[11.19 高円宮杯プレミアリーグEAST第20節 柏U-18 3-0 尚志高 日立柏総合グランド]
とにかく彼らは楽しそうだった。攻撃している時はもちろん、相手の攻撃にさらされても、守備陣は身体を投げ出し、水際で食い止め、大声でチームメイトを鼓舞する。得点を獲ってしまった時なんて、メンバーに入っていない選手まで歓喜の輪に突っ込んでくる。それはきっと、この10か月近くみんなで苦しんできた時間が、確かな成果として現れ始めているからだ。
「選手たちはトレーニングから意欲的にやってくれていますし、生まれたゴールも『トレーニングでやったことってこういうことなんだな』と実感できるようなものだったと思うので、選手がやっていて一番楽しいんじゃないですかね。僕もあまり感情を持つことがいいのかわからないですけど、指揮していて楽しいですし、選手も見ていて『楽しそうだな』というのを感じます」(柏レイソルU-18・藤田優人コーチ)。
後半戦無敗の難敵に圧巻の快勝劇。19日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第20節、4位の柏レイソルU-18(千葉)と2位の尚志高(福島)が激突した上位対決は、MF黒沢偲道(2年)、DF大木海世(3年)、FW吉原楓人(2年)がゴールを重ねた柏U-18が3-0で勝利。優勝争いを繰り広げている尚志にとっては、痛恨の敗戦となった。
序盤はアウェイチームの流れだった。「前半は『きっちり対策されているな』という感じもして、ビルドアップにちょっと苦戦したところもありましたね」とは柏U-18の左サイドバックに入ったDF関富貫太(3年)。尚志はDF渡邉優空(3年)とDF市川和弥(3年)の両センターバックが、対角も含めてフィードを送り込み、FW網代陽勇(3年)を基点に、右のMF若林来希(3年)と、左のMF安齋悠人(3年)を走らせるアタックを徹底する。
また、網代とFW笹生悠太(3年)の2トップからプレスを掛け、相手のビルドアップを巧みに制限。15分には高い位置での奪い返しからMF藤川壮史(3年)がこぼれを拾い、最後は安齋が放ったシュートはDFに当たってわずかに枠の上へ。23分にもGKを高い位置に押し出した相手のビルドアップを引っ掛けた笹生が、無人のゴールにロングシュート。ここは懸命に戻った柏U-18のGK沖田汰志(2年)が何とか掻き出したものの、あわやというシーンを創出する。
だが、30分を過ぎると柏U-18も右の黒沢、左のFW吉原楓人(2年)の両サイドハーフにボールが入り始め、セットプレーの回数も増加。少しずつ攻撃の時間を作り始めると、38分にはロングカウンター発動。相手CKをキャッチした沖田が素早くスロー。ドリブルで運んだMF田村心太郎(3年)が左へ流し、FW戸田晶斗(2年)のクロスに飛び込んだ黒沢のダイレクトボレーが、豪快にゴールネットへ突き刺さる。「ボールが良かったですね。ピンポイントだったので、シュートを打とうかなと。完璧でした」と笑った25番のフィニッシュで、まさに『日立台の約14秒』完遂。柏U-18が1点をリードして、最初の45分間は終了した。
後半に入って、先に決定機を掴んだのは柏U-18。13分。左サイドの高い位置で収めたFW近野伸大(3年)の柔らかいラストパスから、吉原が放ったシュートは果敢に飛び出した尚志のGK角田隆太朗(3年)がファインセーブ。ここまでリーグ最少失点を誇る守備陣の意地。追加点は許さない。
以降は再び尚志が攻める。18分。市川のインターセプトから、藤川のパスに反応したDF白石蓮(3年)の決定的なシュートは、わずかにゴール右へ。20分にも若林の完璧なスルーパスから、抜け出した安齋のシュートは沖田がビッグセーブで弾き出し、詰めた網代のシュートは「ここで点を獲られたら相手のペースになってしまうので、最後の最後で身体を張ることは意識していました」というDF伊達歩由登(3年)が身体でブロック。同点弾は許さない。
すると、次の得点もホームチームに。32分。右サイドで獲得したFK。戸田が正確なボールを蹴り入れると、フリーで走り込んだ大木のヘディングは、左のポストを叩いてゴールへ吸い込まれる。「ヘディングは苦手なんですけど、入って良かったですよね」と笑った“11番のセンターバック”が攻撃面で大仕事。2-0。点差が開く。
こうなると太陽王子は手が付けられない。とどめは45+1分。前掛かった相手のミスを突き、ボールを奪った吉原が田村とのワンツーで左サイドを運び、カットインでマーカーを剥がしながら右スミへグサリ。指揮官も日頃の積み重ねの努力を認める19番のゴールで勝負あり。
「ロースコアのゲームになると思っていたので、得点はもう本当にご褒美のようなもので、いつも言っている『守備は相手が面倒くさいことを徹底しろ』ということを選手が90分通してやってくれたことが素晴らしくて、うまく相手の傾向や選手個々の特徴を見ながら、こちらの意図する部分と選手の考えを共有できたかなと思います」(藤田コーチ)。上位対決を3-0と鮮やかに制した柏U-18が、堂々と4連勝を飾る結果となった。
「強いですよね。選手が頑張っているので」と試合後に藤田コーチが語ったのは率直な感想だろう。後半戦の柏U-18はここまで7勝1分け1敗。第14節では首位を快走している青森山田にアウェイで5-3と打ち勝ち、この日の勝利で現在は4連勝中。しかも9試合で29得点を奪うなど、とにかく選手たちが楽しそうに躍動しているのが印象的だ。
とはいえ、彼らは決して順風満帆なシーズンを送ってきたわけではない。前半戦の11試合では2勝5分け4敗となかなか勝ち点を伸ばせず、降格圏ギリギリの10位に沈んでおり、昨年あと一歩で届かなかった日本一を明確に目指して臨んだ夏のクラブユース選手権は、関東予選でまさかの敗退。全国大会に出場することすら許されなかった。
ただ、チームの指揮を執ってきた藤田コーチは、「たぶんレイソルアカデミー史上、一番キツい3年間を過ごしている選手たち」を信じていた。現役引退後、柏に指導者として戻ってきて、初めて担当したのが今の3年生の世代。伊達は「一番最初の藤田さんの練習の時に天然芝のグラウンドで走ったんですけど、それがキツ過ぎて、自分は時間内に全然入れなくて(笑)。でも、高1から3年間ずっと走ってきたことで、だんだん走れるようになってきて、結構メンタルも強くなったかなと思います」と笑顔で振り返る。
もう戦うために必要なベースは2年半で叩き込んだ。あとは選手たちの内側から出てくる、サッカーに対する欲求をポジティブな形で表出させるのみ。伊達が興味深いことを教えてくれた。「前期は4-3-1-2で結構戦術的にやっていたんですけど、後期からは4-4-2になって、ピッチの中で自分たちで意見を出し合って、コーチが言わなくても自分たちでやれるようになってきていると思います」。
もちろんそれは藤田コーチが仕向けていることでもある。「相手がたとえば4-4-2で来た時に、今のサッカー的なセオリーがあるじゃないですか。『4-4-2だったらこういうポジションを取って守るよ』と。そういうことは言わないです。ただ、今の子は形だけで解決するところがあるので、それこそ相手が『どういう形?』って思うような、捉えられない形でやるようにしていますね。相手はわかっていないけど、こっちがわかっているような」
「ウチの子たちはそれもトレーニングから繰り返せば理解できます。『こうなればこうなるんでしょ。じゃあここが空くよね』というのは、レイソルの子なので理解できるんです。ジュニアとジュニアユースでしっかりとした指導を受けてきているので、そのへんに関してはまったく苦労していないです。今までの指導者のおかげだと思います」。
結果が出ない時に、おそらく指導者の本質が覗く。藤田コーチが『手を加え過ぎない』という手を加えたことで、柏U-18の選手たちは自主的に考え、話し合い、前へと進んできた。明らかに結果が付いてきている後半戦と、苦しんだ前半戦の違いを問われた伊達は、しばらく考えたのちに「そんなに大きく雰囲気も変わったわけではないですけど……、みんな良い雰囲気でやれているかなと思います」と口にしている。きっとそれも率直な感想だ。
2点目と3点目が入った時。アップエリアの選手へとスコアラーが駆け寄り、歓喜の輪ができると、いつの間にかピッチの外で試合を見ていた、おそらくU-15年代の選手たちもその中に笑顔で加わっていた。中学生たちが思わず“お兄さん”たちの喜ぶ中に入りたいと思うような雰囲気が、今の柏U-18には確かに漂っている。
「毎日面白いですよね。やっぱり自分はなりたくて指導者になりましたし、大人と違ってすぐに変化するので、毎日毎日面白いです。彼らがそう思わせてくれているので、こっちも彼らに育てられているなという感触がありますよね」(藤田コーチ)。熱血コーチに率いられ、自分たちで輝き始めた太陽王子たちの最終章。この勢い、もはやそう簡単には止まりそうにない。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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