[11.5 選手権東京都予選Bブロック準決勝 堀越高 2-1 日大三高 味の素フィールド西が丘]
後半は間違いなく押し込まれていた。点差は1点。いつ追い付かれてもおかしくないような流れの中で、それでも選手たち自身が考えて実行した交代策も含めて、彼らはその時にやるべきことを過不足なく把握し、ただそれを着実に遂行していったのだ。
「自分たちがそんなにレベルが高くないこともわかっていますし、個で何かができるわけではないので、それはウチの伝統というか、この大会になったらそれは割り切ってやるしかないでしょと。変に構えて『絶対にこうしなきゃいけない』となるのではなくて、選手権は内容とかクオリティを見せる大会ではまったくなくて、いろいろなものを背負って、『チームとしてどこまで行けますか?』というところを問われているのだと思います」(堀越高・佐藤実監督)
慌てず、騒がず、1点差できっちり勝利。第102回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック準決勝、2年ぶりの全国を狙う堀越高と、創部以来初となる東京4強へ駒を進めてきた日大三高が激突した一戦は、前半早々に2点を先行した堀越が、日大三の反撃を1点に抑え、決勝へと勝ち上がった。
試合は衝撃のゴラッソで幕を開ける。前半7分。中央右寄り、ゴールまで約25メートルの位置で堀越が獲得したFK。MF仲谷俊(2年)は、もうスポットに立った瞬間から決めていた。「今年に入ってからはずっと練習してきた」無回転キックを繰り出すと、軌道は左スミのゴールネットを一直線に貫く。負傷で10か月近く離脱していた司令塔の完璧な一撃。堀越が1点のリードを奪う。
畳み掛ける紫。13分。日大三のロングスローから一転、相手のミスを見逃さずに高速カウンター発動。中央を力強く運んだFW高谷遼太(3年)が右へ丁寧にラストパスを送り、フリーで走り込んだFW中村健太(3年)は、飛び出したGKの位置を見極めながらループシュートを選択。ボールはゴールへと弾み込む。「最初の入りの10分に気を付けて、そこで相手の流れにならなければ、ゲームは持ってこれると確信していました」というキャプテンの追加点。点差が開く。
「やっぱり西が丘の難しさはあって、より声が通らないという環境の中で、自分たちのラインがちょっと引き気味になってしまいましたね」とキャプテンを託されているDF保坂翔馬(3年)も振り返った日大三は、いきなり2点のビハインドを追い掛ける展開を強いられたが、徐々に落ち着きを取り戻すと、保坂とDF佐竹桜介(2年)のセンターバックコンビや、左サイドバックのDF西澤健五(3年)に加え、中盤アンカーのMF古川千心郎(3年)も加えた丁寧なビルドアップから、右にFW鈴木一心(3年)、左にFW矢嶋翔(2年)を張り出させたストロングの両ウイングへとパスを供給。35分にはMF山田陽生(3年)の縦パスを、FW対馬輝(3年)がワンタッチで背後へ。抜け出したMF清水律希(3年)のシュートは堀越のGK吉富柊人(3年)にキャッチされたものの、攻撃のリズムを掴みながらハーフタイムへと折り返す。
後半に入って、日大三のギアを一段階上げたのは11分のワンプレーだ。相手のビルドアップを果敢に追い回していた山田は、GKへのバックパスにもそのままダッシュ。吉富のクリアに飛び付くと、身体に当たったボールはゴール方向へ向かい、わずかに枠の左へ外れたものの、「言葉は汚いですけど、『相手のペナルティエリアの中では、逆にファウルをしてもウチの失点はないよ』と。『その分、ゴールに向かう最後のところへみんなで入りましょう』ということを、より意識させました」と池村雅行監督。選手たちの心に勇気の火がともる。
執念の結実は18分。DF西村瑠眞(3年)の積極的な攻撃参加もあって、後半はより活性化した右サイドで手にしたスローイン。鈴木が全力で投げ込んだロングスローから、こぼれを拾った対馬はエリア内の密集に突っ込みながら、華麗なステップで3人をかわしてそのままフィニッシュ。ボールはゴールネットへ吸い込まれる。沸騰するピッチとスタンドのピンク。今季の公式戦では、今大会の準々決勝で初めてPK以外でゴールを挙げたという11番が、大舞台で驚異の2戦連発。2-1。たちまち点差は1点に。
ただ、「みんなが主体性を持ってくれていて、自分で責任を持ったプレーや発信をしてくれているので、だいぶ良いチームになってきたと思います」と口にした中村を中心に、堀越の選手たちは極めて冷静だった。ディフェンスリーダーのDF森奏(2年)と、後半から途中出場でセンターバックに入ったDF渡辺冴空(2年)を中心に最終ラインは一定の高さを保ちつつ、ドイスボランチのMF渡辺隼大(2年)とMF吉荒開仁(3年)はセカンド回収を徹底。右のDF竹内利樹人(2年)、左のDF瀬下琥太郎(2年)の両サイドバックは、相手のサイドアタックへ懸命に食らい付き、決定的なチャンスは作らせない。
「堀越は強かったです。帰陣も早いですし、ウチがボールを取ったあとも諦めずにまた取りに来るので、もう1点がなかなか刺せなかったという印象ですね」と池村監督も語った日大三も最後までアグレッシブに攻め続けたが、1点を返したあとは決定機まで作れず。ファイナルスコアは2-1。堀越が逞しく逃げ切って、2年ぶりのファイナル進出を手繰り寄せる結果となった。
この日の堀越には印象的なシーンがあった。1点差に迫られ、終盤に差し掛かっていた後半32分。選手交代の全権を任されているキャプテンの中村は自らベンチへと下がり、同じ3年生のFW高木琉世に後を託したのだ。
中村は「あれはもう自分の両足のふくらはぎが攣っていて、『自分がいても役に立たないな』と思ったので、交代しました」と口にしたが、決勝進出の懸かった最終局面で、キャプテンの自分が交代するという選択肢は、なかなか決断できないのではないかと、傍から見ると思ってしまう。だが、佐藤監督はその交代について、こう話してくれた。
「普通の監督だとキャプテンには『ちょっと我慢しろ』と言うかもしれないですけど、そうするとチームのパフォーマンスが上がらないですし、あの時はもう自分の足が動かないことはわかっていて、中村が自分で判断して出てきたんですけど、アレができないとキャプテンが交代を決めるなんてできないんですよ」。
中村も自身の交代に迷いはなかったそうだが、改めて思い直したことがあったという。「一昨年のキャプテンの宇田川瑛琉くんが言っていたんですけど、『自分が代わる判断も持っておかないといけない』って。今日ここで『もう代わるしかないな』と自分が思ったことで、あの時に瑛琉くんの言っていたことが少しわかった気がしました」。こんなキャプテンがチームを束ねているのだから、それはグループもまとまるわけだ。
2年ぶりの全国出場を巡る最後の1試合へ向けて、中村も想いを馳せる。「ここまで来たらプレッシャーもありますけど、もう楽しむしかないですよね。東京には何百校というチームがある中で、決勝を戦えるのは4チームしかないので、自分たちが勝ってきたチームの分まで気持ちを背負いながら、楽しんでいけたらいいなと思います」。西が丘でのファイナルは11日、13時15分に運命のキックオフを迎える。
日大三の奮戦にも触れないわけにはいかないだろう。初めての東京ベスト4。初めての西が丘。四半世紀近くこのチームを率いてきた池村監督にとっても、この日の光景はとにかく特別だった。
「最高の舞台でした。これだけ昔のOBが来てくれて、やっぱり25年前からずっと抱えていた気持ちを思い出すだけではなくて、高体連の仲間の先生たちがみんな始まる前にも来てくれて、『やっぱり西が丘は“仕事”をするところではなくて、“サッカー”をするところだな』と(笑)。子どもたちが試合をしている奥には、スタンドにOBの姿があって、嬉しかったですね。『やっぱりサッカーをやってきて良かったな』って。『みんなにサッカーをやらせてきて良かったな』って思いました」。
ロッカールームから出てきたキャプテンの保坂は少し赤くなった目で、それでもこう言い切った。「西が丘は最高でした。最高の眺めの中で、やり切ったなと思っています」。最後は情熱の指揮官の言葉で締めくくってもらおう。「負けましたけど、今日はやっぱり楽しかったですね。悔しい想いとはまた違った感情が心の中に出てきますよ。『悔しいけど、また頑張ろう』と思えるような、そんな1日でしたね。楽しかった!」。
新たな歴史を堂々と切り拓いた日大三の選手たちとスタッフに、大きな拍手を。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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