをゴールネットへ流し込む。2度目のチャンスでストライカーが決め切った汚名返上の一撃に、飛び出してくる紫の応援団。1-1。スコアは振り出しに引き戻される。
「危ないシーンはウチのトランジションで、少し意図を欠いたボールから生まれたカオスの時にうまく行かなかったので、人選を変えました」と明かす吉田監督は、次々と交代のカードを投入しながら反撃を期すものの、修徳も前半のような好リズムは生み出し切れず。終盤の37分にはカウンターから途中出場のMF牧村光世(3年)が単騎で運び、田島を経由してMF小俣匠摩(3年)が打ったシュートは、全力で戻った大森学園の右SB川越颯(1年)が身体でブロック。勝ち越しの1点は奪えない。
苦しい展開の中、9番の足はもう攣っていた。それでも狙い続けていたチャンスは、土壇場の40+2分にやってくる。右サイドを駆け上がったDF高橋夏輝(3年)がクロスを上げ切り、ファーで田島が丁寧に折り返すと、ゴールに背を向けていたンワディケの頭にアイデアが閃く。「慎之佑の折り返しのボールが頭じゃなくて下に来た瞬間、思い浮かびました」。
少しだけ浮かせたボールに対し、190センチの身体を倒しながら選択したのはオーバーヘッド。右スミへと向かった軌道は懸命に飛び付いた田中も弾き切れず、ゴールネットへと到達する。
「オーバーヘッドは小さい頃から遊びみたいな感覚でやってきましたし、スペースができたらゴール前ではいつでも狙える状態なので、決まって良かったです。『今、点が欲しい』という時間帯で点を獲ることは、高校に入ってから多いので、たぶん持ってます(笑)」
エースの仕事を完遂したンワディケのスーペルゴラッソで勝負あり。「全員が諦めずに、謙虚にプレーする気持ちがこの結果に結びついたと思います。でも、あのゴールはブライアンのおかげです」と山口も話した修徳が、大森学園の奮闘に苦しみながらも準々決勝を突破し、西が丘で戦う権利を力強く引き寄せた。
今季の修徳の勝ち方には、いわゆる劇的なものが少なくない。4月に開催された関東大会予選の準決勝では駒澤大高と激闘を演じながら、延長にンワディケが決勝ゴールを挙げて、本大会への進出権を獲得。さらに、その関東大会のグループ決勝でも八千代高(千葉)に3点を先行されながら、後半アディショナルタイムの2ゴールで追い付くと、延長で突き放して大逆転勝利。見事な優勝を勝ち獲っている。
「例年以上に勝負強さはあると思いますし、今年はメンバーに3年生が多い分、より勝ちたいという想いもあるので、そこで勝ち切れるのはみんなの力ですし、ベンチメンバー、監督、応援も含めて全員の気持ちがこもっているので、そういうところが今年の良さのかなと思います」と話すのは、1年時から10番を背負って試合に出続けてきた田島。選手たちも自分たちの勝負強さには手応えを感じているようだ。
だが、ここから先ももちろん茨の道。インターハイでは準決勝で國學院久我山高にPK戦の末に敗れ、東京の代表権を掴み取るまでには至らなかったが、まずは次の西が丘での一戦をきっちり突破すれば、10年ぶりとなる冬の全国もいよいよ見えてくる。
「楽しみですね。もう思い切りできますし、修徳としては西が丘で優勝したこともあれば、悔しい想いをした経験もあるので、しっかり最後に良い形で締めたいなと思っています」(吉田監督)「もちろんすべてを懸けて勝ちたいという想いがありますね。やっぱり選手権で全国に出て、できるだけ高いレベルで試合をしてみたいという気持ちはあるので、そのために次も絶対勝ちたいです」(ンワディケ)。
力のある選手たちと、その選手たちを信頼し続ける若き指揮官が紡いできた、東京制覇へのストーリーは最終章と迫りつつある。その頂へと上り詰めるために必要な勝利は、あと2つ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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