[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.19 高円宮杯プレミアリーグEAST第20節 柏U-18 3-0 尚志高 日立柏総合グランド]
もう“マグネット”がどこに置かれていても、自分の中でやるべきことは変わらない。もちろんそのポジションで求められることは最大限にこなしながら、本来持ち合わせている攻撃的な姿勢を前面に打ち出していく。その上で、結果も付いてきたら、それはもちろん最高だ。
「センターバックだったら、失点しないように守備は頑張って、おまけでゴールが獲れたらいいなと思います。守備は苦手ですけど、攻撃の時には前に行けるので、守備をもちろん頑張りつつ、力はできるだけ攻撃に使いたいなと思います(笑)」。
11番を背負った長身の新米ディフェンダー。DF大木海世(3年=柏レイソルU-15出身)がスタートからは初めてだというセンターバック起用に応える格好で躍動。攻守両面で高いパフォーマンスを発揮し、快勝劇の主役を逞しく担ってみせた。
後半戦はここまで無敗と好調の続く2位・尚志高との上位対決。週明けの紅白戦を前に、自分の“マグネット”が意外なところへ置かれていることに気付く。「またまたビックリしました。中断期間は普通に右サイドバックをやっていて、センターバックは違う人がやっていたので、今週の最初の紅白戦で自分の“マグネット”がセンターバックになっているのに気付いて、『ああ、やるんだ』って。みんな笑っていました(笑)」。
ここで『“またまた”ビックリしました』と言うのには理由がある。今シーズンをフォワードでスタートさせた大木だったが、第8節の大宮アルディージャU18戦では、突如として3バックの右センターバックでスタメン起用。その際にも「マグネットがいきなり一番後ろにあって、メッチャビックリしました」と話していたからだ。
2か月近い中断を挟むと、今度は4バックの右サイドバックが主戦場に。「右サイドバックで守備をやりながら、守備をする人の気持ちがわかった頃に、最終的にはフォワードに戻そうとは思っています。本来は左のウイングが得意なので、相手の嫌なことをしてみようかというところで、彼の成長とパーソナリティを考えてというところですね」と藤田優人コーチも起用の理由を話していたが、この日の尚志戦ではセンターバックに欠場者が相次いだため、11番がそのポジションへと収まることになる。
「相手はロングボールが前半から多くて、あまり一緒に合わせていなかったので、ラインはバラバラだったりもしたんですけど、福島と一緒に声を掛け合いながら、背後のカバーはかなりできたと思います」と話す大木は、センターバックでコンビを組んだDF福島大雅(2年)とともにチャレンジアンドカバーを徹底。やや押し込まれる展開の中でも、落ち着いて相手のチャンスを潰していく。
前半には能力の高さの一端を覗かせるシーンがあった。年代別代表にも入っているプレミア屈指の左サイドハーフ、尚志のMF安齋悠人が得意のドリブル突破を仕掛けてきた際に、「7番(安齋)が代表に入っていて、ドリブルが速いのはわかっていたので、そこは仕掛けてきても飛び込まずに足を残したりして、突破されないようにしようとは意識していました」という大木はまず相手のスピードを減速させながら、タイミングを図ってボールを取り切ってしまう。
活躍は守備だけにとどまらない。1点をリードして迎えた後半32分。右サイドからFW戸田晶斗(2年)が蹴ったFKへ、走り込んだ大木はまったくのフリーでヘディング。左のゴールポスト内側を叩いたボールは、そのままゴールネットへ転がり込む。
「メッチャフリーだったのでビックリしたんですけど、結構綺麗に入って良かったです。もう最高でした。今日もゴールを決めたいとは思っていましたけど、実際に決められるとは思っていなかったので、苦手なヘディングで決められて良かったです」。自ら苦手だという大木のヘディングで貴重な追加点を挙げると、終盤にもう1点を追加した柏U-18は3-0と完封勝利。「今日はちょっと『行けるな。できるな』と思いながらやっていました」という“新米センターバック”は、攻めては自らのゴールに、守っては無失点と大車輪の活躍。見事に難敵相手の快勝に貢献してみせた。
チームは後半戦に入って、7勝1分け1敗と好調をキープ。その中で右サイドバックを任され続けてきたことで、大木の心境にも少しずつ変化が生まれてきているようだ。「今は良い感触なので、このままサイドバックで行けるなら行きたいなとは思います。ちょっと前のポジションに未練はありますけど、たまにサイドハーフとかできたらいいかなぐらいですね(笑)。今は攻撃陣がメッチャ結果を出しているので、自分は後半戦に入ってからはアシストとか、行けたら自分でもどんどん中に入っていって、点を決めたいなとは思っていますけど、結構気持ちの整理はできています」。
藤田コーチも本人の気持ちは十分過ぎるほどよくわかっているが、もちろんその起用は未来を見据えてのものでもある。「守備の駆け引きを覚えてくると、彼の数年後を考えた時に必ず生きてくるだろうと。あくまで今じゃなくて、彼の未来を考えた時にという起用です。でも、この世代の中では運動能力的なポテンシャルは一番あるので、僕は個人的にはサイドバックの方がプロもあるかなと思っています」。新たなポジションへ積極的にトライしていることで、これからの選択肢が広がりつつあることは間違いない。
残されたプレミアリーグの試合は2試合だけ。U-15からこのクラブに加入した大木にとっても、レイソルアカデミーの集大成となる最終盤の戦いへ挑んでいく。「最後は2連勝して終わりたいですね。サイドバックの時も結構前に上がっているのに、センターバックになったら決められたのもちょっと不思議です(笑)。今度はサイドバックでも点を獲りたいですね」。
もう“マグネット”がどこに置かれていても、自分の中でやるべきことは変わらない。右サイドバックでも、センターバックでも、あるいは本職のフォワードでも、大木はその時に任された役割を着実にこなしつつ、11番らしくゴールという結果も虎視眈々と狙い続ける。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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