[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.3 高円宮杯プレミアリーグEAST第22節 川崎F U-18 1-2 尚志高 等々力陸上競技場]
守備だって、全力で前からプレスを掛け続ける。攻撃の基点だって、身体を張って作り続ける。でも、すべてはゴールするために必要なことからの逆算。最後に結果を出すのは、いつだってオレの仕事だという信念に微塵もブレはない。
「このチームには切磋琢磨し合える良いフォワードがたくさんいて、練習中から笹生(悠太)や(桜松)駿が点を獲ったら悔しいですし、たぶん彼らもそう思っているので、そういうところが自分たちの成長に繋がっているのかなと。もちろん勝つのは嬉しいですけど、自分のゴールで勝ちたいと思っている、エゴが強い3人だと思うので、そういうところもフォワードとしては重要かなと思います」。
2023年の『尚志の9番』を背負う、優れた得点感覚を有するストライカー。尚志高(福島)を前線で牽引するFW網代陽勇(3年=1FC川越水上公園出身)の決勝ゴールが、チームにプレミアリーグEAST2位という大きな勲章を力強くもたらした。
2位の川崎フロンターレU-18(神奈川)と対峙した、リーグ最終節。どちらも優勝の可能性を残した試合は、3位の尚志がFW笹生悠太(3年)のゴールで先制したものの、以降は相手の攻撃にさらされ続ける。そんな状況下で「前半はボールを握られていて、チームとして苦しい時間が続いていて、ハーフタイムに『後半は耐えていれば1本のチャンスが来るぞ』ということだったり、『フォワードの2枚が収めて時間を作れば自分たちのペースになる』と言われていました」という網代は、いつも通りのハードワーカーぶりで前線からの守備も怠らない。
仲村浩二監督からの信頼も、とにかく厚い。「10番の若林も含めて、2トップが相当な運動量だったと思うんですけど、本当によく持ったなと。あの2トップに桜松も含めて、彼らじゃなければこのプレミアは戦えなかったんじゃないかなと思います」。攻守でチームに貢献するのはもはやデフォルト。その中で来たるべき瞬間を虎視眈々と狙い続ける。
その時は終盤にやってきた。同点に追い付かれ、1-1で迎えた後半37分。右サイドでDF冨岡和真(3年)のパスを受けたMF若林来希(3年)が丁寧なクロス。MF藤川壮史(3年)のシュートがDFに当たったこぼれ球が、目の前に転がってくる。「ファーストタッチで良いところに置けて、あとは思い切り振り抜きました」。ボールの落ち際を右足で叩いたボレーは、ゴールネットへ豪快に突き刺さる。
「ワントラップしたんですけど、監督に『ボレーする時はボールを最後まで見て、下に落としてから振れ』と言われていたので、それが体現できたらドライブが掛かって、凄く良いゴールが決まりました」と笑顔で振り返った9番は、悠々とチームメイトが待つ歓喜の輪の中に歩み寄っていく。
「そのまま走っていこうかなと思ったんですけど、自分は前半から結構守備もしていて、足に“来ていた”ので、走っていくことはできなくて、ゆっくり歩きながらチームの仲間と喜び合えたのは良かったですね」。
引き分け以下で優勝の可能性がなくなる前節の横浜F・マリノスユース戦は、後半アディショナルタイムに途中出場のFW桜松駿(3年)が決勝ゴールを奪って、4-3で勝利。しっかり2点を挙げていた自分の存在が霞んでしまっていたことは、感じていたという。
「マリノスの試合も自分は2点決めていたんですけど、最後に駿に全部持っていかれたので(笑)、『今日はオレがやってやろう』という気持ちで、最後に勝ち越しゴールを決められたので良かったです」。最高の仲間であり、最高のライバルと切磋琢磨し続けてきた1年間の努力が、大事な試合で勝利を手繰り寄せるゴールという形で見事に結実したのだ。
前日に動画で見た“先輩”の活躍も、小さくない刺激になっていたという。「プレーオフはちょうど移動中で、あとでゴールを動画で確認して、『凄いな』と思いました。自分だったらたぶん臆してPKは蹴れないですね」。“先輩”とはもちろん、J1昇格プレーオフ決勝で東京ヴェルディを昇格に導くPKを決めた染野唯月のこと。もともと進学のきっかけになった染野のことを問われ、口にした言葉が振るっている。
「自分がこの高校に入学してきたのは、染野選手の97回大会の青森山田に対するハットトリックを見たからで、『ここに入学したい』という想いを芽生えさせてくれた偉大な先輩です。あの人は高校2年生の時に山田からハットトリックしたり、大会得点王という結果を残していますけど、あの代はベスト4という結果で終わってしまったので、個人としては染野選手を超えられるような得点数を挙げたいですし、自分たちは日本一を獲って、『オレたちの方が上だったぞ』ということを証明したいです」。強気なフレーズに根っからのストライカー気質が滲む。
リーグ戦では青森山田に一歩及ばず、2位という結果が残ったが、シーズン前に残留を掲げていたことを考えれば、大躍進と言っていいだろう。そしてここからは高校生活最後の晴れ舞台が控えている。改めて選手権への意気込みを問うと、やはり強気な言葉が返ってくる。
「プレミアリーグという舞台をプレゼントしてくれたのは、去年の3年生の活躍があったからですけど、この2位という結果は自分たちの代で出せた結果だと思うので、自信を持って選手権に挑みたいですし、寮生活でも大浴場の中でみんなが集まったら、歌い出したりするぐらい今年の3年生は凄く仲が良いので(笑)、このまま日本一を獲って高校生活を終わりたいなと思います」。
きっと、信じている。日本の高校生で一番最後までトレーニングを重ね、次の試合に出る権利を最高のライバルと全力で争い、その上で国立競技場のファイナルでゴールを決めるのは自分だと、『尚志の9番』を託された網代は信じている。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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